天文ガイド 惑星の近況 2007年2月号 (No.83)
伊賀祐一

2006年11月の惑星観測です。惑星サロンで紹介しているように、水星・金星・火星・木星は太陽の近くにあり、観測することはできませんでした。今月は朝方に高度を上げている土星だけが観測対象となり、25人から25日間で219観測(そのうち海外から12人で69観測)とかなり低調でした。また、月初めは気流にも恵まれましたが、中旬以降は天候にも恵まれなかったようです。

木星:2005-06年のまとめ(2)
木星は11月22日に合を迎えました。12月中旬には新しいシーズンの観測が始まることでしょう。今月も2005-06年の木星面に見られた現象を解説します。

◆mid-SEB outbreak

SEB(南赤道縞)は木星面で最も目立つベルトです。観測シーズンが始まってまもなくの2005年12月18日UTに、永長英夫氏(兵庫県)はII=350°のSEB中央に1個の明るい白斑の出現を発見しました(画像1)。永長氏の精力的な追跡観測によって、12月23日および25日には白斑が2個に分離し、前方の白斑は北寄りで、さらにその前方に青黒い暗部が見つかりました。これはmid-SEB outbreak(SEB中央の白斑突発現象)の典型的な発生初期のパターンでした。

画像1 mid-SEB outbr9eakの発見

撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)

mid-SEB outbreakは、SEB南部の1つの発生源から次々と白斑が発生し、SEB北部を白斑が急速に前進し、SEBを白斑群で埋め尽くす現象です(画像2)。白斑と白斑の間は、青黒い暗部で区切られた独特のパターンを見ることができます。また、発生源と大赤斑との距離がoutbreakの規模と相関を持つことが知られています。大赤斑の後方100°以内で発生する小規模なoutbreakは、近年では2001年1月、2001年12月、2002年12月、2003年9月と毎年のように発生しています。大赤斑の後方200°を超えて発生する大規模なoutbreakは、1966年11月、1986年12月、1998年3月の3回しか起こっていません。今回のoutbreakは、大赤斑の後方242°で発生し、大規模な活動が予想されました。

画像2 mid-SEB outbreakの分類

大赤斑と発生源との距離によって活動の規模が分類される。

画像3はほぼ1ヵ月毎のoutbreakの発達の様子を展開図で示し、画像4はSEBに見られた白斑のドリフトチャートを示します。12月に発生したoutbreakの白斑の前端部は、急速に前進を続け、2006年3月末には大赤斑後方擾乱領域の後方に達しました。両者の白斑は交じり合うように前進し、5月中旬にはoutbreakの白斑のみが残りました。このとき、後方から押し出された大赤斑後方擾乱領域の白斑は、大赤斑の前方に噴き出して、SEB北部の白斑として観測されました。過去の観測では、outbreakの白斑と大赤斑後方擾乱領域の白斑は決して交じり合わないものだっただけに、今回のこの現象には驚きました。

4月下旬にoutbreakの活動範囲は約160°と最大長になりましたが、5月に入るとoutbreakの後端部の前進速度が急に速くなり、その後は急速にoutbreakの活動は弱まってしまいました。8月末にはII=150°から前方30°の範囲に縮小し、どちらかというと定常的な大赤斑後方擾乱領域になってしまったと考えられます。


画像3 mid-SEB outbreakの発達
撮影/月惑星研究会(拡大)

画像4 mid-SEB outbreakのドリフトチャート

○印がmid-SEB outbreakの白斑、■印が大赤斑後方擾乱領域の白斑、▲印がSEB北部の白斑

土星:南極に巨大な目を持つ嵐
カッシーニ探査機によって、土星の南極に巨大な目を持つ嵐がとらえられました(画像5)。その大きさは8000kmもあり、地球の直径の2/3にも達しています。3時間間隔で撮影された動画を見ると、南極の周りを時速550kmの猛烈な風が時計回りに吹いています。また、南極を取り巻くリング状の雲の影と、中心から広がる2本の雲の腕も見られます。これらの雲の高さは30-75kmと、地球上の台風や雷雲の2-5倍にも達しています。

画像5 カッシーニが見つけた土星の南極の目を持つ嵐

提供/NASA

このような中心に目を持つ嵐(渦)は、地球では台風ですが、地球以外の惑星で見つかったのは初めてです。木星の南半球にある大赤斑やSTB白斑"BA"は高気圧性の渦で、反時計回りの上昇気流が上層大気まで吹き上がっているので、その中心に目はありません。今回発見された土星の南極の巨大な嵐は低気圧性の渦で、内側に向かって集まり上昇した大気が、中心で下降するために目が形成されています。もっとも、地球では台風は海洋で発生するわけで、土星には海洋はありませんから、別のメカニズムが働いていると考えられます。

このカッシーニが発見した南極の巨大な嵐は、私たちのアマチュアの機材でもとらえることができていました。今シーズンのように、土星の傾き(DE)が小さくなると観測できませんが、南極付近がよく見えていた2004年や2005年のシーズンで、高解像度の画像では南極に暗い斑点を観測することができました(画像6)。当時はこの暗い斑点が何か分からないでいて、南極のまわりの高緯度地方が赤みを増す現象に注目をしていました。池村俊彦氏(名古屋市)は、「南極付近から沸き上がった物質が、次第に広がって、それが高緯度地方の赤みを増しているのではないか」という仮説を提唱されていましたが、今回の南極の巨大な嵐が関連しているかもしれません。


画像6 2004年から2005年の土星の変化
撮影/Damian Peach(イギリス、35cm SCT)(拡大)

11月の土星の画像7に示します。南極はもう見えなくなりましたが、逆に北半球が次第に見えてきました。NEBがはっきりしたベルトとして観測されています。また、緑がかった南極を取り巻く高緯度地方が、赤みを増していることに注意してください。

画像7 2006年11月の土星

撮影/池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、Christopher Go(フィリピン・セブ島、28cm SCT)

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