天文ガイド 惑星の近況 2002年5月号 (No.26)
伊賀祐一
2月の惑星観測は、火星が3名から12観測(8日間)、木星が11名から155観測(17日間)、土星が4名から13観測(6日間)の報告がありました。また、海外の観測者からも木星の報告を8名から239観測(26日間)送っていただきました。
木星:BAが大赤斑を通過中
STB(南温帯縞)にある白斑'BA'が、GRS(大赤斑)の真南を通過しています(写真1)。'BA'は2月15日UTの計測ではII=84.2°で、GRS(II=80.5°)のほぼ真南に位置していますが、経度方向の大きさが10.9°と12月27日UTの10.0°に比べてひとまわり大きくなった印象があります。また、'BA'の周囲が暗くなり、以前よりは見えやすくなりましたが、GRS通過によって大きな変化は観測されていません。
写真1 STB白斑'BA'の大赤斑通過

上:2002年2月4日、下:2002年2月25日
撮影/伊藤紀幸氏(新潟県立自然科学館、60cmカセグレイン、SONY DCR-TRV20)

この'BA'の約20°後方のSTB南側に小さな白斑(WS)があります。また、SSTB(南南温帯縞)には4個の小白斑(A,B,C,D)があります。SSTB白斑同士の距離は接近しつつありましたが、後方のCとDの白斑の間に時計回りの小白斑(cw-WS)ができました。STB白斑のBC-DEのマージやBE-FAのマージの時にも、白斑同士が接近した際に、接近を食い止めるかのように逆回りの渦が形成されました。そして、この逆回りの渦が消えた後は速やかに2つの白斑のマージが起こりました。同様なことがSSTB白斑C-Dの間でも起こるのではないかと思われます。

さらに、SSTB白斑はSTB白斑よりもやや速く前進していますので、2月25日UTの画像に見られるように、cw-WSが後方からWSに非常に近づいています。こちらも何か変化が起こりそうで、'BA'本体のGRS通過よりもSSTB〜STBにかけての他の白斑の変化が面白くなりました。

●南熱帯のstreakの消失

2001年11月10日UTに発生したSTrZ(南熱帯)のdark streakは、先月号でお伝えしたように1月8日UTに後端部がGRSから離れるとともに、次第に活動が弱まりました。2月には、streakの領域全体がすーっと淡化していく様子が観測できました。過去の観測では発生の過程はよくとらえられていましたが、消失の過程を追跡できたことは成果だと思います。また、これまでと同様にstreakは最大で90〜100°の長さまでしか成長できないことと、消失したSTrZのII=34.4°(2月15日)には2001年10月に形成されていた暗斑(中央は白い渦)が再び見えてきました(写真1)。

●北赤道縞の活動

今シーズンのNEB(北赤道縞)は活発ですが、図2に示すように2001年12月末を境として活動に大きな変化が起こりました。まず、2001年9月頃からII=160°付近で白斑が発生し、そこから前方にriftが成長しました。白斑が連続して発生することでriftの長さは最大で90°まで広がりましたが、12月末には弱まりました。しかし、riftの拡張がNEBnのバージの前進を引き起こし、11月15日UTに2つのバージが合体しました(A)。

図2 NEBのドリフトチャート(II=0〜210までの拡大)
●:NEBnバージ、○:NTrZノッチ、◆:NEB白斑(拡大)

2002年1月19日UTに新しい白斑がII=73.4°に発生すると、この白斑は早い前進を示し、前方にあったNEBnの2つのバージを追い越していきました。白斑と同じ緯度にあったバージは、1月末(B)と2月上旬(C)には一気に消失してしまいました。また、この白斑を起点とするriftは2月末にはII=220〜0°までに成長しています(写真3)。同時に、昨年の活動領域であるII=120°付近にも、新しい白斑が次々に発生して、別なriftを形成しています。NEBの北半分は明化が進行していて、本来のNEBの幅に戻りつつあります。

写真3 NEBの変化

上:2002年2月4/6日、下:2002年24/25日
撮影/池村俊彦氏、伊藤紀幸氏、永長英夫氏、風本 明氏

火星
2月の火星は視直径が5秒を切り、木星でいうと大赤斑の2/3ぐらいの大きさに相当します。さすがに観測といえる画像は得られなくなりました(写真4)。
写真4 2002年2月の火星

池村俊彦氏(名古屋市、30cmニュートン、NEC PICONA)
下段は池村氏作成のシミュレーション画像。

前号へ INDEXへ 次号へ