天文ガイド 惑星の近況 2002年12月号 (No.33)
伊賀祐一
9月は周期的に天候が変わり、4日間ほど好天が続くと2-3日は全国的に天候が悪いといった状態が続きました。中旬と下旬には台風の影響で欠測日が多くなってしまいました。9月の惑星観測は、夕方の低空の金星を新川勝仁氏(堺市)が9観測(5日間)、条件の良くなった土星が16名(内海外3名)から56観測(18日間)、木星が13名(内海外2名)から130観測(21日間)の報告をいただきました。
木星
9月に入り、木星の高度もずいぶんと高くなり、次第に詳細な観測が得られるようになりました。前月号では大きな変化は起こっていないと紹介しましたが、観測数が増えるにつれて、いくつかの変化がとらえられました。。

@ 淡化しつつあるSEB

大赤斑(GRS)後方のSEB(南赤道縞)に淡化傾向が見られます(写真1)。GRS直後のSEBZ(南赤道縞帯)には、8月後半からやや活発な白斑群が見られていましたが、9月もII=90〜140°の領域に白斑が見られ、少し後方に拡大しています。この白斑群の活動とは直接には関係しないと思っていますが、GRSの後方からSEBs(南組織)だけがずいぶんと淡くなっています。淡化部の後端は、8月末でII=180°付近でしたが、9月末にはII=230°付近まで広がりました。SEBn(北組織)は濃いベルトのままですが、SEBsだけが淡くなっています。このままSEB全周に淡化が波及することも予想されますが、GRS後方の活動はなかなか全周まで影響しない現象が多いのも事実です。今後も後方に淡化が広がると面白くなるのですが。

写真1 SEB(南赤道縞)の変化
昨シーズン(上段)は一様に濃いベルトだったSEBが、今シーズンは大赤斑後方でSEBsが淡化している。(拡大)

A 大赤斑とSTrZの活動

8月24日UTに見られたGRS(大赤斑)を取り巻く暗部の活動は、STrZ(南熱帯)のダークストリーク(dark streak)へと発達するのではないかと予想していましたが、9月には逆に暗部は淡くなってしまいました。むしろ、GRS自体のオレンジ色が濃くなっている印象があります。SEBZの淡化とGRSの濃化には関連があることが知られていますので、これからの観測が興味深くなりました。

B STB白斑’BA’とSTBの新しい活動

STB(南温帯縞)の白斑’BA’が、9月2日UTの観測からようやくとらえられました(写真2)。経度は2日UTでII= 359.7°、9日UTでII=358.6°、19日UTでII= 354.9°です。’BA’は明るさもなく、予想通りにSTBの短い暗部の直前に位置していました。しかし、条件の悪かった9日、19日、24日の観測でははっきりととらえることができませんでした。

II=130〜200°の領域ではSTBが復活しており、その後方のII=240°までの領域ではSTBs(南組織)が濃く見られます(写真3)。復活したSTBの前方でもGRSに向けて細いSTBが見られます。また、この付近のSTBの南側のSTZ(南温帯)はシェードされており、いくつかの白斑が見えているようです。この領域には新しいSTBの活動が起こりつつあるようです。

写真2 STBの白斑'BA'

ようやくとらえられた'BA'だが、明るさがないのでとても見にくい。
撮影/永長英夫(兵庫県、25cmニュートン、NEC PICONA)

C 細くなったNEB

NEB(北赤道縞)は、II=20から120°の領域で幅が広いままの状態ですが、全体的に幅が狭くなりました。幅が狭くなったNEB北縁は明部や暗部が入り乱れています。昨シーズンはよく見えたバージ(barge)はかなり数が少なくなりました。また、ノッチ(notch)と呼ぶ白斑も、幅が狭くなってNTrZ(北熱帯)に露出したために見えにくくなってしまいました。

写真3 2002年9月22/23/24/25日の展開図
撮影/永長英夫(兵庫県、25cmニュートン、NEC PICONA)(拡大)
土星
土星は夜半過ぎに東空に姿を見せ、夜明けには天頂付近に見られます。今シーズンも自転軸が大きく南に傾いていて、土星本体が環に包み込まれている姿を見ることができます。

昨シーズンと比較して、土星表面に見える暗い縞模様には大きな変化は見られません(写真4)。SEB(南赤道縞)が濃いベルトとして見えていて、特にSEBn(北組織)が濃い状態です。EZ(赤道帯)は明るく、中央にEB(赤道縞)が見られます。STB(南温帯縞)が淡く見えています。SPR(南極地方)は暗く見えていて、その周りのベルトはSSSTB(南南南温帯縞)です。

写真4 土星

昨シーズン(上段)と今シーズン(中段/下段)の模様の見え方は大きく変わっていない。
撮影/風本 明(京都市、30cmニュートン、NEC PICONA)
スケッチ/平林 勇(東京都日野市、20cmニュートン、x411)

一方、明るい帯(Zone)については、新川勝仁氏が今シーズンのSTrZ(南熱帯)〜STZ(南温帯)にかけての地域の青味が強くなっていることを指摘しています(9月27日)。色調の変化を定量化するのはむずかしいのですが、継続的に追いかけてみたいと思います。

9月29日UTにE.グラフトン氏(米国テキサス)から高解像度画像の報告があり、土星の中緯度(STB北縁)に小さな白斑が出現し、自転に伴って移動する様子がとらえられました。経度はω3=94.5°ですが、土星面上に自転を追いかける模様が出現することは非常にまれです。ただし、とても小さな白斑ですので、日本でのシーイングではとらえるのは無理なのではと思われます。

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