天文ガイド 惑星の近況 2007年8月号 (No.89)
堀川邦昭

伊賀祐一さんに代わり、今月からこのページを担当する月惑星研究会の堀川と申します。これまで同様、木星を中心に惑星の近況をお伝えして行きますので、よろしくお願いします。

木星

@ SEB攪乱?発生!

今シーズンの木星面では近年見られなかった大きな変化が立て続けに起こっています。まず、STrZでは合の間に南熱帯攪乱(STrD)が出現しました。STrDの発生は少なくとも1993年以来14年ぶり、小望遠鏡でも見える明瞭なものとなると、1979年以来28年ぶりのことです。しかも、2つ同時に形成されたのは、観測史上初めてのことです。続いて3月末には木星面最速であるNTBs outbreakが発生しました。これは実に17年ぶりのこととなります。その後、4月に入るとSEBが大赤斑の前方で本格的に淡化を始めました。これも1992年以来15年ぶりの出来事です。SEBは今後、過去の観測例のように、早くて数ヶ月、長ければ1年程度の時間をかけてゾーンのように明るくなり、1〜数年の間は層状の静的な雲に覆われると予想されました。しかし、この予想は見事に裏切られることになります。

5月17日、フィリピンのChristopher Go氏は大赤斑後方のII=178.5°、南緯17.1°のSEB内部に小さな白斑が発生しているのを捉えました。この白斑は淡くなりつつあるSEBsに見られる小暗斑(barge)のひとつから湧出していて、初期のmid-SEBoutbreakで見られる対流性の白雲と同じものと思われます。白斑はその後、mid-SEB outbreakの活動と同じように前方北側に向かって流れ出し、5月末には小規模な白斑群が形成されています。一方、白斑の南側には青黒い暗条が出現しました。発生場所のすぐ後方には南熱帯攪乱(STrD-2)があり、周囲のSEBsと共に徐々に淡化しつつあったのですが、上記の暗条が流れ込んだ結果、一時的に濃化しています。その後、暗条が凝集して形成された暗斑群は、STrD-2を越えて後方に広がり始めました。STrD前端部ではSEBsの後退ジェットストリームがブロックされ、STBnの前進ジェットストリームへと反転運動をしているのですが、暗斑群の動きはジェットストリームが完全にはブロックされておらず、一部はSEBsに沿って真っ直ぐに流れていることを示すものと考えられます。活動領域はSEB内部を前進する白斑群とSEBsを後退する暗斑群となって東西に広がりつつありますが、青黒い模様が多いため、黄色っぽいSEB本体と容易に区別できます。


[図1] SEB攪乱の発達
撮像:C.Go(フィリピン、28cmSCT)、福井英人氏(静岡県、35cm反射)、阿久津富夫氏(フィリピン、28cmSCT)、T.Olivetti(タイ、28cm反射)、D.Parker(米国、40cm反射) (拡大)

SEBで発生する大規模な現象としては、SEB攪乱(SEB Disturbance)が代表的です。これは淡化したSEBが急速に濃化復活する現象で、木星面で起こる最も激しく活動的な現象のひとつです。イギリスのBAAでは伝統的にSEB Revivalと呼んでいます。1919年以来15回の攪乱が観測されていて、前回は1993年4月に発生しました。典型的なSEB攪乱では、淡化したSEB中に暗柱が出現し(これに先立って白斑が形成されることもあります)、白斑や暗柱が前方に拡がって濃化復活の主要部となる中央分枝、暗斑群がSEBsを高速で後退する南分枝、そしてSEBnを高速で前進し、時にはEZ南部へと進入する北分枝の3つの活動により、SEBは大きく乱れ、数ヶ月のうちに復活します。攪乱によっては、最初の発生場所とは離れた所で別の攪乱活動が始まることもあり(1943年、1971年、1975年、1990年)、1975年には一度に4つの攪乱が出現しました。

一方、通常の濃いSEB内部では、mid-SEB outbreakと呼ばれる激しい白雲活動が知られています。こちらは近年何度か観測されており、昨シーズンも大規模な活動が見られました。概ねSEB攪乱中央分枝と同様の活動で、バックのSEBの濃度が異なるだけという見方もありますが、両者にはいくつかの違った特徴も見られます。

さて、今回の活動は1993年以来、14年ぶりに発生したSEB攪乱なのでしょうか、それともSEBが淡化する途上で発生したmid-SEB outbreakなのでしょうか? 発生時のSEBはまだ本格的に淡化を始めたばかりで、まだ薄暗いベルトとして明瞭に見えている時期に活動が始まったため、両方の特徴を持っていて判断に困ります。発生した白斑はどれも小さく不明瞭で、SEB全体を濃化させるほどの規模にはならないと予想され、また、発生場所が大赤斑後方であることや、Reeseの仮説(惑星サロン参照)による発生源に一致しない点では、小規模なmid-SEB outbreakという見方ができます。しかし、発生からひと月経過した今でも活動域はしだいに拡大を続けており、終息する気配は見られません。6月に入ってからはSEBの淡化が一層進み、周囲が明るくなったため、活動域が薄暗い暗部として際立ってきています。SEBsに沿った暗斑群も明瞭になり、SEB攪乱南分枝の活動とみなすことができます。また、過去にはSEBの淡化が完了しないうちにSEB攪乱が発生した例(1949年)もありますし、例外的にReeseの仮説に一致しない攪乱も存在するため、今回の活動はSEB攪乱であるという見方が有力になりつつあります。

A その他の状況

2つの南熱帯攪乱(STrD-1、STrD-2)は、SEBsと共に淡化が進んでいます。STrD-1前端の暗柱はゆっくりと前進を続けていますが、南側のBAよりも前進速度がやや遅いため、徐々に追い越されつつあり、暗柱はBAに引きずられるように傾いた形状に変化しています。STrD-2は前述のようにSEB攪乱の南分枝の暗色模様により一時的に濃化しましたが、その後は形が崩れて不明瞭になってしまいました。

NTBsのoutbreakのLeading spot(LS1)は、5月9日に体系I=175°まで前進しましたが、その後、NTBの乱れた領域の後端に到達したところで消失してしまいました。初期に見られた暗斑や濃淡はほとんどなくなり、現在NTBは全周で濃く安定した幅広いベルトとして復活しています。ただし、体系I=100°台ではやや淡いようです。

大赤斑は周囲に暗い模様が無くなったため、明るいゾーンの中に浮かぶ赤色斑点として極めて顕著です。大赤斑はSEB攪乱南分枝の暗斑がぶつかると淡化する傾向があります。暗斑群が到達するのは8月頃と予想されますが、途中にあるSTrD-1によってブロックされ、STBnに沿って前進するようになる循環気流という珍しい現象が観測されるかもしれないので注目です。BAも赤いドーナツ斑点として目立っていて、周囲の暗いSTBとの間にはHollow状の白い取り巻きが形成されています。ドーナツ部分の外径9°ほどでですが、周囲のHollow部分を含めると長径は約15°に達します。南赤道帯撹乱(SED)の2つの大きな白斑(SED-1とSED-2)は、後方にあるSED-1が消失して、代わって前方のSED-2が明るく顕著になっています。

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