天文ガイド 惑星の近況 2007年7月号 (No.88)
伊賀祐一

2007年4月の惑星観測です。日没の西空で6月9日の東方最大離角に向けて高度を上げている金星は22人から28日間で293観測(そのうち海外から16人で182観測)、土星は28人から25日間で264観測(そのうち海外から17人で152観測)の報告がありました。6月6日に衝をむかえる木星は31人から30日間で308観測(そのうち海外から17人で180観測)、朝方の東空に見える火星は4人から5日間で10観測(そのうち海外から1人で2観測)の報告がありました。

木星

◆速報:SEBの淡化が始まる

4月22日頃から、大赤斑の前方のSEB(南赤道縞)が淡化を始めました(画像1)。過去には、SEBの淡化は大赤斑の前方から始まり、次第に前方に波及し、半年から1年ぐらいでSEB全体が淡化します。SEBの淡化は1992年に観測されて以来15年ぶりの現象です。今シーズンはSEBnは濃いベルトとして観測されていて、今回のSEBの淡化ではSEBnだけが残るかもしれません。SEBが淡化して明るいゾーンになると、1年から数年のうちにはSEBが劇的に復活する南赤道縞撹乱の発生が予想されます。

大赤斑は、後退するSEBsジェットストリームに属する模様が消失したために、オレンジ色の本体がむき出しの状態で見られます。SEBが淡化すると、大赤斑は逆に濃くなる傾向があります。

画像1 SEBの淡化が始まる

大赤斑の前方のSEBが淡くなっている
撮影/J.Kazanas(オーストラリア、32cm反射)

@南熱帯撹乱

1月初めに発生が確認された南熱帯撹乱ですが、同時に2ヵ所で撹乱が発生したことは過去には観測されたことがありません(画像4)。2個の南熱帯撹乱(STrD-1、STrD-2)は、SEB南縁からSTBに向けて暗柱が伸びた形状をしていて、その東西には反時計回りの細長いSTrZの循環気流に挟まれている構造をしています。撹乱の前端部である暗柱は、STB白斑とほぼ同じ速度で前進をしています。撹乱本体は、SEBから盛り上がった形をしており、その後端部は発生初期から第2系に対してほとんど固定されています。そのために、2つの撹乱は経度方向に引き伸ばされ、STrD-1は45度、STrD-2は30度ほどの長さに成長しました。

SEBが淡化を始めたために、これらの2個の南熱帯撹乱も次第に淡くなっています。もしかすると、このまま消失してしまうかもしれませんが、できれば南熱帯撹乱が大赤斑を通過する現象を観測したいものです。

A南赤道帯撹乱(SED)

南赤道帯撹乱の自転周期は9h51m19sでかなり速く、大赤斑を約55日毎に追い越していきます。今シーズンのEZsには(画像2)、1月初めからSED-1が観測されていて、大赤斑を通過する際だけでなく、全周に渡ってSEB北縁から白雲が流れ込んでいる活発な活動が見られていました。ところが、2月25日に大赤斑を通過したSED-1の直前に、新たなSED-2が形成されました。SEB北縁から両方の南赤道帯撹乱に白雲が流れ込み、2個の明るい撹乱が並んでいる姿はよく目立ちました。4月12日には2回目の大赤斑通過が観測されましたが、この時SED-1はSEB北縁からの流入が消失し、前方のSED-2の方が目立つようになっています。

画像2 南赤道帯撹乱(SED)の変化

4月中旬にSED-1が弱まり、SED-2が活発になる。

BNTBs outbreakからNTB復活

先月号で速報したように、NTBs outbreakの発生は同時に2ヵ所の白斑(リーディング・スポットLS1、LS2)から始まりました(画像3)。リーディング・スポットがNTBの上層のヘイズを切り裂くように高速に前進し、その通過した後に下層の暗斑が現われてきました(画像4)。その暗斑はほとんど第1系に対して停止しています。後方のリーディング・スポットは、その前方に復活した暗斑に追いついた時点で消失しました。リーディング・スポットからは、白斑が南北に分かれて噴出しているように見えます。

復活したNTBの暗斑の後端では、微細な白斑が複数出現し、そこに暗斑が現れました。さらに後方に向けて、同様に白斑が生じ、暗斑に変わることを繰り返して、NTBの復活が後方にも波及しているようです。間もなくNTBは全周に渡って、濃いベルトとして復活することでしょう。


画像3 NTBs outbreakの急速な広がり
▲はリーディング・スポット(LS1、LS2)、△は後端部の白斑。(拡大)


画像4 2007年4月の木星
撮影/Christopher Go(フィリピン・セブ島、28cm SCT)(拡大)

CSSTB

4月5日にA0とA1の間に小白斑が新たに形成され、その小白斑は次第にA1との距離が小さくなっていました(画像6)。4月24日には小白斑はA1とついに接触しているように見えます。4月27日には1つの白斑A1しか残っていなかったことから、2つの白斑はマージしたと考えられます(小白斑はA1の左下に見えているかもしれないので、マージする際にお互いの周りを左回りに回り込んでいることになります)。

画像6 SSTBの小白斑のマージ


DSTB

STB白斑BAは、オレンジ色のドーナツ状コアが少し大きくなったかもしれません(画像4右)。BAを取り囲む暗い縁取りとの白い領域が小さくなって見えます。BAの後方には、長さが50度ほどの唯一残っているSTBの暗部が見られます。

2003年のシーズンに形成されたSTBsの暗斑は、次第に淡くなっていましたが、その痕跡が今シーズンも残っていました。4月下旬には、STBの痕跡が大赤斑の南を通過しようとしています。STBの模様が大赤斑を通過すると、過去にもいろいろと変化が起こっています。


画像5 2007年4月18/19/20日の木星展開図
撮影/月惑星研究会(拡大)

●連載の最後に

この「惑星の近況」の担当になったのは2000年4月号からで、早や7年を過ぎました。大好きな木星の話題を中心に、惑星観測の楽しさをお伝えしてきましたが、病気のために連載を続けることができなくなりました。長い間、ご愛読ありがとうございました。
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