天文ガイド 惑星の近況 2002年8月号 (No.29)
伊賀祐一
5月上旬に、水星・金星・火星・木星・土星の5つの惑星が夕方の西空に並びました。木星は7月20日に合を迎えますので、観測シーズンの終わりとなろうとしています。国内では7名から41観測(13日間)、海外からは4名から34観測(10日間)の報告がありました。また、次第に高度を上げている金星(東方最大離角は8月22日)は、4名(内海外2名)から12観測(5日間)の報告がありました。
5月の木星
写真1に、5月に観測報告をいただいたメンバーの画像を掲載しました。2001-2002年の観測シーズンのほぼ最後を迎えました木星面をご覧下さい。これらの画像は口径25cm〜40cm反射を使用して、特殊なものとして公共天文台の60cm反射を使用して観測されたものです。使用している機材としては冷却CCDカメラ(奥田)、デジタルカメラ(池村、風本、永長)、デジタルビデオ(畑中、熊森)などと多様化していますが、それぞれが得意とする観測目標にマッチする手法があると思います。

写真1 2002年5月の木星
今月の木星観測を報告された6名の画像です。
撮影/(上段)畑中明利氏(三重県、40cm)、永長英夫氏(兵庫県、25cm)、奥田耕司(滋賀県、25cm)
(下段)風本 明氏(京都府、31cm)、池村俊彦氏(名古屋市、31cm)、熊森照明氏(堺市、60cm)(拡大)

●SSTB〜STBの活動

SSTB(南南温帯縞)には、全周で6個の小白斑が見られますが、なぜか経度はII=220〜0°に偏っています。これらのうち、後方の3個の小白斑は顕著ですが、他の白斑はずいぶんと淡いものです。最後尾の白斑は、6月号で紹介したように、3月26日頃に2個の白斑がマージしたものです(5月29日の画像参照)。

STB(南温帯縞)の白斑"BA"は、5月15日にII=45°付近に観測されましたが、よほどの良条件でないと確認するのは難しくなりました。2月末にGRSを通過してすでに3ヶ月経ちましたので、"BA"の様相には今後は大きな変化は起こらないだろうと思われます。STB(南温帯縞)はあまり目立たたなくなっていますが、II=180〜280°の経度ではベルトらしく見えつつあります。


写真2 2002年5月24/25/28/29日の木星展開図
撮影/永長英夫氏、池村俊彦氏、風本 明氏、熊森照明氏(拡大)

●RS、STrZ〜SEBの活動

RS(大赤斑)はII=81°に位置し、これまでの経度の後退傾向は停止したようにも思われます。RSは中心核を持ったオレンジ色の楕円形をしていますが、条件が悪いと形をとらえるのもむずかしくなりました。4月から見られたRSの南側の暗いアーチは5月も続いているようですが、STrZ(南熱帯)へのストリーク(streak)への発達までは起こらないと思われます。

SEB(南赤道縞)は比較的に穏やかな活動状況でしたが、次第に淡化傾向が見られるかもしれません。SEBの南北の組織が暗い二重構造で見られていましたが、少しずつ淡くなってきているようです。来シーズンはどうなっているのか、興味のあるところです。

●NEB〜NTBの活動

NEB(北赤道縞)は今シーズンで最も変化が見られたベルトですが、5月にはII=140°よりも前方にあったNEBを南北に横断する巨大なリフト(Rift)がついに消失しました。

2001年8月〜12月までの第1期のNEBの活動は、このリフトからの白斑の連続した発生が中心でした。第2期の2002年2月からNEB内に見られた、白斑の一連の活動で発生した複数のリフトが、NEB南部を前進して一周してきました。そして4月末にはNEBsのリフトが巨大リフトを追い越してしまいました。これによって2001年8月から継続していたリフトが、ついに消失してしまいました。NEBは中央部に細いベルトと4個のバージ(Barge)だけが残っています。

この巨大リフトはNEBの拡幅初期から見え始め、5月の衰退期により消失しましたので、NEBの拡幅に深く関連する現象だと思われます。

NTB(北温帯縞)は、現在の木星面では最も安定しているベルトです。一部に斜めのギャップがありますが、ほぼ全周に渡ってベルトが見られます。

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