天文ガイド 惑星の近況 2008年10月号 (No.103)
堀川邦昭

木星は衝を過ぎていて座を逆行中です。夏場の安定した大気の下、多くの素晴ら しい画像が報告されています。他の明るい惑星はどれも太陽に近く、観測に適さ なくなっていますので、夜半前の空は木星のひとり舞台となっています。

木星

@大赤斑と赤色斑点の会合(その後)

まず、7月初めに大赤斑を通過した南熱帯(STrZ)の赤色リング斑点(LRS)のその後 についてお伝えします。

大赤斑の南側を引き裂かれながら通過したLRSは、数日後には大赤斑の前方で再 凝集して、LRS remnant(レムナント:なごりの意味)と呼ばれる白斑となりまし た。LRS remnantは、元のLRSと比べて大きく拡散していて、赤みはほとんどなく、 周囲の暗いリング状の取り巻きも失われていましたが、メタンバンドで明るく写 る「メタンブライト」な特徴は残っていました。LRS remnantと大赤斑の間には 暗いストリークが形成されて、LRS remnantがゆっくり前進するにつれて、スト リークも長くなって行きました。しかし、間もなくLRS remnantは大赤斑前方10° 付近で停滞するようになり、7月15日頃には少し北へ移動して、後退運動に転じ てしまいました。そして、今度は前方から大赤斑に衝突して、取り込まれてし まったようです。大赤斑前方にあったメタンブライトな領域も、7月後半には完 全に消失してしまいました。

大赤斑は南側を青黒いアーチで囲まれ、内部の明るい赤斑孔(Red Spot Hollow) の状態ですが、中心に赤いコアが見られます。アーチは前方に飛び出して、短い ストリークとなっています。7月中は赤斑孔の北縁に沿って、会合の影響と思わ れる青黒い乱れた暗部が見られましたが、8月には普段の状態に戻ったようです。 経度は、II=128.0°(15日、風本氏)と少し後退しました。これが、LRSとの会合 の影響なのか、それとも大赤斑固有の動きなのかは、ちょっと判断がつきにくい ところです。

もうひとつの赤色斑点であるBAは、大赤斑の南を通過して前方へ抜け、II=104.3° (13日、福井氏)まで前進しています。赤みはかなり薄れていますが、大型の白斑 として目立っています。BAの後方にあった短い南温帯縞(STB)の断片は、暗斑の 連鎖のようになって大赤斑の南を通過しています。その後方、II=155.5°(1日、 熊森氏)の南温帯(STZ)には大きな暗斑があります。中心に白い核があり、まるで さかなの目玉のようですが、8月の画像では核が失われて、黒い一様な暗斑とな っています。STBはBAの前方でも50°に渡って北組織が濃くなっていて、その前 方のII=20°付近には、3つの小暗斑が見られます。

[図1] 大赤斑とLRS remnantの再衝突
▲がLRS remnantの位置、19日には判別できなくなっている。
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、20cm)、福井英人氏(静岡県、35cm)、
柚木健吉氏(大阪府、26cm)、Guilherme Grassmann氏(ブラジル、25cm)


A活動的な南赤道縞(SEB)

今シーズンの木星面は、昨年の全球的な活動が一段落して、落ち着いた状態にあ ります。赤道帯(EZ)も明るくなってフェストゥーン(festoon)などの模様がほと んどなくなってしまったため、全体として変化に乏しい印象を受けます。しかし、 唯一SEBだけは活動的で、ベルトの内部は乱れて混沌とした状態にあり、細くな った北赤道縞(NEB)に比べると、SEBは2倍近い太さがあります。

目を引く模様として、II=300°から後方のSEB南縁に沿って見られる青黒いスト リークがあげられます。6月頃に形成されたようですが、最近では大変目立つ模 様に発達しています。ストリークは不規則な暗斑の連鎖で構成され、断片的にな っている所もありますが、大赤斑付近まで続いていて、全長170°に達します。 前端付近ではやや緯度が高くなって、STrZの北部に横たわっているので、一見す ると、この経度からSEBが急に幅広くなっているように見えます。大赤斑前方に 出現して急速に前方へ伸びていくストリークよりも緯度が低いため、今のところ 体系IIに対してほとんど動いていませんが、さらに南側に発達するとSTB北縁 (STBn)のジェットストリームに捉えられて、急に前方に向かって伸びていくこと も考えられます。

SEB内部の2ヵ所で発生したmid-SEB outbreakは、まだ活動が続いています。最初 のoutbreakは、II=300〜30°の範囲で、もう一方は大赤斑後方からII=230°の間 でSEB北側に乱れた明帯を形成しています。以前に比べると顕著な白斑は少なく なりましたが、どちらかと言えば、前者の方が明帯の幅が広く、活動的な印象を 受けます。上記の2つの領域の後端付近から後方では、SEB中央部に濃い暗条が発 達しており、後方ほど緯度が高くなっているのは、過去の活動でも見られた特徴 です。ベルト南縁を高速で後退する暗斑は確認されていませんが、SEBはかなり 高い活動レベルにあると言えるでしょう。


[図2] 8月14日〜15日の全面展開図
目盛りは体系II。右端の黒点はエウロパの影。
撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、筆者改編(拡大)

[図3] SEB南縁のストリーク
2008年8月4日 14:04UT I=146.2° III=299.0°
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


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