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木星を観測していると、表面模様がいろいろと変化していることに気がつきます。暗い縞(ベルト)と明るい帯(ゾーン)が交互に並んでいるだけではありません。 300年間も継続している大赤斑の他にも、面白い現象がたくさんあります。十数年に一度しか起こらない貴重な現象に遭遇するのは大きな楽しみです。 どんな現象が木星面に見られるのか、どのような観測の楽しみがあるのか、ご紹介します。 |
カッシーニ探査機による木星 2000/12/12、画像:NASA/JPL(画像を拡大) |
画像1 木星面の模様の命名法 撮影/永長英夫氏(兵庫県)(画像を拡大) |
木星には、赤道に平行な何本もの縞模様が見られます。暗い模様は縞(ベルト)と呼ばれ、明るい模様は帯(ゾーン)と呼ばれます。それぞれに名前が付けられています。赤道を中心に南北に、赤道・熱帯・温帯というふうに、気象用語が用いられています。
南から北に向けて、緯度ごとに見られる模様の説明と、特徴的な現象について解説します。
このベルトにはとても小さな白斑がいくつか並んでいます。大きさは4°程度しかありませんから、小中口径では難しい対象ですが、近年の観測技術の進歩で追跡が可能になりました。全周には6〜8個の反時計回転の小白斑が見られますが、最近ではその5個の小白斑が経度で90°以内に集中しています。 小白斑は思ったよりも東西方向にふらついていて、白斑同士の距離が広がったり狭まったりします。そして、2002年3月には接近しつつあった2個の白斑同士がついに合体(マージ)する現象をとらえることに成功しました。3月19日にくっつくばかりに接近した2個の白斑は、21/24日にはお互いの周りを左回りに巻き込むように回転し、26日には1個の白斑に合体しました。現在では90°の経度長の中に5個の白斑が密集していますから、再びマージが見られる可能性が高くなっています。
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画像4 STB白斑のマージ |
STBには小口径でも良く見えた3個のSTB白斑が有名です。1939-41年頃に形成された白斑は、それぞれBC・DE・FAと名付けられ、継続的に見えることから永続白斑と呼ばれていました。最初は100°ほどあった大きさも、すぐに40°ほどに縮小し、さらに1970年代には15°、1990年代には10°と次第に縮小していました。また、3個の白斑間の距離も等間隔ではなくなり、次第にお互いが接近するようになりました。
1998年1月中旬、BCとDEの2個の白斑は8°まで近づいた姿が最後となり、合を終えた5月には1個の白斑BEとして観測されました。木星面上で大きな白斑同士がマージすることが初めて分かった時でした。その後も残ったBEとFAの2個の白斑は接近を続け、2000年3月末には2つの白斑がマージする様子をつぶさにとらえることができました。2つの白斑の距離は3月3日に11°、15日に8.5°、20日に7°と急速に近くなり、お互いが接するまでになりました。その後はお互いが左回りに回りながら、21日にはついに1個の白斑となる瞬間に出会いました。
2度の白斑のマージについて、大赤斑を通過した後に急速に接近を始めてマージに結びついたこと、さらにマージした白斑の大きさが合体前よりも1回り大きくなっていることなど、大きな発見が得られました。
大赤斑の東(左)側に、暗い物質がベルト状に前方に伸びる現象が時々見られます。1985, 1987, 1990年と続いた後、最近では1998年8月, 2000年1月, 2001年11月と発生しました。このダークストリークは、SEBsを後退してきた暗斑群が、大赤斑の北をぐるりと回りこんできたものが、再度大赤斑の前方に噴出すように見える現象です。2001年の時は、2ヶ月間の活動の後で、ストリークの後端部がとらえられ、その後に急速に消失するまでの全ての様子がとらえられました。
STrZにも撹乱が発生することがありますが、1901〜1939年まで続いた大撹乱は例外的な規模でした。その後は1941年, 1946年, 1955年, 1967年, 1970年, 1975年, 1979年, 1984年, 1990年, 1993年と撹乱が発生しています。1975年12月に発生した撹乱は、大赤斑の直前からの暗物質の噴出に始まり、ダークストリークへと変化したもので、筆者たちが小口径で眼視で観測したものです。
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STrZに暗斑が発生することがあり、これが大赤斑まで後退してきて、大赤斑の周りの渦に巻き込まれる現象が見られます。最近では1997年5月, 2001年3月, 2002年11月, 2003年4月, 2005年3月に見られました。1997年の暗斑はボイジャー(1979年)が観測して以来初めて地上からとらえられたもの、2001年の暗斑はカッシーニ(2000年)によってドーナツ状の白斑であることが分かったもの、2003年の暗斑は大赤斑の周りをぐるりと左回りに移動する様子をつぶさにとらえたものです。
画像7 STrZ暗斑と大赤斑の会合(2003年) |
画像8 SEB撹乱とmid-SEB outbreak |
木星でもっとも注目される現象が南赤道縞撹乱です。SEB Revival(復活)とも呼ばれ、SEB全体が淡化して明るい状態のときに急激にSEBが濃化する現象です。明化しているSEBZ内に1本の暗柱が発生した瞬間から、ダイナミックな活動が始まります。その発生源からSEBsを多くの暗斑群が急速に後退する活動(南分枝)と、SEBnをリーディングスポットと呼ぶ白斑とともに急速に前進する活動(北分枝)に分かれます。さらに発生源からいくつもの暗柱がゆっくりと前進(中央分枝)して、半年ぐらいで全周を取り巻き、暗いSEBが復活します。
1975年のSEB撹乱は、7月5日にE.J.Reese(米国)が発見した暗柱を、国内では15日にようやく観測できました。この年のSEB撹乱は、8月に入ると2日, 13日, 17日と副次的な暗柱の発生があり、SEBがあちらこちらで複雑な暗柱や白斑によってかき乱されて濃化する様子がとらえられました。
SEB撹乱は過去には何回も観測されていて、ほぼ3年ごとに発生した1938-1964年のようなうらやましい時期もあります。その後は、1971年6月, 1975年7月, 1990年7月, 1993年4月と発生した後、すでに12年間もの空白時期に入っています。SEB撹乱が発生する2-3年前には、SEB自体が淡化する予兆が必要です。
画像9 SEB撹乱(1975年) スケッチ/伊賀祐一(左:20cm反射、中左・中右:10cm反射)、画像/荒川 毅氏(奈良市、20cm反射)(画像を拡大) |
SEB撹乱がSEBが明化している状態から復活する現象であるのに対して、mid-SEB outbreakはSEBが濃化している状態で発生します。SEB南部に突然白斑が出現することから現象は始まり、同じ発生源から白斑が次々と発生します。発生した白斑群はSEB北部を急速に前進し、SEBのかなりの経度を埋め尽くします。outbreakの活動は、ほぼ大赤斑の後方に達すると消失します。
1998年に観測されたmid-SEB outbreakは、白斑の発生源がII=315°であり、大赤斑までの距離がもっとも長い分類に入るものでした。そのために、次々と発生する白斑群とその間を埋める暗柱が交互に並んだ様子と、次第に活動が治まっていく過程を観測することができました。
mid-SEB outbreakは、1966年, 1978年, 1980年, 1985年, 1986年, 1998年, 2001年, 2003年に発生しています。SEB撹乱と合わせて考えると、SEBには3-5年毎に活発な現象が見られると言えるでしょう。なお、mid-SEB outbreakの発生によって、SEB全体が淡化することはありません。
画像10 mid-SEB outbreak(1998年) 撮影/浅田秀人氏(京都市、30cm反射)(画像を拡大) |
画像11 1999年EZsに発生した大白斑(GWS) |
赤道帯でSEB北縁と接するEZsは、赤道付近の早いジェット気流との速度差によって、しばしば特異な模様が出現します。特にGWS(大白斑)は、1985年から12年間、また1999年から3年間に渡って出現しています。後者の観測から、GWSの活動はSEBnからの白斑の流入(rift)を含めた、SEBn/EZs複合体の活動であることが分かってきました。このGWSは約50日毎に大赤斑を追い越していき、その際に活動が活発になる現象がとらえられました。
NEBはSEBと並んで木星面で目立つベルトです。過去には淡化したり、NEB撹乱によって濃化復活が起こったりしていますが、近年では非常に安定したベルトの一つです。こうしたNEBには、ほぼ3年を周期として緯度方向の幅が変化しています。1987年, 1996年, 2001年, 2004年には、NTrZまで幅が広がりました。拡幅したNEB中央には赤茶色の暗斑barge(バージ)とNEB北縁には湾入した白斑notch(ノッチ)が出現します。そして、NEB中央で白斑を起点とした斜めの白い帯rift(リフト)が活発になると、NEBは次第に元の幅に戻っていきます。
画像12 幅が変化するNEB |
近年のNTBは安定なベルトとして観測されていましたが、2002年12月に1ヶ月の間で一気に消失してしまいました。過去には、1956年から10年間、1969年・1978年・1988年にはそれぞれ2年間ほど消失した記録があります。再び、NTBが復活する際には、NTBsに明るい白斑が出現して急速に暗斑が広がっていくNTBs outbreakが見られることがあります(1970年, 1975年, 1980年, 1990年)。
画像13 14年ぶりに淡化したNTB(2003年) |
可視光で見る木星と異なり、種々の波長で観測することは、木星の大気の高さについての情報を得ることができます。メタンバンド(894nm)ではより高層のアンモニア雲を見ることができ、大赤斑やSTB白斑などが高層まで影響する模様であることが分かります。近紫外域(340nm)でも高層のヘイズを見ることができます。また、これらの継続的な観測から、2001年, 2003年のmid-SEB outbreakは高層まで影響のある現象であること、2003年に消失したNTBはメタンバンドでは全く変化の起こっていない現象であることなどが分かります。
画像14 メタンバンドとUVフィルターによる木星 撮影/阿久津富夫氏(栃木県、31cm反射)(画像を拡大) |