天文ガイド 惑星の近況 2002年11月号 (No.32)
伊賀祐一
今年の夏は例年よりも暑かったように感じます。8月の惑星観測は、夕方の金星が6名(内海外3名)から28観測(13日間)、朝方の土星が4名から15観測(11日間)、木星が7名から32観測(15日間)の報告をいただきました。いよいよ、惑星の観測シーズンが始まりました。
観測シーズンの始まった木星
7月20日に合を終えた木星の最初の観測は、合の18日後の8月6日UTで、筆者の眼視スケッチでした。翌7日(以降日時はUT)には高度11°という低空にもかかわらずCCD画像を得ることができました。8日には堀川邦昭氏(横浜市)、16日には永長英夫氏(兵庫県)・安達誠氏(滋賀県)、22日には風本明氏(京都市)と観測者が増えていきました。8月に報告のあった7名の観測を写真1で紹介します。日の出時の高度が20°を超えた21日以降は、CCDでもクオリティが上がってきています。8月後半は台風の影響もありましたが、やはりどっかりとした太平洋高気圧のおかげで、シーズン初めだというのに、2枚の展開図を作成することができました(写真2)。2001-02年のシーズンの最終観測は6月3日で、2ヶ月ほどの観測の空白期間での変化を追いかけるのがシーズン初期のテーマです。

写真1 2002年8月の木星面
観測者/(左上から)伊賀祐一(京都市)、安達誠(滋賀県)、風本明(京都市)、
永長英夫(兵庫県)、堀川邦昭(横浜市)、米山誠一(横浜市)、平林勇(日野市)(拡大)

写真2 2002年8月21/22/24/25日の観測からの木星展開図
撮影/永長英夫(兵庫県、25cmニュートン、NEC PICONA)、
風本明(京都市、31cmニュートン、NEC PICONA)(拡大)

●SSTB〜STB

SSTB(南南温帯縞)は大きな変化はないようで、濃いベルトはII=140-190°,II=280-40°の領域です。

STB(南温帯縞)は大赤斑の後方のII=140-190°でやや濃いベルトが見られますが、昨シーズンと同様にこの後方では南に階段状にシフトしてSTBs(南組織)を形成しているようです(28日の堀川氏スケッチ)。これとは別に、II=15°付近にSTBに暗斑がありますが、これをSTB白斑'BA'を見つける目印にしてください(31日の平林氏スケッチ)。残念ながら'BA'はまだ検出されていませんが、この暗斑の直前のII=0°付近に存在しているものと思われます。

●GRS

GRS(大赤斑)は、7日の画像の右端にも写っていますが、II=83.5°と少し後退しています。24日の永長氏の画像に見られるように、GRSの南側を暗部が取り巻いており、これはGRS前方からSEBsを高速に後退してきた暗物質が、GRSの周囲を左回りに回りこんできたものです。この状況は、1998年,2000年,2001年に見られたGRS前方のSTrZ(南熱帯)のダークストリーク(dark streak)の発生直前に近い雰囲気です。31日の平林氏のスケッチではSTrZに暗いベルト状の模様が見えていますが、今後の観測で明らかになるでしょう。

●SEB

SEB(南赤道縞)は淡化することもなく、昨シーズンから大きな変化は起こっていないようです。SEBsとSEBnの南北組織に分かれて見え、II=280-70°ではSEBsが濃く、それ以外の領域ではSEBnが濃く見えています。GRS後方の定常的な擾乱(じょうらん)領域にも明るい白斑の出現も見られないようです。

●NEB

NEB(北赤道縞)はまだ活発な活動が見られます。昨シーズンはNEBの拡幅期でしたが、4月頃から衰退期に入り、元の幅のNEBに戻りつつありました。8月では、II=40-130°の90°の領域だけが幅の広い状況ですが、それ以外のNEBは幅が狭くなっています。ただし、NEB内部には白いリフト(rift)が斜めに走る様子が2ヶ所(II=50-130°、II=250-280°)で見られます。一方、NEBn(北組織)の赤茶色の斑点バージ(barge)は、昨シーズンの6個から2個と減少しています。NTrZ(北熱帯)に見られる白斑ノッチ(notch)も、昨シーズンの5個から3個に減少しています。まだ条件が良くないからかもしれませんが、少し変化が見られます。NEBs(南組織)の南に見られる青暗いフェストーン(festoon)は全体としては活発ではありませんが、I=240,275°のものは特に暗く見られます。

●NTB〜NNTB

NTB(北温帯縞)は全周に渡って暗い1本のベルトとして見られます。またNNTB(北北温帯縞)以北は全体として暗く、目立った模様は見られません。

新しい2002-03年の観測シーズンを迎えた木星ですが、合の間に大きく変化した様子はなかったようです。これからのテーマとしては、STB白斑'BA'はどうなっているか、STrZにダークストリークが発生するのか、EZs(赤道帯南組織)に見られる白斑状のものはGWS(大白斑)なのか、などが挙げられます。

環の広がった土星
明け方の東空に見られる土星は、8月末には高度が60°になり、かなり条件が良くなってきました。土星は黄道面に対して自転軸が約27°傾いているので、環の見え方は1土星年(約29.5年)で大きく変わります。ここ数年は南に大きく傾いていて、環の中に土星本体がすっぽりと入っている姿を見ることができます。そのために南半球の高緯度地域の観測に適しています。

写真3のように、8月の土星面には特に変化は見られません。土星も木星と同様に平行な縞模様が見られますが、SEB(南赤道縞)が二重になっていて、SEBn(北組織)が太いベルトで顕著です。EZ(赤道帯)は明るい領域で、中央にEB(赤道縞)が見られます。EZからSEBnの領域には、明るい白斑が出現することがあります。最近では1996年と1998年にEZsに白斑が出現しています。

写真3 2002年8月22日の土星

撮影/風本明(京都市、31cmニュートン、NEC PICONA)
金星の紫外線画像
8月22日が東方最大離角であった金星は夕方の西空に見られました。金星は可視光ではほとんど鮮明な模様を見ることはできません(写真4)。南北の明るい極冠や、明縁側が明るく見える他には、極めて淡い表面模様が見られる程度です。
写真4 可視光による金星画像

撮影/風本明(京都市、31cmニュートン、NEC PICONA)、米山誠一(横浜市、20cmニュートン、NEC PICONA)

新川勝仁氏(大阪府堺市)は、金星を紫外光(UV)でねらって精力的な観測を行いました(写真5)。可視光でははっきりしない金星も、紫外光では明瞭な模様を写すことができます。アイピースによる吸収を避けるために直焦点を使用し、IDAS-Uフィルター(透過幅350nm-390nm)での撮像を行っています。また、青感度の高いCCDチップによるデジカメを使用するなど、十分な配慮を行うことで、鮮明な表面模様を追跡することができています。金星の紫外線模様は、4日の周期で公転とは逆方向に高速に回転していることが知られています。


写真5 紫外光による金星画像(IDAS-U filter)
撮影/新川勝仁(大阪市堺市、28cmシュミットカセグレイン直焦点、Minolta DimageEx1500)(拡大)

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