今シーズンの木星は赤緯が低いために、南中時でも高度は30度ほどしかなく、大気の乱れの影響を大きく受けてしまいます。そのために、高精細な画像は南半球や赤道近くの観測者に頼るしかありません。特に、オーストラリアの観測者達の画像には目を見張るものがあります。
◆速報:NTBs outbreakの発生
2007年3月27日、ブラジルのFabio Carvalho氏からNTB(北温帯縞)南縁のI=47.5度(LS1)とI=103.4度(WS2)に輝く白斑をとらえた画像の報告がありました(画像1)。続いて、3月29日にオーストラリアのZ.Pujic氏から白斑LS1がI=38.0度に前進し、さらにI=47.2度にも新たな白斑が発生し、その間に暗斑が発生した画像の報告がありました。
画像1 NTBs outbreak NTB復活の引き金となる輝く白斑LS1とWS2 撮影/F.Carvalho(ブラジル、25cm反射)、Z.Pujic(オーストラリア、31cm反射)(拡大) |
NTBは2002年12月に14年ぶりに淡化して4年が経過しています。いつNTBが復活しても不思議ではない状態が続いていました。このような時に、NTB南縁に明るい白斑が出現すると、その後劇的にNTBが復活するNTBs outbreakが発生したと思われます。
この現象の先行白斑(LS1)は第1系に対して-5.3度/日のドリフトを示し、自転周期は9h46m58sとなりました。この緯度には3つの気流があり、過去の平均自転周期が求められています。
北温帯流-D | 9h46m52s | 北温帯流-C | 9h49m17s | 北温帯流-B | 9h53m08s |
今回の先行白斑は北温帯流-Dに非常に近く、過去に発生したNTBs outbreakで観測されている木星面で最速のジェット気流として知られているものです。今後は、先行白斑の後方に数多くの白斑や暗部が急速に出現し、1‐2ヶ月のうちに全周に波及していくものと思われます。
@南熱帯撹乱
2007年1月11日に、Fabio Carvalho氏(ブラジル)の画像で見つかった南熱帯撹乱は、II=0度の暗柱が最初の観測でした。ところが、II=220度にも同様な暗柱の発生が観測され、過去に誰も観測したことがない同時に2ヵ所で発生した南熱帯撹乱となりました。前回の発生は1993年のことで、実に14年ぶりの現象です。
画像2に示すように、第1撹乱(STrD-1)は、1月はSTB白斑BAの前方に位置していましたが、2月に入るとBAが前進するに合わせて前端部も少しずつ前進を続けていきました。3月もその様子は変わらず、STrD-1の暗柱はちょうどBAの真北に位置しています。STrD-1の後端部はほとんど停止しているために、STrD-1の長さが3月末には30度を越えています。第2撹乱(STrD-2)は、2月まではII=220度で停止していましたが、3月に入ると少しずつ前進を始め、長さも20度ほどに成長しました。
両方の撹乱とも、SEB(南赤道縞)の南縁が台形状に盛り上がっていて、その前端部から暗柱がSTB(南温帯縞)北縁まで伸びています。南熱帯撹乱を特徴づける循環気流はすでに形成されています。
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画像2 南熱帯撹乱の成長 |
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提供/上段はNASA(New Horizons)、それ以外は月惑星研究会
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A南赤道帯撹乱
近年の南赤道帯撹乱SEDの活動は、2000年に活発な様子が観測されましたが、その後は2004年と2006年に弱い活動が観測されています。2000年の観測では、SEDが大赤斑を追い越した際に活動が活発になりましたが、しばらくすると活動が弱まる、を繰り返しました。今シーズンのSEDの活動はこれまでと異なり、全周にわたって活発な白斑の活動が見られます。また、SEBnからEZsに白雲が流れ込む(吹き出す)様子が観測されています。2月下旬からSEDのメインである大白斑のさらに前方に、新たな白斑が形成されました。この2つの白斑とその間の2つの暗部が、新たなSED複合体を形成しています(画像3)。
EZsの大白斑は、第1系よりやや遅い9h51m18sの自転周期を示しますが、これは第2系に対しては-193度/月(1日あたりは-6.43度)のドリフトになります。したがって、このEZsの大白斑は、約55日間隔で大赤斑を追い越して行きます。
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画像3 南赤道帯撹乱(SED)の変化 |
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画像4 2007年3月28/29/30/31日の木星展開図 撮影/月惑星研究会(拡大) |
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