天文ガイド 惑星の近況 2007年1月号 (No.82)
伊賀祐一

2006年10月の惑星観測です。木星は11月22日に合となりますが、3人から10日間で11観測(そのうち海外から1人で1観測)の報告がありました。9月6日に衝を迎えた天王星は、4人から4日間で12観測(そのうち海外から1人で5観測)の報告がありました。朝方に高度を上げている土星は17人から23日間で233観測(そのうち海外から11人で29観測)と、報告が増えています。

木星
木星は11月22日に合を迎えますが、赤緯が低いために低空での観測となりました。こうした条件が悪い中を、Robert Heffner氏(名古屋市)と福井英人氏(静岡県)から熱心な観測報告が寄せられました。残念ながら詳細な観測とはいきませんが、大きな変化は起こっていないようです。2005-06年の観測シーズンの最後の観測は、10月29日の福井氏でした。

新しいシーズンの観測は、12月中旬に始まることでしょう。特に、赤くなったSTB白斑"BA"の動向が気になります。大赤斑や、mid-SEB outbreakが発生したSEBがどのように見えるでしょうか。また、NEBは細くなっていないでしょうか。さらに、淡化したままのNTBはいつ復活しても不思議ではありません。これらのことに注意して、新しいシーズンの観測に取り組むと良いでしょう。

木星:2005-06年のまとめ(1)
2005-06年の木星面に見られた現象について、今月号からテーマ別に解説を連載します。

◆STBの小赤斑"BA"

観測シーズンを通じての最大のイベントは、STBに位置する"BA"と呼ばれる白斑が小赤斑に変化したことが挙げられます。

画像1 STBの小赤斑の最初の報告(2006年2月27日)

撮影/C.Go(フィリピン・セブ島、28cm SCT)

最初の報告は、フィリピン・セブ島のChristopher Go氏が2006年2月27日に撮影した画像で、「STB白斑が赤く変化している」というものでした(画像1)。この情報は世界を駆け巡り、BAが赤化している観測が増えてくると、プロの研究者が注目してきました。そして4月には、めったに木星に向けないハッブル宇宙望遠鏡(HST)の観測が行われました(画像2)。こうして、これまでのSTB白斑の五角形の外形の中に、本来のBAを構成する高気圧性の渦が、オレンジ色のドーナツ状に見えるようになったのが、小赤斑であることが分かってきました。

この頃から、STB白斑は"Red Spot Jr."とも呼ばれるようになりました。それは、小赤斑が大赤斑と同じような勢力をもったと想像されたからでした。大赤斑は高気圧性の渦で、下層の物質(リン化合物)が上昇気流で高層まで運ばれ、そこで紫外線と反応して赤く見えていると言われています。STB白斑も高気圧性の渦で、それが大赤斑と同じ赤くなったということは、大赤斑と同様の強力な上昇気流を持つ渦に成長したと考えられます。


画像2 ハッブルによる小赤斑の観測(2006年4月25日)
提供/NASA(拡大)

画像3に、小赤斑が大赤斑に後方から接近し、さらに大赤斑を追い越すまでを約1か月ごとにまとめました。7月13日には、小赤斑は大赤斑の真南を通過しました。この際にはハワイ・マウナケア山頂の8.1mジェミニ望遠鏡での観測も行われました。

この小赤斑について、これまで誌面ではSTB白斑の赤化という、少し控えめの表現をとってきました。STB白斑の過去の観測を知っていたからでしょうか、これまでにもSTB白斑が赤みを帯びたことがありましたが、すぐに元に戻っていますので、それほど重要視しませんでした。また、STB白斑はこれまで約2年ごとに大赤斑を追い越していますので、一部で報道された小赤斑と大赤斑の衝突は起こらないだろうと思っていました。STB白斑が大赤斑を追い越すと、STBのベルトが消失したり、逆にベルトが前方に伸びたりする現象を見てきました。だから、小赤斑が大赤斑を通過すると、巨大な大赤斑の渦の影響を受けて、小赤斑の赤みが消えてしまうのではないかと考えていました。結果として、小赤斑は私が予想していたよりもはるかに強力な渦で、大赤斑を通過した後も、形状についても赤い色についても、その勢力を保ったままでした。

画像3 大赤斑に接近・通過する小赤斑

撮影/ 月惑星研究会

土星:観測シーズン始まる
土星は8月8日に合を終え、朝方の東天で高度を上げていて、次第に観測条件が良くなってきました。国内の観測者からも、画像4のような詳細な土星の様子がとらえられてきました。合を終えて、本体の影が西側(左)のリングに投影されていますが、衝を過ぎると今度は東側(右)のリングに移ります。今シーズンは土星の傾きが小さくなっていますので、リングの間に見えるカッシーニの空隙を全周にわたってクリアーにとらえるのは難しいかもしれません。良い気流に恵まれた時の目安でしょうか。

画像4 2006年10月の土星

撮影/池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、風本 明(京都市、31cm反射)

昨シーズンとの比較を画像5にまとめました。まず気づくのは、リングの傾きがとても小さくなったことです。と言っても、土星面地心緯度DEは3月18日で-22度、10月9日で-15度と、わずか7度の差しかありません。数値以上に傾きが小さくなったと感じます。また、長い間リングが大きく開いていたためか、今年の方が最も土星らしいバランスに思われます。

土星本体に見られる縞模様の名前を、画像5右のそれぞれの展開図に示します。土星の傾きが変わっていますが、展開図で比較することによって昨シーズンからの変化が分かりやすいと思います。まず、最も目立つ幅広いベルトはSEBで、SEBnの方が濃い状況に変化はありません。その南のSTBも二重のベルトで変化はありません。今シーズンで最も変化しているのは、南極から高緯度の領域(SPR)です。この領域の赤味が強くなり、さらに赤くなった領域がSSTB付近まで拡大しています。一方、北半球ではNEBの緯度を観測しやすくなりましたが、明瞭なベルトは見られません。


画像5 昨シーズンと今シーズンの土星の比較
撮影/P.R.Lazzarotti(イタリア、31cm反射)、J.Kirchhoff(米国、23.5cm SCT)(拡大)

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