天文ガイド 惑星の近況 2008年5月号 (No.98)
堀川邦昭、安達誠

厳しかった寒さが和らぎ、急に春めいてきました。夜空では火星が去り、土星が衝を迎えています。木星も明け方の東天に見えていますが、夜明けがどんどん早くなるため、地平高度はなかなか高くなりません。

火星

視直径は11秒台となり、衝のころと比べると、ずいぶん小さくなってきました。また、火星の西側の欠け際も目立つようになり、次第に遠ざかっていることを感じるようになりました。日没後の観測を始めるころ、火星はほとんど天頂近くにありますが、今年は気流の良い日が余りありませんでした。

今月の火星面は、穏やかで、研究会に報告されてきたものを見る限り、ダストストームは起こらなかったようです(図1)。

[図1] 2008年2月8日 09:19UT

LS=313° CM=29° 撮像:永長英夫(兵庫県、30cm)

北極冠は、De(火星面中央緯度)がほとんど赤道を真横から見ることになるため、見づらくなっています。肉眼ではシーイングがよければはっきり見えますが、画像では気流の影響を受け、どこまでが北極冠の広がりかわかりづらくなっています。北極冠が縮小を始めたことと、北極フードが晴れてきたため、北極周辺の暗帯が目立つようになってきました。また、タルシスにある火山や、オリンピア山の山岳雲もすっかり見えなくなりました。

一方、南極地方には広い範囲で白雲が見られるようになりました。いつ撮られても南極地方には白雲が記録されることから、南極フードの形成に向けて季節の進んでいることが感じられます。しかし、明るさや緯度方向の広がりは経度によってまちまちで、フードと呼ぶにはまだ時期が早いでしょう。南半球のアルギレは大規模な盆地になっていますが、盆地の底に霜でもできているのでしょうか。核のある白い斑点として画像には記録されています(図2)。

[図2] 2008年2月26日 01:41UT

CM=34° LS=37°撮像:ドナルド・パーカー(米国、40cm)
アルギレにかかる霜?

木星

合から2ヶ月が経過し、木星面の状況がわかるようになってきました。昨シーズン、循環気流で注目された2つの南熱帯攪乱(South Tropical Disturbance) (STrD-1、STrD-2)は確認されていませんが、代わってII=170°と240°にちょっと気になる大型の暗斑が出現しています。悪条件下の画像ではSTrZ(南熱帯)を横切る暗斑状に見えるので、当初はSTrD-1とSTrD-2かと思われたのですが、高解像度の画像により、STrZの孤立した暗斑であることがわかりました。どちらも中央が明るいリング状で、II=170°のものはメタンバンドの画像で明るく見えることから、高気圧的な循環を持つと考えられます。暗斑周囲のSTBnには循環気流を思わせるような模様はまったく見られません。暗斑は南熱帯攪乱の名残なのでしょうか。

[図3] 2008年3月11日 21:11UT

I:23.4° II:207.9°撮像:阿久津富夫(フィリピン、35cm)
矢印の先にSTrZの暗斑が見られる。前方の暗斑近くのSTBにBA。

SEB(南赤道縞)は明るいSEBZによって二条になっています。大赤斑後方では、II=210°付近までベルト北部に不規則な白斑群が見られるのですが、大赤斑後方の定常的な乱流活動(post-GRS disturbanace)が復活したのか、それとも昨年のSEB攪乱(SEB Revival)の名残なのか、注目されます。なお、3月8日に大赤斑前方で明るい白斑の出現が観測されました。その後、白斑は前方北側に向かって乱れた白雲領域を形成しつつあり、大赤斑前方では珍しい白雲のoutbreak活動であることが判明しました。

[図4] 大赤斑前方に出現したSEBの白斑

(左) 2008年3月8日 20:25UT I:242.2° II:89.8°
撮像:永長英夫(兵庫県、30cm)
(右) 2008年3月13日 19:31UT I:278.4° II:88.0°
撮像:アンソニー・ウェズレー(オーストラリア、33cm)

大赤斑は依然として赤みが強く、輪郭のはっきりした楕円暗斑です。経度はII=124.1°(3月15日、阿久津富夫氏)で、昨シーズン末とほとんど変化していません。近年続いていた後退運動はストップしたようです。後方のII=178.9(3月11日、阿久津富夫氏)のSTB(南温帯縞)にはBAがあります。相変わらず赤みはありますが、周囲の白い縁取りがなく不明瞭です。北半球ではNEB(北赤道縞)の北縁にバージ(暗斑)とノッチ(小白斑)が広範囲に発達しつつあります。NTB(北温帯縞)は久しぶりに北組織が出現して、幅広い二条のベルトとして見られます。南組織は赤みが強く直線的ですが、北組織は淡くグレーです。

土星

土星は2月25日未明に衝を迎えました。昨年12月に出現したSTB北縁の白斑は今月も健在で、III=305°付近に捉えられています。出現時はIII=272°にありましたので、+0.3°/日というスピードで後退していることになります。2006年に同じ緯度に出現した白斑の後退速度は+0.7°/日でしたので、それに比べるとかなりゆっくりです。前回の白斑は発生から約2ヵ月で消失してしまいましたが、今回はすでに3ヶ月が過ぎています。白斑は先月に比べてやや大きくなり、形が少し崩れてきたように見えますので、すでにピークは過ぎているのかもしれません。

[図5] STB北縁の白斑

2008年3月10日 12:34UT I:261° III:297°
撮像:熊森照明(大阪府、20cm)

土星本体ではSEB(南赤道縞)が目立っています。全体として二条になっていて、SEBnの方が濃く、SEBsは淡く目立ちません。A環の北側ではNEB(北赤道縞)が目立ちます。SEBが赤みを帯びているのに対して、NEBはグレー系でどんよりしています。今月はどの画像でも、環が本体より明るく見えています。これは、近年恒例となっているハイリゲンシャイン現象(衝効果)によるものと思われます。

前号へ INDEXへ 次号へ