1994年7月に起こったシューメーカ・レビー第9彗星(SL9)の木星衝突で、木星面に黒々とした衝突痕が出現したことは、まだ記憶に新しいことだろう。SL9が分裂していたため衝突は約1週間続き、また東西の風にのった衝突痕は引き伸ばされ、数日間から1.5ヶ月もの間、木星面に観測することができたのである。
さて、このような大型天体の衝突が過去にあったかどうか、また記録が残っているかどうかを、アマチュア天文家の田部一志氏、国立天文台広報普及室の渡部潤一氏らがフランスのパリ天文台で調査し、1690年のカッシニの木星観測スケッチの中から、SL9の木星衝突時に出現した模様に酷似したものを見つけた。 このスケッチは、"Nouvelles d'couvertes dans le globe de Jupiter"(木星球面における影についてのニュース)という文献にあり、その黒い影は12月5日、14日、15日、16日、19日、23日に観測され、変化の様子がこくめいに描かれている。カッシニの観測を正確なものとするならば、影の直径は5日で約7,500km、12月23日には東西に約35,000kmまで伸びたと田部氏は見積っている。また、影の模様の変化がSL9のときと同様に成層圏の東西流の影響によるものなのかどうかをコンピューターでシミュレートしたところ、きわめてよく再現することができ、カッシニのスケッチが木星への天体衝突をとらえていることがほぼ間違いないことがわかった。 今回の調査での功績は、単に過去の木星への天体衝突の記録を見つけたというだけではない。カッシニの時代では、影がどのような理由で生じたものか不明だったが、300年たった現代の科学をもって解明されつつある。このことは、現代では謎とされている事象でも、しっかりとした記録をとっておけば後世の研究に役立つ場合もあるということが考えられる。また今度の田部氏の活躍により、研究のテーマによってはアマチュアでも充分に天文学的に重要な発見が可能である、ということもうかがえる。(編集部・秋元宏之) |