天文ガイド 惑星の近況 2007年5月号 (No.86)
伊賀祐一

2007年2月の惑星観測です。今年は暖冬とはいえ、悪シーイングは相変わらずで、比較的天候には恵まれましたが、思うような良い観測条件には恵まれませんでした。日没の西空で6月9日の東方最大離角に向けて高度を上げている金星は8人から8日間で22観測(そのうち海外から5人で19観測)、2月11日に衝を迎えた土星は43人から28日間で496観測(そのうち海外から23人で125観測)の報告がありました。朝方の東空に見える木星は19人から27日間で179観測(そのうち海外から9人で95観測)、火星は1人から2日間で2観測(全て国内)の報告がありました。

木星:南熱帯撹乱発生


画像1 2007年2月の木星面
撮影/F.Carvalho(ブラジル、25cm反射)、Z.Pujicを(オーストラリア、31cm反射)(拡大)

合の間に発生していた南熱帯撹乱(South Tropical Disturbance)の詳しい様子が分かってきました。同時に2つの南熱帯撹乱が発生し、最も目立つ模様として観測されています(画像2)。第1撹乱(STrD-1)はII=350度に位置し、1月初めには長さが15度ほどの暗部でしたが、2月に入ると後端部が小さくなり、前端部の暗柱だけが目立っています。しかしながら、撹乱の全体の長さは20度ほどに広がっています。ドリフトチャート(画像4)から、撹乱部は当初体系IIに対して静止していましたが、後方からSTB白斑"BA"が接近したことによって、撹乱の前端部だけがBAと同じ速度で前進を始めました。なお、撹乱の後端部は相変わらず静止していますので、今後は少しずつ撹乱部が広がるのではないかと予想されます。第2撹乱(STrD-2)はII=220度に位置し、長さが10‐15度ほどの太い暗柱で、ほとんど静止しています。

画像2 南熱帯撹乱の成長

提供/上段はNASA(New Horizons)、それ以外は月惑星研究会

南熱帯撹乱は、暗柱または暗部が発生し、SEBsを後退する暗斑が撹乱に出会うと、今度は逆にSTB北縁を前進するという「循環気流」が形成されることが決め手になります。過去の事例では、循環気流が形成されるのはもっと後のことだと考えられていました。しかしながら、今回は同時に2個の撹乱が発生したことと、冥王星探査機ニュー・ホライズンズによって作成された動画などの解析から、撹乱発生直後にはすぐに循環気流が形成されていたのではないかと思われます。画像3に、今回の南熱帯撹乱のモデル図を示します。循環気流はSTrD-2からSTrD-1までの領域と、STrD-1から大赤斑を超えてSTrD-2の領域と、2つに分割されているのではないかと考えています。


画像3 南熱帯撹乱のモデル(拡大)


画像4 南熱帯撹乱のドリフトチャート(拡大)

今シーズンの木星の特徴

STB白斑"BA"は2月28日にII=3.9度に位置しています。BAのオレンジ色の核を取り囲む、本来の白斑の長さは14.6度であり、昨シーズンの10.7度と比べるとずいぶんと引き伸ばされています。BAの後方には、唯一残っているSTBのベルトがありますが、昨シーズンは70度の長さがありましたが、今シーズンは50度とずいぶん短くなりました。これは、2006年7月にBAが大赤斑の南を通過したことが影響していると考えられます。さらにその後方のII=160度には、2006年初めから見られるようになったフック形状の淡い斑点があります。少し気になる斑点ですが、いよいよ4月末には大赤斑の南を通過します。

昨シーズンまでは、SEBsのすぐ南を、高速に後退するSEBsジェット気流に乗った暗斑群が見られていましたが、ジェット気流が消失したことによって、南熱帯撹乱が発生したのではないかと考えられます。SEBsの細くて赤いベルトの中には、今シーズンは全周で8個の小さな赤い斑点(barge)が見られます。大赤斑のすぐ後方にある5個のbargeはドリフトが-5度/月でゆっくりと後退し、II=0度のSTrD-1付近では-10度/月で、II=60度の大赤斑前方では-15度/月で高速に後退し、経度によってドリフトが異なるという奇妙な振る舞いを見せています。

2006年5月頃からEZs全体が黄色く濁ってきて、今シーズンの初めはSEBとEZsがいっしょになった太いベルトに見えていました。ところが、2月にはEZsの大白斑の活動が活発になり、特に2月20日頃に大赤斑の北を追い越した際に、SEBnからEZsに白雲が流れ込む様子が観測されています。さらにこの大白斑の直後には大きな暗部が一体として活動しており、これを南赤道撹乱(SED)と呼んでいます。このSEDの前方には小さな白斑とフェストーンが広がり、明るいEZsが部分的に復活してきています。

NEB北縁の長命な白斑WSZは、昨シーズンはかなり早い前進速度で、他の白斑を次々にマージする様子を観測することができました。ところが、今シーズンのWSZは、大赤斑の前方の経度であるII=90度でほぼ停滞しています。NEB北縁には、昨シーズンは8個の白斑がありましたが、今シーズンはWSZ以外には見当たりません。NEBは、近年3年ごとにベルトが太くなったり、細くなったりを繰り返しています。2004年に幅が狭くなった後に、NEBは拡幅期をむかえていましたが、NEB北縁は経度によって明るい領域が次第に増えて、かなり凹凸が目立つようになってきています。1年ぐらいのうちにNEBは、再び元の太さまで戻っていくものと予想されます。


画像5 2007年2月22/23日の木星展開図
撮影/月惑星研究会(拡大)

土星:衝効果で明るいリング
土星は2月11日に衝をむかえました。今年も、例年のように衝効果(opposition effect)によって、リングが土星本体よりも明るく輝く現象が観測されました。リングは小さな岩石や氷の粒子の集合体で、太陽光を反射しています。通常は太陽に照らされた粒子の影が、後の粒子の上にかかっています。ところが、衝の時には、粒子の影はほとんど見えなくなるために、リング全体が明るくなります。これを衝効果と呼んでいます。

画像6は永長英夫氏(兵庫県加西市)が、白線上の輝度分布をプロットしたものです。彼の研究では、リングの方が本体よりも明るくなったのは、2月4日から13日までの衝をはさんだ10日間であったと報告をしています。


画像6 2007年2月の土星の衝効果
撮影/永長英夫(兵庫県加西市、25cm反射)(拡大)
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