天文ガイド 惑星の近況 2008年6月号 (No.99)
堀川邦昭、安達誠

桜の季節を過ぎ、夜空はすっかり春らしくなりました。土星は、レグルスの東を逆行中です。5月3日の留の頃には約2°まで接近するので、よい観望の対象になるでしょう。木星は4月10日に西矩となり、日の出時に南中を迎えます。反対に火星は4月4日に東矩を過ぎて、西空へと傾いています。

木星

大赤斑前方の南赤道縞(SEB)で発生した白雲の活動は、mid-SEB outbreakに特徴的な前方北側−後方南側に傾いた活動域を形成しています。mid-SEB outbreakの大部分は大赤斑後方で発生していて、前方で発生したのは、1998年など数例しかありません。活動域の先端は4月中旬にはII=0°付近に達していますが、明るい白斑は後端の発生源近くに見られるのみで、outbreakとしては小規模という印象を受けます。

この領域のすぐ南側のSEB南縁には、顕著な暗斑が観測されています。この暗斑は2月中旬に形成され、高解像度の画像では南熱帯(STrZ)に突き出した典型的なリング暗斑として見えています。第2系に対して+1°/dayのスピードで後退し、4月10日には赤斑湾(RS bay)の左肩に達しています。今後は過去の同種の暗斑のように、RS bayの縁に沿って大赤斑の周囲を回りながら取り込まれてしまうと予想されます。II=123.4°(4月11日)に位置する大赤斑は、昨年SEB攪乱南分枝の暗斑群によって淡化するはずでしたが、南熱帯攪乱(STrD)の循環気流によって暗斑群がUターンしたため、未だに顕著な状態を保っています。今回の暗斑の衝突で、何か変化が見られるか楽しみです。

[図1] mid-SEB outbreakとSEBsの暗斑

撮像:永長英夫(兵庫、30cm)、A. Wesley(オーストラリア、31cm)、F. Carvalho(ブラジル、25cm)、阿久津富夫(フィリピン、35cm)、J. Kazanas(オーストラリア、32cm)、C. Go(フィリピン、28cm)

SEBは全周で二条ですが、ベルト内部はII=250°から前方でかなり乱れています。後端部には大型の明るい白斑があり、まるで別のoutbreakが起こっているかのようです。

STrDの名残ではないかと思われる2つの暗斑は、相変わらず顕著なリング暗斑として観測されています。経度は前方の暗斑がII=164.5°(4月4日)、後方のものがII=222.9°(4月9日)でした。どちらも-0.3〜-0.4°/dayというゆっくりとしたスピードで前進していますが、後方の暗斑の方がやや速く、両者の間隔は少し小さくなっています。

永続白斑BAはII=165.8°(4月11日)にあり、大赤斑に近づきつつあります。7月頃には大赤斑と2年ぶりに会合するはずです。後方の南温帯縞(STB)の暗部は昨シーズンよりも短くなり、長さ30°程度しかありません。その後方のII=210°付近の南温帯(STZ)には、この緯度としては珍しい、大型のリング暗斑が見られます。

赤道帯(EZ)は先シーズン著しく暗化し、南半分がベルトのようになりましたが、今シーズンは一転して明るくなっています。顕著なfestoonは少なくなり、赤道紐(EB)も淡く目立たなくなってしまいました。

北赤道縞(NEB)は北側が淡化して、ベルトが細くなっています。近年、NEBの太さは3〜4年おきに変化していますが、前回の拡幅現象は2004年でしたので、周期としては少し遅れ気味です。北縁にはバージ(暗斑)とノッチ(小白斑)が交互に並ぶ、この時期特有のパターンが発達しつつあり、バージがNEB北縁の突起として目立っています。なお、長命な白斑WSZはII=340°付近に観測されています。WSZは昨シーズンのNTBs outbreak発生後、II=60°付近で停滞していましたが、その後、再加速したようです。

土星

南温帯縞(STB)北縁の白斑は3月後半から、衰えが見られるようになりました。以前よりも輝度が低くなり、やや拡散したような見え方で、高解像度の画像でないと捉えることが難しくなっています。経度は4月12日でIII=319.4°と、以前よりも後退速度が大きくなったようです。

この白斑に代わって、約30°前方のSTB北縁に別な白斑が出現しています。3月14日のザネリ氏の観測が最も早く、III=276.4°のSTB北縁に小さく明瞭な白斑が捉えられています。最初に発生した白斑よりも輝度があり、中程度の解像度の画像でも明瞭に見ることができます。最初の白斑同様、後退運動をしており、4月12日にはIII=288.9°に達しています。この間の後退速度は-0.4°/dayと、最初の白斑の発生当初よりも大きくなっています。

2つの白斑は発生した時の経度や見え方がよく似ているので、共通の発生原因を持つ可能性があります。木星のmid-SEB outbreakのように、III=270°付近の発生源から白斑が繰り返し出現することも考えられるので、注目したいものです。

[図2] STB北縁の2つの白斑

2008年4月12日 19:48UT I:298° III:298°
撮像:J. Soldevilla (スペイン、25cm)
左の明るい方が後から発生した白斑。

火星

今月の火星は、視直径が9秒から7秒にまで下がってきました。望遠鏡で覗くと小さくなったのが実感されます。Lsはおよそ40°から50°の位置での観測となりました(図3)。

[図3] 2008年3月11日 10:21UT

CM=29° LS=44° 撮像:風本明(京都府、31cm)

北極冠は次第に縮小を開始したため、特徴的な姿が見られるようになりました。北極冠の周囲を取り巻くようにできている暗いバンド状の模様が濃く目立つようになりました。一方、南極方面はフードと呼ばれる白い雲に広く覆われる様子が顕著に見られるようになり、望遠鏡を覗くと両極地方が白く明るく見られます。南極フードの周囲は晴れているらしく、青画像では暗く写るのが特徴的な姿でした。また、そのほかの地域の雲も青画像により広がりがよくつかめました。

3月11日にはドナルド・パーカー氏がシルチス(295W、+10)付近の低緯度地方に東西に広がる雲を観測しています(図4)。低位緯度地方に見られる氷晶雲のさきがけの可能性もあります。しかし、そのほかの地域では3月末現在まだ観測はされていません。

[図4] 2008年3月11日 01:09UT

CM=34° LS=43°撮像:D. Parker(米国、40cm)
青色光。東西に白く広がったのが雲。

3月4日に柚木氏がオーロラシヌス(50W、-10)付近にダストストームらしいものが観測できたと報告されました。確かにそれらしい明るい部分が見られること。また、3月7日の夕方のエッジが非常に黄色っぽく観測されたことから、小規模な地域性のダストストームの発生したことがわかりました(図5)。

4月は、視直径がますます小さくなりますが、観測報告を期待しています。

[図5] 2008年3月4日 09:28UT

CM=81° LS=40°撮像:柚木健吉(大阪府、26cm)
矢印の先がダストストーム。

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