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7月19日、オーストラリアのアンソニー・ウェズリー氏(Anthony Wesley)は、木 星の体系II=216.2°、南緯57.2°の南極地方(SPR)に濃く顕著な暗斑が出現して いるのを発見し、天体が衝突した跡ではないかと世界中の観測者に通報しました。
図1 木星の南極地方(SPR)に出現した衝突痕 2009年7月19日 16時52分UT 撮像:Anthony Wesley氏 |
この頃、日本はぐずついた天候が続いていましたが、この日は全国的に晴天に恵 まれ、、国内でも多くの観測者が撮像に成功しています。最も報告が早かったの は、横浜の米山誠一氏で、ウェズリー氏のわずか30分後の観測でした。
そして、以下の観点から、この模様は小天体が木星に衝突した跡であることが判 明しました。天体の衝突痕が観測されるのは、1994年のシューメーカー・レビー 第9彗星(SL9)以来のことです。
図2 ハワイの赤外望遠鏡(IRTF)による衝突痕 画像提供:NASA |
ウェズリー氏の画像を拡大してみると、暗い衝突痕の北西(右下)に薄暗い円弧状 の模様が見られます。これは、天体衝突時の放出物(エジェクタ)によって形成さ れたもので、SL9衝突の際には巨大なものが見られました。この様子から、衝突 天体は北西方向から突入したことがわかります。固体表面を持つ天体へのクレー ター形成とは異なり、ガス体である木星への衝突では、衝突天体が飛んできた方 向に放出物が広がるためで、SL9のG核痕やL核痕では南西側(右上)に大きな暗部が 見られました。
23日には、ハッブル望遠鏡が観測しています。公開された画像では、丸かった衝 突痕が周囲の大気の流れによって、東西方向に引き伸ばされつつある様子が捉え られています。衝突痕が形成された木星大気の高層では、通常の雲層レベルより も風が弱いことが知られているので、衝突痕はあまり経度変化せず、しだいに東 西方向に拡散して行くと予想されます。
SL9の衝突では、G核痕やL核痕のように衝突場所にできた核状の暗斑と、その周 りに放出物が形成した巨大な三日月状の暗部が印象に残っていますが、より小さ な核では、核状の暗斑のみの衝突痕でした。今回の衝突痕は、核状の暗部と軽微 な円弧で構成されていますので、SL9のA核痕に近い衝突規模のように見えます。 当時は経度方向に延びた衝突痕同士がつながって形成された通称SL9ベルトが、 その後1年ほど観測されましたが、今回は衝突痕がどのくらい長い間、観測でき るか注目されます。
SL9の時には、小天体が木星に衝突する頻度は約1000年に1度と言われましたが、 実はもっと頻繁に起こっているのかも知れません。
図3 ハッブル望遠鏡による7月23日の衝突痕 衝突痕が東西方向に伸び始めている。 画像提供:NASA(画像を拡大) |