天文ガイド 惑星の近況 2007年9月号 (No.90)
堀川邦昭、安達 誠

今年は全国的に梅雨入りが遅れ、例年よりも晴天に恵まれました。木星面では大きな変化が立て続けに起きていますのでラッキーです。

木星

@ SEB攪乱続報

5月に発生したSEB攪乱はその後も活動が続いています。当初は小規模なmid-SEBoutbreakではないかと疑われましたが、6月以降、しだいにSEB攪乱としての特徴が際立ってきました。

SEB攪乱は北、南、中央の3つの分枝活動で構成されます。中央分枝はSEB内部の白雲活動で、mid-SEB outbreakの活動とよく似ています。今回の活動では、発生源から微細な白斑と青黒い暗部に満たされた攪乱領域がRS方向へ発達しました。典型的なSEB攪乱では、大型の白斑と明瞭な暗柱が交互に並ぶのですが、今回の攪乱ではそのような構造はありません。中央分枝前端は6月半ばにRSに到達し、RS bayの後ろ半分が復活しましたが、それ以降はRSに堰き止められて、前方に拡大する気配は見られません。

今回の攪乱は南分枝の活動が大変顕著で、SEB南縁に暗斑群が形成され、SEBsのジェットストリームに乗って1日当たり+3.7°という高速で後退しています。これにより、発生源後方では淡かったSEBsが濃化復活しました。また後述するように、暗斑群の先頭集団がSTrD-1でUターンする循環気流(Circulating Current)という珍しい現象が観測され、注目されています。

北分枝の活動は、SEBnが元々濃かったのではっきりわかりませんでしたが、6月後半からSEBnを約-4°/dayのスピードで前進するdark sectionが観測されるようになり、これが北分枝の先端と考えられています。

SEB攪乱の影響が及んでいない経度では、ベルトの淡化がさらに進行しています。STrD-1からRSまでのSEBsはほとんど消失してしまい、攪乱発生当初は薄茶色だったSEBZも、攪乱発生源の後方からRSの間では白く明るいゾーンとして見られます。


[図1] SEB攪乱の発達
中央の太い短い線が発生源、左右の矢印はそれぞれ北分枝と南分枝の先端、Uターン矢印は循環気流によりSTBnへ移動した南分枝の暗斑。月惑星研究会の観測より。(拡大)

A 循環気流が観測されました!

普段のSEBsのジェットストリームは、経度増加方向にまっすぐに流れています(RSの部分ではRS bayに沿ってカーブしていますが)。しかし、南熱帯攪乱(STrD)が形成されるとその一部はSTrD前端で南側へ歪められ、STBnを経度減少方向へ流れるジェットストリームに連結されてしまいます。これを循環気流と呼びます。

今回のSEB攪乱ではSEBsに沿って後退する多数の暗斑が観測されたため、STrD-1に到達した際に上記の流れに乗ってUターンし、STBnを前進するようになるのではないかと予想されていました。

SEBsを後退していた先頭の暗斑がSTrD-1に到達したのは7月2日のことです。翌3日にはSTrD-1の暗柱に沿って南側へ移動し始め、4日にSTBnに達しました。そして、6日にはSTBnのジェットストリームに乗って前進を始めたことが確認されたのです。SEBsの後退暗斑が循環気流によってUターンする様子が直接観測されたのは1930年代に1度あるだけで、実に73年ぶり2回目のこととなります。今回の現象の一部始終を詳細に捉えることができたのは、世界的に見ても沖縄の宮崎勲氏ただひとりです。2日後の7月4日には2つ目の暗斑がSTrD-1に達して、同じようにSTBnへと移動し、前進運動に変化しています。その後方にも明瞭な暗斑が多数控えており、今後続々とUターン運動が観測されることが期待されます。

[図2] 循環気流による暗斑のUターン
撮像:宮崎勲(沖縄、40cm)、C.Go(フィリピン、28cm)、C.Zannelli(イタリア、28cm)、A.Medugno(イタリア、35cm)、G.Grassmann(ブラジル、25cm)


火星

火星に黄雲(ダストストーム)が発生しました。最初に起こったのは、世界時で6月15日にヘラス(西経290°、南緯50°)で発生しました。地球で見つかったのは6月23日になってのことになりました。

このダストストームの最初の突発現象は、6月15日探査機オデッセイのTHEMISの画像で、ヘラスの西と北東部の急峻な崖状の斜面の下で見つかっていますが、6月23日に、はっきりした姿になり、翌6月24日には、南半球を中心として10ヶ所でゲリラ的に発生し、広い範囲を覆うダストストームへと発展しました。

地球からは、6月26日にノアキスにこん棒状になった姿をフランスのクリストフ・ペリエ氏やアメリカのジム・メルカ氏によって発見されました。日本からは残念ながら見えない位置回りでした。ダストストームは、一時は南極冠を覆い隠しましたが、次第に淡くなってきています。次号にダストストームの詳しい状況を報告します。

[図3] 火星の黄雲
2007年6月27日 10時39分UT CM=280.2 De=-19.1
撮像:J.Melka(米国、30cm)


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