天文ガイド 惑星の近況 2003年1月号 (No.34)
伊賀祐一
10月は4日晴れると3日曇るといったように周期的に天候が移り変わりました。しかしながら、例年よりは早く北西の季節風が吹き、それまでの夏場の好シーイングとは一転して悪気流に悩まされる日々でした。条件の悪い時は撮像枚数を増やしてもつらいものがあります。それでも安定したシーイングに恵まれる時もあり、このような日には観測報告が一気に送られてきて、観測者のうれしそうな顔が浮かびます。さて、10月の惑星観測は、木星が21名(内海外5名)から115観測(25日間)、土星が15名(内海外4名)から86観測(15日間)、金星が1名から2観測(2日間)、水星が海外の観測者1名から10観測(4日間)の報告を受け取りました。
木星

@ STBの活動

前月号でSTB(南温帯縞)の新しい活動ではないかと紹介した現象は、実は従来からこの領域に見られていた2つの現象がからみ合ったものでした。今シーズンになり、大赤斑の後方のII=120〜210°では、STBが濃化し、その南側には多くの白斑群が見られました。2000-01年のシーズンから、STBは白斑'BA'の後方の短いベルトと、その後方180°付近に長さ35°のベルトが見られていました。このベルトが10月にはII=120〜165°に位置し、さらにその後方の経度では階段状に南にシフトしたSTBs(南組織)がII=165〜210°に見られます。これがSTBの濃化部として見られているものです。

一方、SSTB(南南温帯縞)には6個の小白斑が存在しています。2002年3月末にこれらの小白斑の2個が合体する様子は2002年6月号で紹介しました。これらの6個の小白斑は次第に経度の幅をせばめていて、90°の領域に集中しています。SSTB白斑のドリフトはSTBよりも早く、STBの模様を後方から追い越していきます。ちょうど10月に、SSTBの6個の白斑はII=120〜210°の位置にあり、これはSTB〜STBsのベルトの位置と一致しています。この偶然によってSTBの新しい活動に思われたわけですが、それぞれが別々な現象としてとらえるべきだと判明しました(写真1 中央)。

STBに唯一見られる白斑'BA'は、10月22日UTにII=343.0°に位置し、-12.5°/月のドリフトで前進しています。'BA'は輝度がないためにとらえにくい対象ですが、直後のSTBに暗斑があり、周囲を薄暗く囲まれた明部として見ることができます(写真1 左)。


写真1 10月の木星面
10月10日のCM後方に'BA'。10月16日のCM後方にSSTB白斑とSTB。
撮影/永長英夫(兵庫県、25cmニュートン、NEC PICONA)(拡大)

A SEBsの淡化のその後

大赤斑後方のSEBs(南赤道縞南組織)が淡化しつつありましたが、10月には淡化はおさまってしまいました。SEBsは大赤斑後方から、8月末にはII=170°まで、9月末にはII=230°まで淡化が広がっていましたが、10月に入るとII=240°より後方には淡化が波及せず、逆に少しSEBsがはっきりとしてきました。大赤斑後方のSEBsの淡化は過去にも見られていますが、なかなかSEB全周の淡化にまで波及しないようです。

B 大赤斑

GRS(大赤斑)はII=82-83°に位置しています。周囲を暗部に囲まれていない状態でGRS本体が見えていて、オレンジ色がやや強くなりました。画像からの計測でもエッジが見にくく、経度にふらつきが出てしまいますが、眼視では直後のSEBsの暗部や前方への弱いストリークの影響で誤差が大きくなっているようです。さらに、GRS後方からSTBの濃化部が伸びてきており、STBn(北組織)はGRSにつながっているように見えます。10月はSTBの気流との相互作用が強くなってきた感じです。

C NEB

NEB(北赤道縞)は幅の広がった拡幅期を終えて、通常の幅に戻ってきました。NEB北縁の淡化が進んだおかげで、ずいぶんと凸凹が目立ちます。NEB内部の白いリフト(rift)も、明瞭ではありませんが、活動的です。NEBn(北組織)には、赤茶色のバージ(barge)がII=0,40,110,200,240,275,310°に見られますが、大きさは縮小し、また昨シーズンから継続しているものは110,240,275°の3個ぐらいしか無いようです。一方、昨シーズンは顕著だったNTrZ(北熱帯)の白斑ノッチ(notch)は、NEB北縁の淡化によって見えなくなったものが多く、かろうじてII=70,320°に残っています。

写真2 2002年10月の展開図
撮影/永長英夫(兵庫県、25cmニュートン、NEC PICONA)(拡大)
土星
9月29日UTに米国のE.グラフトン氏から、STB(南温帯縞)北縁に小白斑の自転をとらえた高解像度の画像の報告がありました。10月7日UTにも同一の白斑をとらえていますが、よほどの良シーイングに当たらない限り、難しい対象でした。その後は、自転を追いかけることのできるような模様の出現は見られませんでした。STrZ(南熱帯)〜STZ(南温帯)にかけての緯度の模様が青味を帯びてきているようですが、シーズンを通じての追跡が必要です。土星は2002年12月18日に衝を迎えます。今シーズンは写真3のように南に大きく傾いて、環がとても見やすい姿を見せています。
写真3 土星

撮影/畑中明利(三重県、40cmカセグレイン)、風本 明(京都市、30cmニュートン)、森田光治(滋賀県、20cmニュートン)

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