未だ記憶に新しい、1994年7月に起きたシューメーカー・レビー第9彗星(SL9)の木星衝突。現代人が初めて遭遇したこの大イベントは、非常に稀な現象であると思われていた。ところが、日本天文学会会員の田部一志さん、国立天文台の渡部潤一さんらのグループによる研究の結果、同様な現象が1690年にも観測されていたことが判明、天体衝突についての研究に一石を投じることになった。
今回の研究が行なわれたきっかけは、「木星への天体衝突現象が人類の目にふれたのは、今回が本当に初めてなのだろうか?」という疑問からだったという。天体望遠鏡による木星の観測が開始されてから約400年。微小天体の木星衝突の確率は最も高い人で240年に1回とするから、過去に観測されていても不思議ではない。そこで、過去の木星観測記録を徹底的に調べてみることにした。 その手始めとして昨年夏、フランス・パリ天文台を訪れて、保存されている1600年代から1700年代までの木星の観測記録にあたってみた。すると、土星の輪の”カッシニのすきま”で知られるフランスの天文学者カッシニの木星観測報告書から、SL9の衝突痕に酷似した現象の記録が発見されたのである。 観測は、1690年12月5日・14日・15日・16日・19日・23日の18日間にわたって行われた。カッシニはその正体についてはわからないものの、5日に突然出現した斑点の変化を詳細にスケッチとして残している。 最初、直径約7500kmの円形だった斑点は、しだいに東西方向に伸びて23日には約35000kmまで長くなった。これは、SL9の中規模の痕が変化していく様子によく似ており、18日以上観測可能であったことも一致している。また、その時間変化は木星の成層圏の東西流に衝突痕がのって引き伸ばされていくシミュレーションとも一致しており、これらのことから斑点が衝突痕である可能性が極めて高いという結論に達した。 過去の観測記録から木星への天体衝突現象を探ろうという試みは、何も今回が初めてではない。以前にも何人かの人が過去の記録にある、それらしい現象を指摘はしていた。しかし、今回決定的ともいえる記録を発見できたのは、古い記録が多く残るパリ天文台に直接足を運んで根気よく調べたため。そして、カッシニが継続的に、詳細な観測を行って記録を残しておいてくれたからだ。これによって、「モデルが2つだけなので240年に1回と言うわけにはいかないが、木星への天体衝突が予想以上に頻繁に起こっていることが確認できた」(渡部潤一さん)のである。 天体望遠鏡を使うことなく成し遂げられた今回の大きな研究成果は、日本天文学会欧文報告誌の1997年発行の第1号に発表された。研究グループでは今後も、衝突痕が記録された過去の観測記録の発見を目指すという。 |