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7月30日UT(世界時、以下同様)、アメリカのグラフトン(E.Grafton)氏から黄雲(ダストストーム)の発生をとらえた画像が報告されました(画像1)。今回の黄雲の発生初期は、クサンテ(55W,20N)からクリセ(30W,10N)にかけての細長く明るいストリーク状に見られます。前日の29日の画像を見ると、ルナ湖北東のニロケラス(50W,25N)に輝点があり、どうやらここが黄雲の発生地点のようです(黄雲発生前の27日の画像にはこの輝点は見られません)。30日にニロケラスから一気に東(左)に拡がったようです。
アメリカでは続く31日、8月1日と画像の西端(右)で、黄雲が南に発達する様子がかろうじて観測されています。31日以降は日本での観測条件が良くなり、黄雲を追跡することができました。31日の熊森照明氏(堺市)、8月1/2日の荒川毅氏(奈良市)などの観測のように、日本では逆に画像の東端(左)に、黄色のダストが漂っている様子が顕著に見られました。31日にはクリセ付近にあった黄雲は、8月1日には南東に進みマルガリティファー・シヌス(25W,0S)からアウロラエ・シヌス(50W,15S)を覆いました。2日・3日には、さらに南のエリュツラ(30W,30S)まで進行しました。
画像1 クリセに発生した地域的黄雲 7月29日に発生した黄雲(青矢印)は、一気に南に拡大したが、8月4日には収まった。 |
画像2 MGS/TESによる火星大気のダスト分布 クリセ地域に発生して南に拡大するダストの様子(画像:NASA提供)(画像を拡大) |
今回の黄雲の発生は、先月号で速報した7月1日のヘラス北部を起点とする黄雲に続いての第2波です。火星の季節を示す黄経Lsは230°で、南半球の晩春に相当します。前回の黄雲は活動期間が10日ほどで地域的黄雲で収まってくれましたが、今回の黄雲も地域的黄雲までしか発達しなかったようです。発生後7日目の8月4日には、通常の模様の見え方に戻ってしまいました。前回のような顕著な黄雲の拡がりも見られず、また黄雲通過後にも地表の模様に大きな変化は起こっていないようです。
火星周回探査機マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)からのダスト分布の観測結果(画像2)と比較すると、30日にニロケラスから北東に拡がり、31日にはクリセから南に拡がっている様子が分かります。MGSの観測でも4日にはダスト分布は拡散状になってしまいました。前回に続いて、MGSの観測と地上からのアマチュアの観測とは見事に連携しているということは、とてもうれしいことです。逆にMGSの観測を良く見ると、ヘラスでのダストの活動が観測されていることは、要注意です。これから南半球の夏に向かっての季節には、火星の大気の温度はますます上昇し、砂嵐の起こりやすい条件が整ってきます。特に過去に大黄雲の発生しているヘラスやソリスでは、充分な注意を払って観測をしましょう。
今シーズンの南極冠に異変を感じたのは5月中ごろで、南極冠の中央付近にかげりが見えていました。6月中ごろには、南極冠の暗くなった部分が赤味がかって写るようになり、極冠の内部が周辺部よりも先んじて溶け出すことが確認されました。
南極冠が縮小する様子は大接近の時に詳しく観測されるのですが、日本での過去の観測は非常に少なく、今回の観測は貴重なデータとなることでしょう。前回の1988年の大接近は、日本全体が天候不順で観測が少なく、その前の1971年の大接近は途中で全球的黄雲に覆われてしまい、詳しい観測は得られませんでした。実質的には1956年の大接近以来という47年ぶりのチャンスなのです。
画像3 南極冠の縮小 南極冠の大きさが縮小すると同時に、内部に暗い模様が見える。 |
さて、南極冠の縮小する様子を熊森照明氏のデータから画像3にまとめてみました。7月初めには、南極冠には周辺に明るい部分があり、内側に暗い領域が見えていました。暗い領域は次第に拡大し、暗い筋として見えるようになり、他の地表の模様と同様に自転しています。天頂部には永久南極冠も認められます。南極は、全体として大きな盆地状の地形をしていることが知られています。明るく残った部分が、その外輪部に位置しているようです。この外輪部にはいくつかの輝点があり、中でも20W付近には非常に目立つ輝点が見られました(7月2日、8月10日)。この輝点は高山なのか盆地なのか、まだ分かっていません。探査機のクローズアップ画像を見ると、南極冠の周囲にあるクレーター内部にドライアイスの霜が大量に降り積もり、白い白斑状に輝く光点として見えることが分かります。季節的南極冠はドライアイスの霜からできていますが、このような周辺部の変化は興味ある対象です。
画像4は月惑星研究会関西支部に報告のあった画像から、南極冠を真上から眺めた様子を作成したものです。南極冠の最大の割れ目である0W〜180Wに見られるリマ・アウストラリスなどが良く観測されています。南極冠の縮小そのものは、過去に観測されてきた見え方と大きく異なってはいないようです。今シーズンの新しいCCDカメラによる観測によって、これまで以上の細かな観測を期待したいと思います。
画像4 南極冠を真上から見たマップ作成/安達 誠 |
視直径が20秒を超えた7月中旬以降〜8月上旬に、池村俊彦氏(名古屋市)が撮影された5枚の火星画像から、ようやく今シーズンの展開図を作成することができました。同じ地点で観測すると1日に9度ずつ東に移動するので、1周するにはほぼ1ヶ月かかるわけです。右から左に時が経っており、南極冠が次第に縮小している様子が分かります。また、地軸が南に傾いているので北緯60度以北を見ることはできません。
画像5 2003年7月〜8月の展開図 2003年7月16日から8月10日までに池村俊彦(31cm,名古屋市)氏が撮影された5枚の画像から作成(伊賀祐一)(画像を拡大) |
右から日時を追っていくと、7月1日にヘラス北部で発生した大黄雲はすでに収まっており、ヘラスが明るく見えています。キンメリアの(220W,10S)付近には、2本の雫が垂れ下がっているような模様が見えます。キンメリア〜シレーンにかけては、それと平行に北側に暗いベルト状の模様が見られます。90W付近のソリス付近の模様は、2001年の大黄雲の影響の大きく残っている地域です。60W-20Wのアウロラエ〜マルガルティファーには7月29日に黄雲が発生しました。最後に(330W,20S)のデューカリオンは、7月1日に発生したヘラス北部の大黄雲によって一挙に濃化した地域が見られます。
画像6 最近の火星 撮影/中田 昌(25cm,神戸市)、池村俊彦(31cm,名古屋市)、畑中明利(40cm,三重県)、柚木健吉(20cm,堺市) |