天文ガイド 惑星の近況 2006年11月号 (No.80)
伊賀祐一

2006年8月の惑星観測です。木星は25人から31日間で428観測(そのうち海外から10人で120観測)の報告がありました。11月22日に合になりますが、この時期の西空は黄道の傾きが小さく、低空での観測となりました。9月6日に衝となる天王星は14人から20日間で95観測(そのうち海外から11人で81観測)、8月11日に衝となった海王星は4人から5日間で11観測(すべて海外)。明け方の8月31日に外合となった水星は3人から9日間で24観測(すべて海外)、10月26日に外合となる金星は7人から14日間で43観測(そのうち海外から5人で40観測)の報告がありました。

木星

@STB白斑"BA"の大赤斑通過

今シーズン、赤くなって注目されているSTB(南温帯縞)白斑"BA"は、7月13日に大赤斑の南を通過しました(画像1)。五角形をした"BA"の内部に、オレンジ色のドーナツ型コアが見られ、大赤斑の南を通過した後も健在のままです。このままずっと赤くなったままなのか、あるいは赤味が消失して元の白い白斑に戻るのか、今後の観測が注目されます。 BAが大赤斑を通過した際に、ドーナツ型コアには変化は見られませんでしたが、BAを取り囲む五角形の形に少し変化が見られました。大赤斑を通過する前には南東(左上)方向に引き伸ばされ、大赤斑を通過した後には南西(右上)方向に引き伸ばされました。この現象も大赤斑から離れた8月中旬以降には元の状態に戻りました。 ところで、BAの後方30度に位置するSTBsの小白斑が、8月に入ると前進速度が鈍り、BAとの距離がやや広がりました。BAが加速したのかもしれませんが、この緯度の白斑にはしばしば見られる現象です。小白斑が大赤斑を通過すると、再び加速して、BAとの距離が狭まっていくものと思われます。

画像1 大赤斑を通過するSTB Oval "BA"(BAが中央で固定された特殊経度)

撮影/ 月惑星研究会

Amid-SEB outbreakの終了

2005年12月に発生したmid-SEB outbreakの活動は、8月初めにはII=200°から大赤斑後方までの80度の範囲でしたが、次第に後端部が前進するとともに、新たな明るい白斑の出現もなくなり、8月末にはII=150°から前方の30度という狭い範囲となりました(画像2)。特に8月20日を過ぎると急速に白斑の出現がなくなりました。大赤斑の後方には定常的な大赤斑後方擾乱領域が知られていますが、mid-SEB outbreakが後方から迫ったために5月には消失しました。ところが、8月の大赤斑後方の様子を見ると、outbreakの白斑というよりも、大赤斑後方擾乱領域の活動と見えます。いつからoutbreakが終了したのか分かりませんが、少なくとも8月末には定常的な大赤斑後方擾乱領域の活動に戻ったものと考えられます。


画像2 mid-SEB outbreakの活動の終了
撮影/ F.Carvalho(ブラジル、18cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)(拡大)

ところで、5月ごろから大赤斑前方のSEB(南赤道縞)の北部に、小さな白斑と暗斑が入り乱れている様子が観測されました。この現象はどうして起こったのかを説明するために、SEBに見られた白斑をプロットしました(画像3)。○印がmid-SEB outbreakの白斑、■印が大赤斑後方擾乱領域の白斑、▲印がSEB北部の白斑を示します。この図から、outbreakの白斑が大赤斑後方に迫リ、4月には大赤斑後方擾乱領域を前方に押しやっていることが分かります。そして、ついには圧迫されて行き場のなくなった大赤斑後方擾乱領域の白斑が大赤斑を超えて、前方のSEB北部に噴き出したものと考えられます。 また、outbreakの後端部は、2005年12月の発生から自転周期9時間55分28秒でゆっくりと前進していましたが、5月から急に前進速度が9時間54分58秒と速くなりました。1998年のoutbreakも今回と同様に活動範囲の非常に大きなものでしたが、この時は活動の終盤に後端部が一気に80度も消失しました。今回のoutbreakの活動には、後端部が一度にジャンプするような現象は見られませんでしたが、後端部の前進速度が急に加速するという、これまでに観測されたことのないパターンが見られました。

画像3 mid-SEB outbreakのドリフトチャート


BNEB北縁の白斑

6月29日に、NEB(北赤道縞)北縁にある2つの白斑が合体しました。1つの白斑は1997年から追跡されている白斑"Z"で、もう1つはその前方にある白斑"Y"でした。白斑"Z"は、同じ緯度にある他の白斑よりも早く前方に移動するために、ついに追い付いて、2つの白斑は合体しました。合体後の白斑"Z"は、合体前よりもひと回り大きな白斑となり、以前と同じ早い前進を続けていました。画像4に示すように、8月末には白斑"Z"は、さらに前方にある別のNEB北縁の白斑にして接近しています。9月にも再度合体が見られるかもしれません。 NEB北縁の白斑は高気圧性の渦です。SSTBの白斑も同じく高気圧性の渦です。SSTBの白斑どうしが合体する直前には、白斑の間に低気圧性の渦ができ、それが消失すると合体が始まりました。今回のNEB北縁の白斑が合体する際には、低気圧性の渦は見られませんでした。白斑どうしの合体にはいくつかのパターンがあるのかもしれません。

画像4 NEB北縁の白斑の接近

撮影/ C.Go(フィリピン、28cm SCT)

CEZsに白斑が出現

EZs(赤道帯)に見られるSED(South Equatorial Disturbace)の活動が活発です。EZsが黄色く変化し始めた5月頃から長さが10度ほどの暗部が出現し、8月にはI系で0°と30°、300°の3ヵ所にあります。7月11日にI=0°にSEBnからEZsに白雲が流れ込むリフトが出現しました。7月19日にリフトが大赤斑を通過するとさらに発達していましたが、8月には立派なEZsの白斑に成長しました。SEDの活動は、やはりEZsの白斑の活動が中心です。EZsの白斑は約50日で一周することが知られていて、9月上旬には再び大赤斑に接近します。


画像5 2006年8月13/16日の木星展開図
撮影/ 月惑星研究会(拡大)

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