天文ガイド 惑星の近況 2007年4月号 (No.85)
伊賀祐一

2007年1月の惑星観測です。今年は暖かい冬を迎えていますが、冬場の悪シーイングは相変わらずで、観測者泣かせの季節でした。日没直後の西の空に見えてきた金星は3人から5日間で9観測(全て海外から)、2月11日に衝を迎える土星は24人から28日間で257観測(そのうち海外から11人で26観測)の報告がありました。朝方の東の空に見える木星は11人から18日間で92観測(そのうち海外から5人で28観測)、火星は2人から2日間で2観測(そのうち海外から1人で1観測)の報告がありました。

木星:南熱帯撹乱発生
先月号で速報したように、南熱帯撹乱(かくらん、South Tropical Disturbance)が発生しました。南熱帯撹乱は、SEB(南赤道縞)とSTB(南温帯縞)とに挟まれたSTrZに出現する暗部のことで、1901年から1939年まで継続した大南熱帯撹乱は有名です。その後、何回かの発生が観測されていますが、今回の発生は1993年以来の14年ぶりの現象です。

1月11日のF.Carvalho氏(ブラジル)の観測で、STrZ(南熱帯)のII=0°付近にSEBからSTBに向けて暗柱(長さ13°)が見つかりました(画像1左)。このサメの背びれのような形は、南熱帯撹乱の特徴的な模様です。これをSTrD-1と呼びます。過去の観測では、STB白斑が大赤斑を通過した後に、STB白斑の前方で南熱帯撹乱が発生することが多く、今回も右上にSTB白斑"BA"が位置しています。

ところが、1月10日のA.Wesley氏(オーストラリア)の観測で、II=220°付近にも同様な特徴的な暗柱(長さ14°)が見つかりました。これも南熱帯撹乱で、STrD-2と呼びます(画像1右)。今回のように同時に2つの南熱帯撹乱が観測されたことはありません。


画像1 2007年1月の木星面
撮影/F.Carvalho(ブラジル、18cm反射)、を(堺市、20cm反射)(拡大)

これらの南熱帯撹乱ですが、12月19日の福井英人氏(静岡県)の観測では、II=220付近にSTrZの暗部が認められ、STrD-2の活動がすでに始まっていたことを示しています。また、12月22日の福井氏の観測では、II=0付近にSEBの凹みが見られ、すでにSTrD-1の活動が始まっていたのは明らかです。

実に幸運なことに、NASAの冥王星探査機ニュー・ホライズンズが木星の重力を利用したフライバイのために、木星の詳細な画像を公開しています(画像2)。南熱帯撹乱のもう1つの特徴は、循環気流の生成が挙げられます。循環気流と言うのは、SEBsジェット気流に乗った後退する暗斑が、南熱帯撹乱にぶつかると、反転してSTBの北縁を前進する現象です。画像2の高精細画像を見ると、STrD-1およびSTrD-2の2ヵ所で循環気流がすでに形成されていることが分かります。

前代未聞の2つの南熱帯撹乱発生にとても驚いています。撹乱本体は体系IIに対して、STB白斑と同じ速度で前方に広がっていくのではないかと考えられます。


画像2 ニュー・ホライズンズ(冥王星探査機)による木星展開図
提供/NASA、2007年1月8日撮影(南北反転、ラベルは筆者による)(拡大)

今シーズンの木星の特徴

新しいシーズンの始まった木星を見たときに、最も驚くのはEZs(赤道帯南)の暗化です(画像3)。SEBと同じ濃さのベルトで、一見するとSEBが太くなったのではないかと勘違いをするほどです。このEZsに明るい白斑SEDが出現しています(画像2)。SEDはI=200°に位置しており、体系IIに対して約50日で一周します。

さらに、大赤斑後方のSEBの白斑が全く見られないことも大きな特徴です(画像1中)。同時に、SEBsジェット気流に乗った後退暗斑が見られず、そのために大赤斑(GRS)を取り巻く暗部がないむき出しの状態が見られます。つまり、SEB全体の活動が非常におとなしくなっていると言えます。BAAのJ.Rogers氏からの情報では、「このような全ての活動が停止した最後の年は1988年であった。その時は、1989年にSEBは淡化(白化)し、1990年に劇的なSEB復活(SEB Revival)が発生した。すなわち、2007年のどこかで、後に劇的なSEB復活につながるSEBの淡化を見ることができるかもしれない。」と考えられますので、これからの観測が楽しみになってきました。

SSTB(南南温帯縞)には8個の小白斑が見られ、BAAが提案しているA0からA8のラベルを画像2に示します。また、NEB(北赤道縞)北縁にある長寿命な白斑WSZは、大赤斑の前方の経度に位置しています。昨シーズン、同じ緯度にあった2つの他の白斑を次々と合体した後、現在はその前進速度が鈍り、ほぼ停滞しています。


画像3 2006年と2007年の比較
撮影/T.Olivetti(タイ、28cm反射)が(拡大)

土星
1月の土星の表面には特に目立った模様はありませんでした。南半球に見える最も太いベルトがSEB(南赤道縞)ですが、この2本に分かれて見えるベルトの中央に、先月に引き続いて白斑が見られました。8日と23日に柚木健吉氏(堺市)が、31日に熊森照明氏(堺市)が、それぞれ別な経度に白斑をとらえています。これらの白斑は長寿命な物ではなく、またSEBのベルトの間はいつも濃淡のムラが見られているようです。

土星は2月11日に衝を迎えますが、衝効果といってリングが本体よりも明るく輝く現象が近づいています。画像4の土星を見ると、左側のリングに写る本体の影が次第に細くなっていく様子や、本体の北半球に写るリングの影が少しずつ細くなっていく様子が分かります。

画像4 2007年1月の土星

撮影/柚木健吉(堺市、26cm反射)、Christopher Go(フィリピン・セブ島、28cm SCT)

火星:まだまだ小さい
火星は12月19日に小接近を迎えますが、視直径が10秒を超えるのは10月初めのことです。1月の火星は夜明け前に東空に低く、視直径は4秒しかありません。これからもしばらく夜明け前に東空に低い状態が続き、7月ごろにようやく高度が上がってきます。その頃になると、視直径も6秒台後半になります。画像5に今シーズンの初観測を紹介します。4秒台で表面模様がとらえられるわけですから、技術の進歩に驚かされます。

画像5 2007年1月の火星

撮影/F.Carvalho(ブラジル、18cm反射)

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