●木星レポート:南温帯領域の注目すべき三重会合
皆さんへ、
世界中の観測者達は、白斑BAと白斑AWOとSTB断片(STB Remnant)の
注目すべき相互作用をカバーするという素晴らしい仕事を行ってくれた。
Fabioの画像からそれが6月17日に始まったことが分かって以来、現象は
速やかに進行した。初期的なレポートと多くのベスト画像集を添付する。
いろいろな大陸からの連続した自転の画像はとても重要である。
【サマリー】
南温帯領域の3つの長命な模様の会合によって、2つの高気圧性循環気流
(BAとその後方の白斑)の速やかなマージと、予想もしていなくて過去に観測
されたことがない低気圧性循環気流(STB断片)内の発光が引き起こされた。
これらのイベントは南熱帯領域で観測される現象の小型版のようである。
マージは2008年の大赤斑(GRS)と小赤斑(LRS)とのマージに似ているかも
しれないが、一方STB断片内のアウトブレークはSEB復活のアウトブレークの
小型版である。
Brian Combsから先ほど別の高解像度が送られてきたが、STB断片内の活発
なアウトブレークはなおも継続している。
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Jupiter in 2010: BAA Jupiter Section bulletin:
『南温帯領域の3つの長命な循環気流の会合』
A triple collision of long-lived circulations in the S. Temperate domain:
John Rogers
南温帯領域の3つの長命な模様の会合によって、2つの高気圧性循環気流
(BAとその後方の白斑)の速やかなマージと、予想もしていなくて過去に観測
されたことがない低気圧性循環気流(STB断片)内の発光が引き起こされた。
これらのイベントは南熱帯領域で観測される現象の小型版のようである。
マージは2008年の大赤斑(GRS)と小赤斑(LRS)とのマージに似ているかも
しれないが、一方STB断片内のアウトブレークはSEB復活のアウトブレークの
小型版である。
◆序章
BAは2004年に前の大きな白斑のマージによって形成された。小さな高気圧性
白斑(AWO)は短期的にBAの後方に存在していて、2008年に置き換わった
けれども、現在の小白斑はおそらく2004年に起源を持つ。STB断片も2004年
に出現した、淡い薄青色の低気圧性循環気流である。
南温帯領域には常時2-4個の巨大スケールの循環気流複合体があり、それ
ぞれは1個以上の長命な高気圧性あるいは低気圧性循環気流から構成され
ている。2003-04年には、これらは
(1) BAとその後方の小さなAWOと関連するSTBセグメント
(2) STBの暗い低気圧性セグメント
から構成されていた。複合体(2)はBAの後方まで次第にドリフトして、複合体
(1)の一部になった。同時に複数の新しい白斑が反対側に出現して、STB断片
内部で発達した。これらのイベントが今年繰り返されている。すなわち、今度
はSTB断片がBAの後方までドリフトして、この会報に記述したイベントを引き
起こした。一方、新しいSTBの暗セグメントが反対側で目立ってきている。
◆観測結果と議論、2010年6月
BAとAWOとを分けていた低気圧性暗斑は2009年にかなり縮小して、その最後
の痕跡は2010年5月に消失した。その時に、STB断片の前端はすでにAWOと
接触していた。AWOの形は不安定に見えるが、一方暗いストリークがSTB
断片の周囲を取り囲み始めた。Chris Goが述べるように、5月31日にAWOは
BAにさらに接近し、マージは今すぐにでも起こりそうだった。6月初めにBAの
右上に暗い青灰色の物質を割り込ませ続けるというSTB断片との相互作用の
後で、6月17日にマージは明らかに進行中であった。6月17日のFabio Carvalho
の画像では、AWOはBAの南側に回り込むかあるいは割り込んでいた。6月19日
のDon Parkerの驚くべき画像では、多くのことが非常に速く起こっていた。
◆BAとのマージ
6月19日には、小さなAWOはもはや見ることができなかったが、BAにはその
オレンジ色の周りに通常でなく目立った白味がかった環が見られた。このような
環は画像処理によって誇張されるかもしれないけれども、Don Parkerの画像と
同様にWayne Jaeschkeの画像に見られ、これはおそらくマージのサインであろ
う。しかし6月21日と22日には、BAは北前方に赤味がかった"衛星"を伴って
歪み、Anthony Wesleyのメタン画像では傾いて見える。その後はBAに明白な
非対称は無くなっているが、コントラストはかなり低く、外形はシャープでない。
◆解釈
BAとの初期の接触で、AWOはSTB断片によって押されたようで、BAの反時計
回りの循環気流に引かれたのは間違いない。しかし、連続した画像でははっ
きりとした軌道の動きは見られない。A. Sanchez-Lavegaのグループおよび
我々が記述しているように、このマージは同じサイズの白斑同士のマージに
似ていないと提案する。確かに、近年観測されたいくつかのマージのうちで、
これは大きい白斑と小さい白斑のマージであった。巨大スケールの例は
2008年の大赤斑と小赤斑のマージである(webサイトのレポート参照)。今回
のマージはまさに大赤斑-小赤斑のマージと同様であると解釈できる。6月
17日にAWOはBAの周りで反時計回りに引きずられ始めた。6月19日には、
AWOはBAの周りの分かっていないループ(環)の中で引き伸ばされたが、
それからその大部分はBAの前方に出現し(衛星)、6月23-26日の最終的な
マージで後ろに引き戻される前にはその前方で数日間は留まっていた。
◆南南温帯領域を横切って伸びるストリーク
また、6月19日には新しい明暗のストリークがBAの南端に見られ、どうやら
進行中のマージによって作られた攪乱のようだ。珍しいことに、暗いストリーク
が次週に南後方に伸びて、第2のストリークと平行になった。そして、2本の
斜めのストリークが南南温帯領域の幅全体を占めた。
◆解釈
方向から、暗いストリークはSSTBsの後退ジェット気流に乗っていることが
分かる。強いジェット気流として記録されたことはないけれども、このような
緯度の幅広い範囲で活動するとは予想できなかった。
◆STB断片でのアウトブレーク
WO2と名付けられた今回の注目すべきアウトブレークは、6月17日に小さな
明るい白斑として初めて記録され、Don Parkerの画像で白斑が可視光・UV・
メタンバンドで極めて明るいことが分かって、6月19日に注目を集めた(Wayne
JaeschkeとMichael Phillipsによるほぼ同時刻の低解像度RGB画像で確認された)。
WO2はSEB復活の発生源と同様な噴出プルームと思われる。確かに次の週に
かけて、発生源のように発達した。添付画像に示す模様は以下の通りである。
【発生源のプルーム】
可視光では、現在も残っているが、しばしば複数である。プルームはSTBsで
いくつかの小さな白斑に分離して、さらにSTB断片内部の一連の明るいスト
リークに拡がっている。メタン画像では、増え続けるストリークもメタンブライト
であるように、6月26日までいくらかメタンブライトであったが、次第に淡く拡がって
いる。
【STBsの白斑】
白斑のいくつかは発生源のプルームの隣に出現し、おそらくSTB断片の南端を、
すなわちSTBsジェット気流でめったに見られない後退ジェット気流を後退した。
少なくとも最初の白斑はメタンブライトであった(Wesley、6月21日)。6月23日まで
STBsには3個の白斑の並びがあったが、STB断片の後端を通過する前に消え
たようだ。
【STBsの暗斑】
最初の白斑の後方を追いかけたのは、小さくて非常に暗い青味がかった暗斑で、
6月25日までにさらに目立ってきた。確かに、DL2=約+3.7度/日で後退していて、
STB断片の後端に近付いた6月26-27日には約+2.4度/日に減速した。
(Guy Stringfellow博士とGlenn Orton博士は我々のデータを補完するNASA-IRTF
のメタンバンド画像を持っている。)
◆解釈
WO2のようなメタンブライトなものは低気圧性のベルトにかつて記録されたことが
ない。しかしながら、SEBやNEBのプルームは控えめにメタンブライトであり、
2007年6月5日のHST画像でSEB復活の発生源に見られた新しいプルームは
最も明白で、これは可視光と同様にメタンとUVでも明るかった。WO2はSEB復活
の発生源と同様に噴出するプルームであるように思われる。確かに、小型スケール
であること、新しい白斑がオリジナルの発生源や周辺で繰り返し出現すること、
隣接する後退ジェット気流上に白斑や暗斑を放出すること、というような振る舞い
を見せた。
後退暗斑について測定された速度は、このジェット気流には異常に高く、探査機
データの約+1度/日に達する。これはおそらくSTB断片の内部ではジェット気流が
より速いからである。
衝突した日に始まったので、噴出は隣接した高気圧性白斑の衝突によって引き
起こされたようであった。しかしながら、そのような噴出はSTB断片がちょうどBA
と接触した時にとにかく起こっている可能性もある。STB断片(閉じた低気圧性
循環気流と考えられる)は、BAの後方で通常の跡を形成する乱れた低気圧性
ベルトセグメントに変化したようである。
同様な噴出は低気圧性循環気流に記録されているが、メタンバンド画像が無い。
SEBでは、強力なアウトブレークが低気圧性バージ内部から出現するのが見られた
(1979年、2007年、おそらく他にも)。SSTBでは、ボイジャー2号の画像から低気圧性
白斑がそのような噴出によって混沌としたフィラメント領域に変化するのが見られた。
低気圧性ベルトでのこのようなメタンブライトな噴出は非常に珍しいと考えられるが、
しかし1日ぐらいしか高輝度なメタンブライトは残らないから、Don Parkerがまさに
その時間に高解像度メタン画像を撮影できたのは幸運であった。
この興奮するイベントのこのような完璧な高解像度記録を集めることができて、
全ての観測者におめでとうを言う。名前は添付画像にリストしている。画像は
含まれていないが、それにもかかわらず歓迎すべき観測者に感謝する。
John H. Rogers
Jupiter Section Director,
British Astronomical Association
ALPO-Japan Latest Jupiter Section