月惑星研究会例会通信 No.163

■ 日 時 : 2016年6月5日(日曜)13時−17時半

■ 場 所 : 明治大学生田キャンパス第2校舎5号館5304教室

■ 出席者 : 31名(敬称略、自己紹介順)

  鈴木 達彦、田部 一志、堀川 邦昭、阿久津 富夫、松浦 啓介、平林 勇、石橋 力、縄田 景太、
  上田 真由、森谷 諒、三谷 祥二、榎本 孝之、鈴木 光枝、高田 哲朗、長瀬 雅明、諸岡 等、
  海老塚 昇、黒木 春裕、根津 拓弥、本木 稜、成田 広、冨田 安昭、小澤 徳仁郎、三品 利郎、
  Javier Peralta(ハビエルペラルタ)、Yeon Joo Lee(李蓮珠)、小山田 博之、山崎 明宏、
  瀧澤 誠、米山 誠一、藤巻 徹
          集合写真


■ 内 容

0.自己紹介

  自己紹介は、個人情報保護の観点により削除しました。

       例会の様子

1.木星の近況(堀川)

  5月21日から23日の永長氏の木星展開図を使って各部の様子を説明された。

  1)3月末からの大きな変化は見られない。3月末に活発化したpost-GRS disturbanceが沈静化傾向
   3月はpost-GRS disturbanceの白雲が大きかったが、今は小さくなっている。
   post-GRS disturbanceの白雲はGRSに近づく様に動いている。GRSから離れた場所に小さな白斑が
   発生し、GRSに近づきながら発達・拡大し、GRSに近づくと変形し拡散している。
    今回の活動はpost-GRS disturbanceが活発化したもので、mid-SEB outbreakではない。

  2)NEBは3から5年周期で幅が変化する。今回のNEBの拡幅は、1月頃はWSZの後方で拡幅域が拡大していたが、
   3月頃に拡幅域の後端に高気圧的な暗斑が一時的に発生。暗斑が消失後、拡幅域が明化し始めた。
   現在は拡幅が終わり、WSZ後方のNEBは他の部分と同じ太さになっている。
   WSZは拡幅したNEBに取り囲まれた時は減速したが、NEBの拡幅が止みNEBから露出したら前進速度が
   増加し始めた。

  3)STBの3セグメント化をBAが邪魔している。可能性がある。BAは前進速度が減速している。
   BAの後方の暗班はまもなく消失しそう。STBゴースト的なものが2ヶ所にあり3セグメント傾向の表れかも。
   BAの大きさは発生から10年程度は同じだったけど、2010年頃に小さくなった。

  4)GRSに接近中だったリング状暗斑は3月後半に停滞し始め、5月後半に前進し始めた。過去にも停滞する
   暗斑はあったが前進する例は少ない。暗斑が大きくなり前進方向の流れの影響を受けた為か。

  5)GRSは赤い状態が続いている。GRSの縮小傾向は止まっており、2013年頃より少し大きくなったが、下げ止まり程度。
   現在のGRSは246度付近にある。GRSの後退速度が一時的に大きくなったが、90日変動の影響が大きい。

  堀川氏の解説資料 →  堀川氏の解説資料(PDFファイル)

  堀川氏の解説中で使用された動画(AVI)を以下にリンクします。単純にクリックしても動画が再生されない場合は、
  右クリックでファイルを保存し、そのダウンロードファイルをWindows Media Playerで再生して下さい。

  ・SEBの白雲活動の動画(AVIファイル 3.6MB)   

  ・木星面全体の動画(7.1MB)

2.Observing Venus with Akatsuki(Dr. Yeon Joo Lee)

  1)「あかつき」に搭載されている観測機器(各種カメラ)とその観測目的、観測結果を解説。
   ・1μmカメラ(IR1):下層の雲の動き、水蒸気や火山など金星の地表面の観測
   ・2μmカメラ(IR2):下層の雲の動き、一酸化炭素などの観測
   ・中間赤外カメラ(LIR):雲の温度などの観測
   ・紫外イメージャ(UVI):二酸化硫黄などの観測
   ・雷-大気光カメラ(LAC):雷放電や大気光の観測

  2)金星を周回する「あかつき」の軌道や金星との位置関係と金星の見え方、また地球と金星の
    位置関係、見え方の解説。地上からのサポート観測の必要性を解説。

  Dr. Yeon Joo Leeの解説資料 →  Dr. Yeon Joo Leeの解説資料(PDFファイル)

3.Ground-based Venus Observation of Amateur Astronomer for Akatsuki(Dr.Javier Peralta)

  1)金星の大気循環や風の様子を解説

  2)水星観測衛星 Messenger の金星フライバイ時(2007年)の観測結果と地上からのサポート観測に
    関しての解説

  3)金星探査機 Venus ExpressとMessengerによる観測から得られた金星大気や風に関しての解説

  4)「あかつき」をサポートする地上から観測体制、観測方法などの解説

  Dr. Javier Peraltaの解説資料 →  Dr. Javier Peraltaの解説資料(PDFファイル)

Dr. Yeon Joo LeeとDr. Javier Peraltaのお二人が、例会に参加された目的に関する田部氏の補足

    お二人が月惑に来られた趣旨は、Akatsukiがいろいろな都合で観測できない時期に地上からの観測で、
   データの欠落を補えないかということです。
   簡単にいうと、Akatsukiは1台しかないので常に片面しか観測できません。ある時期は地球と反対側に
   なりますが、別の時期は、地球と同じ方向からの観測となります。また、長楕円の軌道なので、連続した
   観測の間、金星の全面が観測できたり、一部しか観測できなかったりします。 
   これらを補うため、世界中のプロ、アマ問わず広く呼びかけを行っているところです。

4.火星の近況(三品)

  1)エリシウムのダストストーム

    5月26日にBAA(英国天文協会)火星セクションのデイレクター、リチャード・マッキムさん
   から”5月21日〜24日にエフライン・モラレス・リベラ(アグアディア市,プエルトリコ)さんが撮影した
   画像は、エリシウムの西(即ち、自転の逆方向)の縁にダスト明るい黄色の筋状模様の変化をはっきり
   と示している。”との指摘がありました。しかしながら、その後、大きな変化はまだ起きていません。

  EfrainMorales160524c1.jpg

  2)オリンポスの雲

    5月5日に、イギリスからダミアンピーチさんが3月19日に撮影した火星の画像が届きました。
   丁度オリンポスの頂から雲がたなびいているようすが写っています。
  DP0319JUPOS.jpg


   下の図は、この時刻の火星の様子をMars Climate Database v5.2でシミュレーションしたものです。
   (Mars Climate Database v5.2 http://www-mars.lmd.jussieu.fr/mcd_python/)
   上は水蒸気の量と風、下は気温と風の図です。赤い丸の部分を見てください、オリンポスから北西に向かって強風が吹いています。
  0319WIND1.jpg


  3)南極フードの縮退

   下の図は、Jennifer L.Bensonさんらが、”Mars’ south polar hood as observed by the Mars Climate Sounder”、
  (JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH, VOL. 115)に掲載している、南極フードと南極冠の縁の緯度変化を
  表すグラフです。南極フードは、MROのMars Climate Sounderが赤外線(12μm)を用いて、氷の雲の濃さ(光学的厚さ)を
  観測したデータを用いています。南極冠の北の縁は、Titusさんらが、TESにより観測したデータ(Titus, T. N. (2005), 
  Mars polar cap edges tracked over three full Mars years, Lunar. Planet. Sci., XXXVI, Abstract 1993)を用いています。
  こちらは、TESの温度データ(30μm)を用いて、温度の急激な変化からCO2の氷の極冠と氷の極冠を見分け、極冠の
  縁を求めています。
   Ls150°あたりでは、南極フードが南極冠の上にかぶさり、45°Sあたりまで覆っています。Ls175°を過ぎると、
  南極フードの北端が南に南極冠が現れます。

  fig2-polarhood.jpg

   5月22日と5月23日に撮影された画像です。Lsは156°〜157°です。いずれの画像も目で見た印象を忠実に表現しています。
  M160522 T. Ishibashi.JPG

  m160522_sy.jpg  m160523_.jpg


  南側の縁に白い雲が写っています。これが南極フードです。
  Winjuposを使って、白い雲の緯度を調べると、ほぼ、40°〜50°になっています。
  ikemura-0523wj.jpg


  池村さんの画像で展開図を作りました。
  ikemura0523.png

  南極から見た展開図です。
  ikemura0523p.png

                                                    以上

5.CMOSセンサーの実力(山崎)

  PCカメラのイメージセンサーとして使われているCCDセンサーとCMOSセンサーに関して、その構造と特長を解説された。
  CCDは、バケツリレー方式で高効率、画素毎のばらつきが少ないが、製造が難しくSONYなど一部の会社しか製造できなかった。
  CMOSは、各画素にアンプがあり、アンプ毎のばらつきでムラがあり、フォトダイオードの作りが悪いと暗電流が酷かった。
  しかし、製造が容易なので多くのメーカが参入し、技術革新やコスト削減が進み、CCDを凌駕した。
  数種類のCMOSカメラをテストし、各カメラの性能を比較した。
  
  現在のCMOSセンサーでは、・高感度(CCDセンサーより感度が高い)、・転送レート向上によりデータの取得数が増大、
  ・低ノイズ化が進み、その結果、ノイズの少ない画像が得られ、強めの画像処理に耐えられるようになった。
  
  現在開発中の有機CMOSは、受光光量の増加や、ダイナミックレンジの拡大が可能であり、期待されている。
  
  山崎氏の解説資料 →  山崎氏の説明資料(PDFファイル)

6.ニースで開催されたJuno Conferenceの報告(堀川)

  5月12日から13日にフランスのニースにあるコートダジュール天文台で開催されたJuno Conferenceに田部氏と堀川氏が
  参加され、その報告です。Juno Conferenceは、ジュノー探査機のミッションを地球からアマチュアがサポートする事を、
  目的とした会合で、世界中の著名なプロとアマチュアの木星観測者が集合した。
  
  堀川氏が紹介したJuno Conferenceの様子 → 堀川氏の報告資料(PDFファイル)
  
  Juno Conferenceに関する公開資料を以下にリンクします。
  
  ・Juno Conferenceの模様(スカイアンドテレスコープ誌のニュース)
  
  ・Juno Conferenceでの発表資料

7.地球照の分光観測に関する続報の中間報告(海老塚)

  理化学研究所の海老塚昇博士による地球型惑星探査を模擬した地球照の分光観測に関する続報です。
  スリットビューア追加など改良された機材を使い、ヨーロッパやアフリカからの反射光による地球照が観測できる
  2016年の4月中旬と5月中旬に、明治大学生田キャンパスで明治大学天文部惑星班の協力を得て、4夜観測を行い、
  2夜でデータを取得できた。
  現在、明治大学天文部惑星班と共同で観測結果を解析中。・・・続報に期待です。
  
  海老塚氏の解説資料 →  海老塚氏の説明資料(PDFファイル)

8.その他

    次回例会は8月28日(日曜)に明治大学-神田駿河台キャンパスで開催予定。

2次会:向ヶ丘遊園駅近くで懇親会でした(16名)



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