天文ガイド 惑星の近況 2019年5月号 (No.230)

堀川邦昭、安達誠


木星は西矩が近づき、昇るのがずいぶん早くなりました。 明け方には土星が木星を追うように姿を見せますが、条件は厳しく、まだ国内からの報告はありません。 火星はうお座からおひつじ座へと移りました。

ここでは2月から3月初めの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

大赤斑(GRS)とその周辺では、1月末から2月にかけて見られた異変が注目されました。 1月末、大赤斑後端から南赤道縞(SEB)南縁とを結ぶ赤いブリッジが出現しました。 メタンバンドでのブリッジは、明るく先端には大きな白斑があり、大赤斑同じ高い模様であることがわかります。 2月になると白斑部分は赤い斑点として見えるようになり、ゆっくり後退しながら一週間ほどで消失してしまいました。 同じ現象は2015年にも観測されました。 赤いブリッジはその後も残り、12日にPJ18を迎えた探査機ジュノー(JUNO)の画像では、カーブした赤い腕のようなものが捉えられています。 大赤斑周囲には2月末まで赤いベールが広がり、輪郭が少しぼやけていました。

大赤斑後方のSEBは北部が淡化して、幅広いSEBZが発達しています。 そのため、乱れた白雲領域であるpost-GRS disturbanceは、ベルトの南半分で弱い活動が見られるだけでした。 しかし、2月半ばから活動的になり、現在は約40°の範囲で白斑や暗色模様が見られます。 後方のSEB南組織(SEBs)は大きく乱れていて、多数の暗斑がジェットストリームに乗って、徐々に細くなるSEBsを伝って後退しています。 SEBは徐々に淡化しているように思われましたが、今後の変化に注意しましょう。

北北温帯(NNTZ)では、高気圧的な白斑同士の合体現象が観測されました。 白斑の一方はNN-WS-6と呼ばれる長命な白斑で、14日頃にII=340°付近で別の小白斑に後方から衝突・合体しました。 NNTZでは昨年も白斑の合体がありました。 他にも白斑がいくつかありますので、また合体が起こるかもしれません。

[図1] 最近の木星面展開図
クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、ダミアン・ピーチ氏(チリ、100cm)による6画像から作成。
[図2] 大赤斑後方の赤色斑点
赤色斑点を▲で示した。下はメタン画像。撮像:ダミアン・ピーチ氏(チリ、100cm)、クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

火星

火星は視直径が5秒となりましたが、まだ1等級の明るさを保っています。 地平高度はどんどん高くなり、時々良いシーイングを得ることができます。 報告画像でもしっかり模様が記録されており、まだまだ観測できる状況です。

今年になって発生したダストストームは中程度の規模に落ち着きました。 国内での早めの情報発信が功を奏し、視直径が小さいながらも、詳しく追跡できました。

広がりは主に東に進行し、南半球はHellasの東にあるAusoniaからSolis Lacusまで。 北半球ではSyrtis MajorからTempeまでを覆ったところで止まりました。 2月初旬のHellasの西側は、ダストのベールに包まれ、コントラストの低い状態が続いていました。 また中旬は、Mare AcidariumからMargaritifer Sinusあたりが黄色くなり、ダストのベールがこのあたりを広く覆っています。 24日には赤画像では模様がはっきり写るのに、緑の画像では地表が非常に不鮮明になり、この事実を示していました。 中旬以降は元の濃さに戻っていきました。 Hellasは内部に白い雲が観測されるようになり、明るく記録されています。

Lsは335°となり、南半球は秋分に向かって進んでいます。 2月中旬の南極は白雲が取り巻いて、南極冠は2月26日のルイス(Martin R Lewis)氏の観測が最後でした。 非常に小さく、ピンポイント状の写り方でした。 この付近にはしばしば白雲が広がり、南極冠が見えなくなることもありました。 南半球の明け方の朝霧は著しく、カラー画像でも青画像でもはっきり記録され、眼視でもその様子が分かりました(図3)。

北極は白雲が非常に顕著ですが、幅が狭く、気流が悪いと眼視では見えません。 北極冠が形成される時期ですが、火星が南に傾いているため、その様子は闇の中です。

今シーズンは、Syrtis Majorが細く見えるときが多かったのですが、最近は元の広い姿に戻りつつあります。 しかし、そろそろシーズンの終了も近づいてきました。

[図3] 今シーズン最後の南極冠
一番上の白点が南極冠。少し下の明暗境界へ続く薄明るい領域が南極周辺の白雲。撮像:マーチン・ルイス氏(英国、44p)

土星

今年の衝は7月9日で、赤緯は-22°と昨年とほぼ同じです。 環の傾きは少し小さくなり、+23〜25°で環の短径と本体がほぼ同じ大きさになります。 土星面では赤茶色の北赤道縞(NEB)が目立っていますが、今年ベルトの北側が淡化して細く見えます。 その北には北温帯縞(NTB)と北北温帯縞(NNTB)と思われる2本のベルトがあり、赤外画像によるNTBはNEBをしのぐ濃さがあります。

昨年話題となったPolar Stormは、3月3日のフォスター(Clyde Foster)氏の画像で、それらしき明暗が見られますが、詳しい状況はまだわかりません。


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