天文ガイド 惑星の近況 2021年7月号 (No.256)

堀川邦昭、安達誠


木星はやぎ座を抜けてみずがめ座に入りました。 やぎ座の土星が1時間近く早く昇ってきますが、木星の方が赤緯が高いので、日の出時にはほとんど同じ高度になってしまいます。 火星はふたご座に入り、赤緯が最も高くなりました。

ここでは5月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は図1を除いて南を上にしています。

火星

火星は視直径が4秒台と小さくなり、ほぼ最小サイズなりました。 眼視だと良いシーイングと高倍率を必要としますが、模様はまだ見えています。 中央緯度(De)がプラスになり、北半球がよく見えるようになってきました。 地表の主な模様は南にシフトして、これまでとは違った配置になっています。 北の限界に位置していた北極冠も、地球からよく見えるようになり、画像でも眼視でも確認できます。

火星の表面模様は、風の影響によって、シーズンごとに変化します。 有名なSyrtis の東側は、近年目立った模様が見えなくなっていましたが、最近、Moeris(280W, +10)が濃化の兆しを見せています。 古い火星地図では、ほとんどのものに描かれている模様です。 これから、季節が進むと、どのようになるのか注目です。

火星は今、北半球の春分と夏至のちょうど中間にあり、遠日点の近くです。 太陽からの輻射熱は最も少なくなり、ダストストームの起こりにくい季節になっています。 ところが、4月25日にMare Acidariumのすぐ西側に小規模なダストストームが見つかりました。 単独にこの位置で発生したものか、それとも北極冠縮小に伴うエッジダストストームなのかは分かりませんでした。

ChryseやXanthe方面でも、ダスティーな状態が続いていて何か起こりそうな気配でしたが、4月27日にChryse(35W, +10)にあるダストストーム発生の特異点が明るくなりました。 この地点が明るくなると、翌日かその次の日にダストストームが発生します。 翌28日は観測がありませんでしたが、予想通り、29日には小規模なダストストームが観測されました(図2)。 Chryseに特異点があることは、今シーズンになって分かったのですが、珍しい時期に発生して驚いています。 なお、北極冠が大きい時期なので、火星面の白雲の活動は不活発になっています。

[図1] 姿を見せた北極冠
火星の傾きがプラスになり、北極冠が細長く見えるようになった。撮像:ペーター・ハーバー氏(ドイツ、29cm)
[図2] 季節外れのダストストーム
矢印の先の縦長の明るい部分が発生したダストストーム。撮像:サイモン・キッド氏(英国、35cm)

木星

大赤斑(GRS)周辺の暗部の活動は、一時、弱まったかに見えたのですが、4月中旬以降、再び活発になりました。 南赤道縞(SEB)南縁の後退暗斑が次々と赤斑湾(RS Bay)に進入し、大赤斑後部に形成された準循環気流の暗柱を回って、前方の南熱帯紐(STr. Band)に暗い物質が供給されています。 STr. Bandはすでに木星面を周回していますが、先端部は元々あった南温帯縞(STB)の北組織と一体になっているようです。 活動はまだしばらく続きそうです。

大赤斑はオレンジ色で明瞭ですが、SEB南縁の暗斑との会合に伴って小規模なフレークが発生しています。 長径は今年の平均で12.8°とまた小さくなりました。 経度はII=356°でほぼ停滞しています。 大赤斑後方のSEB南縁には暗斑がずらりと並んで、1日当たり+4°という高速で後退しています。

永続白斑BAは、II=200°にあります。 暗いリングで囲まれた白斑ですが、昨年に比べると薄茶色に濁っていて、縁取りも淡くなりました。 昨年は前方の淡化した南温帯縞(STB)に2個の濃い暗斑がありました。 現在はDS7と呼ばれる前方の暗斑だけになっています。 後方にあったDS6という暗斑は、探査機ジュノー(Juno)の画像で見ると、BAのすぐそばに薄茶色の核を持つ白斑に変化してしまいました。 DS6とDS7の間はSTBの低気圧的な閉区間(セグメント)と考えられるのですが、昨年から加速状態にあるBAが追いつくという、異例の展開になっています。 DS7周辺も小暗斑や暗条で混沌としています。

北赤道縞(NEB)はリフト活動がまったくなくなり、とても静かになっています。 淡化が進行中の北縁には、バージ(barge)と呼ばれる暗斑と白斑が交互に、それぞれ8〜9個ずつ並んでいます。 II=130°にある白斑は、昨年秋から行方不明になっていたWSZです。 白斑の中で最も明るく大きくなっていて、完全復活を遂げました。

[図3] 5月2日〜3日の木星面展開図
大赤斑の周囲に暗部が発達し、STr. Bandが長く前方に伸びている。NEBの北縁にはバージと白斑のアレイが形成されている。クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)、ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)、エリック・シューセンバッハ氏(オランダ、35cm)の画像から作成。

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