火星はみずがめ座を順行中で、まもなく東矩を迎えます。 土星はいて座にあり、年明け早々、合となります。 シーズン最終盤で、観測報告のほとんどは海外からのものです。 木星は11月26日にさそり座β付近で合となり、観測はお休みです。
ここでは11月初めから11月末にかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。
火星は天の赤道に向かって進んでいるため、日没時の地平高度はどんどん高くなり、50°近くになりました。 そのため、冬の寒気の中でも比較的安定したシーイングが得られています。 視直径は小さくなり、11月末には10秒に満たなくなっています。 Lsは300°を越え、南半球の夏至と秋分の中間になりました。 南極冠は大変小さくなりましたが、まだ明瞭に見て取れます。 火星の見かけの傾きが大きく、南半球が地球を向いているため、暗色模様の多くがよく見える位置になっています。 視直径は小さいですが南極周辺がよく見えます。
ダストストームは淡いベール状になって残っているものの、ほぼ見えなくなっています。 しかし、火星像のリムに注目すると、黄色く見える地域があって、ダストストームのベールに覆われている様子がつかめます。 今月は地球から観測できるダストストームの発生はありませんでした。
11月初旬の火星面は、夕方のリム付近が白雲に覆われるようになりました(図1)。 今まで以上に白雲が目立つようになってきています。 南極冠が小さくなってきたことがその原因で、12月初旬まで次第に著しく見えるようになってきています。
マーズ・エクスプレスが、アルシア山から東に伸びる、飛行機雲のような線状の白雲を撮影したことは前号で報告しました。 その後、南アフリカのフォスター(Clyde Foster)氏が、青画像で鮮明な雲の様子を記録しました(図2)。 10月10日に公開されてから、この11月3日までずいぶん長い間見えていたことになります。 形状から見ると、成層火山に当たる気流の影響を受けたかのようなイメージです。 しかし、過去の記録をさかのぼってみると、山のないところでもこれと同じような線状の雲の記録されている例が見られます。
一般的には地形の影響を受けるか、前線による雲の変化が該当しますが、どちらかの判断はできません。 火星には水蒸気を噴き上げると考えられる穴もありますので、原因はとてもミステリアスです。
北半球は、火星が大きく南へ傾いているため、非常に見えにくい状況にあり、Mare Acidariumなど、眼視では見ること自体とても厳しい状況にあります。 しかし、北極周辺には顕著な白雲があり、観測条件が良いと、活発な活動をしている様子が記録されています。
[図1] 夕方の白雲 |
青画像(右)の左側の縁が白雲によって明るくなっているのがわかる。撮像:熊森照明氏(大阪府、35p) |
[図2] アルシアの白雲 |
中央から右に向かって細く伸びるのがアルシアの白雲。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35p) |
今年の土星はPolar Stormと呼ばれる北半球高緯度の白雲活動が注目されました。 活動はまだ続いていますが、観測が少なくなり、詳しい状況はわからなくなっています。
Polar Stormは3月29日に発見されました。 薄暗い北極地方のすぐ外側の北緯68°に出現した明るい白斑で(明部A)、体系IIIに対して1日当たり-11.6°という高速で前進していました。
5月末にはもうひとつ別の白斑が現れました(明部B)。 最初の白斑のすぐ後方に出現したので、派生したのかもしれません。 この白斑は少し緯度が高いため、明部Aよりもスピードが遅く、体系IIIに対する前進速度は1日当たり-4°前後でした。
スピードが大きく異なる2つの明部は、ひと月に1回の割合で会合を繰り返しました。 図3は8月以降のPolar Stormの活動を展開図にしたものです。 動きの速い明部Aが、何度も明部Bを追い越していくのがわかります。 会合時は両者を分離することができなくなり、大きく複雑な白雲の塊となっています。
また、明部は時間とともに東西に拡散する傾向にあります。 図3でも、徐々に明部が長く広がって、コントラストが低くなり、明部A、Bの位置がわかりにくくなる様子がわかります。
今回の白雲活動は、当初の予想よりも活動的で長期間に及んでいて、2010年以来の大規模な現象となりました。 来年はこの活動の余波がどの程度残るか、注目されます。
[図3] 8月から10月におけるPolar Stormの活動 |
高速で前進する明部Aが、明部Bを何度も追い越していくようすがわかる。 |
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