日没後の空には、西から金星、木星、土星、火星がずらりと勢ぞろいしています。 主役は何と言っても7月31日に15年ぶりとなる大接近を迎えた火星でしょう。
ここでは7月半ばから8月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。
火星は最接近を過ぎました。 大接近らしく大きな視直径の火星を見るのは久しぶりのことでした。 しかし、天文ファンの期待をよそに大規模なダストストームが発生し、一般の人が注目するころには眼視で見ると、火星は赤く模様のない球になってしまいました。
5月30日に発見されたこのダストストームはみるみる間に大きく広がり、約2週間半でほぼすべてを覆いつくしてしまいました。 発生地点は過去の名称で言うとアキダリウム(地形図ではCryse Planitia)でした。 ここは標高の低い平原であり、火星面の中でも水蒸気の多いところとして有名な地域です。 火星面の中でもダストストームの発生がよく起こる地域での発生でした。
同じような大規模なダストストームは17年前の2001年までさかのぼります。 この時は沈静化するのに約4か月かかりましたから、この例から学ぶと今回は9月の終わりごろまで、大きな暗い模様の見える時期はおあずけとなる気配です。
発生後も、まだところどころで新しいダストストームが発生しており、Solis付近やSirenum付近で小さく明るいダストストームが記録されています。
今回のダストストームの観測は2001年と大きく違い、観測技術が著しく向上しています。 そのため、今まで気が付かなかった現象が明らかになっています。
南極冠は、この大規模なダストストームに覆われましたが、極地の冷気がダストストームの広がった地域に冷気を運び込んでいる姿がはっきりと見られました。 極冠から赤道方向に向かって、晴れた領域が鈍りことによって、存在がはっきりしました。 北極冠でよく見られる極冠エッジダストストームとよく似た現象でした(図1)。
この現象が、南半球中緯度での新たなダストストームを励起したのではないかと思われる現象が何度も見られました。
ダストストームは地表を這うように進行し、発達しますが、地上からの観測でそのダストストームの頂は高空まで上がり波状になっている様子が鮮明に記録されました(図2)。
[図1] 南極冠からの冷気の吹き出し |
極冠から冷気が舌状にいくつも吹き出している(強コントラスト画像)。撮像:ダミアン・ピーチ氏(チリ、100cm) |
[図2] ダストストーム上空の雲 |
ダストストームの上空が鮮明に波打っている。東西方向の波は影ができず南北の波が切れて見える。撮像:熊森照明氏(沖縄県、35cm) |
木星は8月1日に東矩となりました。 日没後、程なく高度が下がってしまうため、すでに観測シーズン終盤の感が漂います。
南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)の名残の「くびれ」模様から形成された大赤斑(GRS)前方の南熱帯(STrZ)を横切る暗柱は、7月上旬で消失してしまい、期待に反して攪乱は再生しませんでした。 暗柱形成の原因となった南赤道縞(SEB)南縁の後退暗斑群が途絶えたためと思われます。 南熱帯紐(STrB)には「くびれ」がまだ残っています。 英国天文協会(BAA)のロジャース(J.H. Rogers)氏は、このくびれに「南熱帯攪乱後端の息子(Son of f-STropD)」という味のあるニックネームをつけています。 現在、SEB南縁には多数の大きな暗斑で乱れている領域がありますので、息子がこれらと会合して攪乱に成長するか、今後も見守ることにしましょう。
永続白斑BAはII=0°付近まで進んできました。 後方の南温帯縞(STB)の暗部は、長さが90°とさらに長くなりました。 BA前方でも、大赤斑との間のSTrBが濃化して、多くの暗斑が見られます。 STrBは概ね赤みを帯びた細い組織ですが、BAの前方では灰色をしています。 この領域ではSTrBがSTB北組織(STBn)に変化しつつあるようです。
大赤斑後方のSEBは、白雲活動(post-GRS disturbance)が衰えて、静かになってきました。 しかし、前述のように、II=0〜150°のSEB南縁には大規模な暗斑群があり、ジェットストリームに乗って後退しています。 今後、大赤斑との会合して大きな影響を及ぼすかもしれません。
[図3] 攪乱の息子と大赤斑 |
▼印のところに攪乱の息子(Son of f-StropD)が見られる。撮像:大杉忠夫氏(石川県、30cm) |
土星のPolar Stormは衰えが見られません。 白斑から前方南−後方北に傾いた細長い明帯に変化した2つの明部は、7月前半にIII=200°台で会合し、互いの中心部が最接近した10日前後には、一体となって分離することができなくなってしまいました。 その後、7月後半になると、緯度が低くスピードが速い明部Aが再び明るい白斑として凝集し、明部Bから離れて行きました。
8月7日の時点で、明部AはIII=240°にあり、前後に白雲を伸ばしながら相変わらず1日当たり-12°という高速で前進しています。 また、長い明帯となった明部Bは、両端が拡散して広がりはよくわからないものの、最も明るい部分はIII=150°にあって、1日当たり-3°の割合で前進しています。 このペースだと、8月中旬には再びIII=130°付近で両者の会合が起こると予想されます。
赤道帯(EZ)でも、7月にI=290°付近で、東西に伸びる赤道紐(EB)北部を分断する白斑が観測されています。
[図4] Polar Stormの展開図 |
白斑A、Bとも傾いた明帯になっている。Aの方が高速で前進しているのがわかる。8月中には再びBと会合するだろう。 |
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