天文ガイド 惑星の近況 2021年5月号 (No.254)

堀川邦昭、安達誠


火星は地球から遠ざかりながらおひつじ座に入り、日没後の南天高く見えています。 一方、明け方の東南天には、木星と土星が姿を現すようになりました。 春の黄道は地平との傾きが小さいうえに、夜明けがどんどん早くなるので、日の出時における木星と土星の高度上昇は鈍く、合から40日以上経過した3月上旬でも、15〜18°しかありません。

ここでは3月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

火星の地平高度はとても高くなり、20時ごろには天頂か?と思うくらい高くなります。 そのため、今月も良いシーイングでの観測が送られてきました。

北極付近は、北極フードが小さくなり、Mare Acidariumの姿がはっきり見えるようになりました。 2月4日、南緯65°付近のターミネーターに。青画像で黒くへこんだ模様が記録されました(図1)。 「バイオレットホール」と呼ばれるそうですが、特徴的な現象です。 視直径が小さくなったので、高解像度の画像がないのは残念ですが、ターミネーター側に時々現れるようです。 いつもきまって明るい雲の横に出るという特徴も見つかっています。

Hellasは衝突盆地で、白く円盤状に見えるのが常ですが、今シーズンは様子が違っています。 きれいな円形に見える日はなく、南東部に大きな暗い部分ができています。 そのため、残った北西部が非常に明るく見えていました。 この位置は盆地の一番低い部分です。 ダストの沈積物が明るく見せていたのだと思われますが、最近になってそれも暗くなってきました。 Hellasの形が分からなくなってきたのです。 これから先にどのような状態になるのか、注目したいと思います。

北極冠が縮小をはじめ、大気に水蒸気の供給が始まると、火星の成層火山には白雲が見えるようになります。 今月は、少しずつそういう姿が見えるようになってきました。 また低緯度地方には氷晶雲が見えてくるのですが、かすかながらその傾向も見えてきており、火星の季節の進み具合が感じられるようになりました。

北極冠は、地球から見えるか見えないかのぎりぎりの位置にあります。 シーイングがよいと見える可能性があり、2月27日にManos Kardasis氏が画像に記録することに成功しました。 眼視では1月に見えていましたが、画像ではこれが最初です(図2)。

[図1] 火星のバイオレットホール
矢印の先の暗い部分がバイオレットホール。カラー画像に青画像を強調して合成してある。撮像:マノス・カーダシス氏(ギリシャ、35cm)
[図2] 今期初の北極冠
一番下の明るいところが北極冠。撮像:マノス・カーダシス氏(ギリシャ、35cm)

木星

2021-22シーズンが始まりました。 初観測は2月14日の宮崎勲氏(沖縄県)で、観測条件のよい南半球の観測も届くようになり、木星面の概要がわかってきました。

木星面では合の間に大赤斑(GRS)の周辺で大きな変化が生じています。 II=353°にある大赤斑の後部から大きな暗い模様が覆いかぶさって、前方には長いストリーク(dark streak)が発達しています。 南赤道縞南縁(SEBs)の後退ジェットストリームが大赤斑後部でUターンし、南熱帯(STrZ)に流れ出す準循環気流が形成されたようです。

探査機ジュノー(Juno)の画像で確認すると、ストリークの長さは2月19日の時点ですでに100°を越えています。 ストリークの伸長速度は1日当たり3°程度なので、発生したのは1月上旬ということになります。 昨シーズン末、大赤斑前方のSEB南縁に大きな暗斑がありましたので、この暗斑が大赤斑と会合し、準循環気流発生の原因になったのではないかと思われます。

その他のベルトやゾーンには大きな変化は見られません。 昨シーズン拡幅した北赤道縞(NEB)が最も濃く幅広いベルトで、NTBs jetstream outbreakにより濃化復活した北温帯縞(NTB)も明瞭です。 南赤道縞(SEB)は南北二条になっていて、南組織(SEBs)が濃く南縁に暗斑や突起が見られます。 やや淡い北側の組織は、昨シーズン見られた中央組織のようで、ベルト北部の淡化がさらに進んだようです。 着色現象が続く赤道帯(EZ)の北半分は茶色で薄暗く、赤道紐(EB)もよく見えます。 安達誠氏(京都府)は、昨シーズンよりも色が濃くなったようだと指摘しています。 永続白斑BAはII=232°に位置し、後方には長さ40°の南温帯縞(STB)の断片が続いています。 南側の南南温帯縞(SSTB)では、高気圧的白斑(AWO)の一群がBAを通過中です。

[図3] 大赤斑前方に伸びるストリーク
合の間に大赤斑周辺は大きく変化した。EZ北部が薄暗く、SEBは北縁が淡化して細く見える。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

土星

土星の初観測は2月18日のトレバー・バリー氏(オーストラリア)でした。 今年は環の傾きが+18°まで減少して、環の南北に土星本体が大きく張り出して、土星らしい姿になりました。

土星本体は昨シーズンからほとんど変わっていません。 クリーム色の赤道帯(EZ)が明るく、隣接する北赤道縞(NEB)は二条のベルトです。 赤茶色の南組織(NEBs)が土星面で最も濃く太いベルトで、北温帯縞(NTB)がそれに続きます。 環もなめらかで特に異常は見られません。

[図4] 今年の土星面
環の傾きが減少して、南極地方がはっきり見えるようになり、土星らしい姿になった。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

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