天文ガイド 惑星の近況 2006年10月号 (No.79)
伊賀祐一

2006年7月の惑星観測です。今年の梅雨明けは7月末となり、17日から連続8日間の欠測日があるなど、天候に恵まれませんでした。木星は、45人から31日間で526観測(そのうち海外から30人で357観測)と、海外からの観測に頼る状況でした。10月26日に外合となる金星も、すべて海外からの報告で、5人から23日間で100観測でした。

木星

@STB白斑"BA"が大赤斑を無事に通過

STB(南温帯縞)の白斑"BA"は、7月13日に大赤斑(GRS)の真南を通過しました(画像1)。BAが大赤斑を通過する際に、その赤味が消失するような大きな変化は見られませんでした。オレンジ色のドーナツ型をしたBA本体は、通過後も同様の姿が観測されていて、その渦の勢力は保たれたままのようです。 しかし、BA直前のSTBの暗部が前方に伸びたこと、STBnの暗斑群が前方に伸びて細いベルトを形成したこと、BAを取り囲む暗い縁取りが少し横方向に引き伸ばされたことなど、過去にSTB白斑が大赤斑を追い越す際に見られた現象が今回も観測されました。 BAが経度方向に引き伸ばされた現象を詳しくみると、今回注目されているオレンジ色のドーナツ型コアが、大赤斑通過前には中心よりやや右寄りでしたが、大赤斑通過後には中心よりもやや左に寄っています。ドリフトチャートからは、大赤斑通過時のBAの加速現象は大きくなく、これは暗い縁取りが通過時にいびつに見えたためと思われます。 STB白斑は、大赤斑を通過した後、特に前方30度ぐらいまでは変化を起こす可能性があります。しばらくは注意が必要でしょう。

画像1 大赤斑を通過するSTB Oval "BA"(BAが中央で固定された特殊経度)

撮影/ 月惑星研究会

A終盤となったmid-SEB outbreak

今シーズンのSEB(南赤道縞)を活動的なベルトにしていたmid-SEB outbreakは、昨年12月の発生から7ヶ月を経過しました。7月下旬の発生源の位置はII=200°まで前進し、そこから大赤斑後方のII=120°までの80°の領域だけに白斑が観測されました(画像2)。outbreakの活動領域の長さは、5月の160°を最大として、急速に縮小しています。明るい白斑の出現も少なく、これ以上outbreakの縮小が続くと、今は消失してしまった定常的な大赤斑後方擾乱領域と区別がつかなくなってしまうかもしれません。


画像2 縮小するmid-SEB outbreakの活動(拡大)

BNEB北縁の白斑の合体

先月号でお伝えしたように、NEB(北赤道縞)北縁にある2つの白斑が合体しました。1つは1997年から継続している白斑"Z"(WSZ)で、もう1つはノッチである白斑"Y"(WSY)です。白斑"Z"は、他のNEB北縁の白斑よりもかなり早く前進し、その前方にある白斑"Y"に接近していました(画像4)。 5月下旬に14度まで接近すると、白斑"Z"は衝突を避けるかのように前進速度がゆっくりとなりました。その後、6月24日に6度まで接近した際に、2つの白斑はお互いの周りを時計方向に回り込む動きが観測されました(画像3)。そして、6月29日に2つの白斑は、合体して1つの白斑になったように見えます。7月11日に、合体した白斑が2個あるいは3個に分離しているように見えましたが、7月26日には再び1つの白斑に見えます。合体後の白斑は、元の白斑"Z"と同じ速さで前進しています。 BAAのJ.Rogers氏の解析では、9月29日にマージしたように見えた2つの白斑は、7月1日の宮崎勲氏の画像で白斑"Y"の一部が白斑"Z"の南側を通り越していると報告しています。

画像3 合体したNEB北縁の2つの白斑


画像4 NEB北縁の白斑のドリフトチャート


CEZsにリフトが出現

EZs(赤道帯)にはSED(South Equatorial Disturbace)の活発な活動が見られます。長さが10度ほどの暗部が、I系で30°と300°の2ヵ所にあります。これらの暗部はEZsが黄色く変化し始めた5月頃に形成されたものです。 7月11日頃にその1つのI=30°の暗部が大赤斑に近づくと、その30°ほど前方のSEBnから白雲がEZsに流れ込むようなリフトが生まれました。このリフトは7月19日頃に大赤斑を通過し成長しました(画像5)。過去のSEDでは、活発な白斑の活動がメインで、白斑が大赤斑を通過すると活発になることが知られています。今後は暗部だけでなく、リフトが白斑に成長して、SEDの活動が活発になるかもしれません。


画像5 2006年7月26/27/29日の木星展開図(拡大)

D大赤斑とdark streak

6月上旬から大赤斑の前方のSTrZ(南熱帯)に伸びていたdark streakは、6月下旬にはII=20°までの長さ80度に成長しました。ところが、7月2日頃にはstreakの後方から次第に淡化する様子が観測されました。これは、大赤斑の南をぐるりと回り込む暗物質の供給がなくなったためです。7月下旬にはstreakはII=0-40°と短くなっています。近年の観測では、dark streakは成長しても長さが100度ぐらいまでで、その後はstreakの後方から淡化することが分かっています。 streakとSEBsとの間にはさまれていた白斑Qは、7月27日の画像ではII=85度に存在しています。非常にゆっくりと後退していて、いずれは大赤斑の渦に巻き込まれるものと思われます 大赤斑は南側の暗いアーチがなくなったために、オレンジ色の大赤斑本体がむき出しの状態となりました。

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