|
図1 6月26日のハッブル望遠鏡による最接近の火星 左上のヘラスに砂嵐の黄雲が見られる(画像提供:NASA)(画像を拡大) |
6月22日に最接近を迎えた直後の火星(図1)に、28年ぶりに大黄雲が発生しました。南極冠に集中していた水蒸気が、初夏を迎えて南極冠が縮小するとともに一定の通路を通って北半球に流れていきます。この時、太陽によって熱せられた地面の熱を吸収して急激な上昇気流が起こり、砂塵を巻き上げる台風が発生します。この規模の大きなものが大黄雲と呼ばれ、過去には1956年8月、1971年9月にノア大陸で、1973年10月に太陽湖で観測されました。1971年はアメリカで観測され、あとの2回は日本での観測が中心となりましたが、今回の大黄雲の発生から発達の過程も日本を中心とする限られた地域で観測することができ、本当に幸運でした。
図2 大黄雲発生をとらえた貴重な画像 撮影/池村俊彦、伊藤紀幸、新川勝仁、畑中明利(画像を拡大) |
図2のように、今回の大黄雲の発生は6月23日で、チュレニー北部とヘラス北部に明るい黄雲が発生しました。25日にこれらの2つの領域を結ぶように黄雲が発達し、さらに別な黄雲がヘラスから大シルチスへと伸びています。26日にさらに発達した黄雲発生のニュースが全世界を回りました。28日には大シルチスの東のリビヤとアウソニアにも別な明るい黄雲が発生し、黄雲の拡張が一気に始まりました。
図3 大黄雲の広がりによって覆い隠される模様 撮影/荒川 毅、風本 明、池村俊彦(明記していない画像)(画像を拡大) |
黄雲は火星大気上空まで砂を巻き上げ、地表の模様を覆い隠していきます。図3に1周期前の同じ経度の画像と並べましたが、7月中旬には火星全面が黄雲に覆われてしまい、どの経度を見ているかもわからない状況です。オリンポス山やタルシスの3つの高い火山は、この黄雲の上に突き出しているので、7月9日の画像のように黒い斑点として見ることができます。
私たちの観測とインターネットで公開されている画像から、図4のように黄雲の広がっていく様子を作成しました。3ヶ所に発生した黄雲は、偏東風に乗った東方への拡張と同時に北西にも拡張し、これによって大黄雲は南半球だけではなくて、北半球までにも及ぶ全球的な活動に発達しました。また、今回の大黄雲は、局地的な明るい斑点が7月3日、5日、6日と発生し、それを起爆剤としてさらに発達するということを繰り返しています。これらの地域は過去の観測からも黄雲の発生しやすい場所と一致しています。
図4 大黄雲の広がっていく様子 月惑星研究会(http://alpo-j.sakura.ne.jp/)とInternational Mars Watch(http://elvis.rowan.edu/marswatch/)で公開されている画像から作成。(画像を拡大) |
過去の例から、大黄雲の活動は2〜3ヶ月の間は続きます。また、大黄雲は南半球の初夏の頃に発生する現象として知られていますが、今回の大黄雲は南半球の春に起こっており、通常より早い時期に発生しました。1956年10月にはデューカリオンで2次の黄雲の発生も観測されました。さらに、黄雲が晴れ上がると砂嵐の影響で地表の模様が大きく変わることもありますので、今後の観測がたいへんに楽しみになってきました。