天文ガイド 惑星の近況 2008年9月号 (No.102)
堀川邦昭

木星は7月9日にいて座で衝を迎えました。夏を迎えるこれからが観測本番となり ます。一方、土星は西空低くなり、観望には適さなくなってしまいました。

木星

@大赤斑と赤色斑点の会合

今シーズンの話題となっている南熱帯(STrZ)の赤色リング斑点(LRS)と大赤斑と の会合がついに始まりました。どのような現象が見られるか、これまでいろいろ 予想されていましたので、まず結果から報告しましょう。LRSは大赤斑の南側を なんとか通過し、前方のSTrZで生き残っています。

先月のこのページでは、LRSが大赤斑に到達する時期を7月初め〜中旬と予想しま したが、LRSが大赤斑に近づくにつれて加速したため、6月27日頃には大赤斑湾 (RS bay)の後端に達しました。すると、大赤斑の南縁に沿って青黒いアーチが出 現し、LRSはそのスロープを這い上がるように進みました。7月1日までは元のリ ング状の丸い形状を保っていましたが、2日に大赤斑の中心から2時方向まで進ん だ時、突然東西方向に引き伸ばされて、赤みを帯びた細長いstreak状に変化して いましました。翌3日には、ひと足先に大赤斑に追いつき、ちょうど真南に差し 掛かっていた永続白斑BAと大赤斑の間の狭いチャネルを通過して前方へ抜けたと 思われますが、赤みのあるstreakはどこにも見られず、一時は消失してしまった のではないかと疑われました。

不明瞭な明部が大赤斑の左上に再び現れたのは5日のことですが、以前のような 赤いリング状の姿とは異なり、輪郭のはっきりしない拡散した白斑であったため、 通常の画像では本当にLRSなのか確信が持てませんでした。しかし、メタンバン ドの画像でも、この白斑が明るく写っていたことから、LRSであることが明らか になったのです。その後、可視光では今ひとつ不明瞭ながらも、メタンバンドで は明るい模様で、その位置も大赤斑の左上から前方へ移動し、14日には大赤斑前 端から伸びる短いstreakの先端へと進んでいます。経度は同日の柚木健吉氏(大 阪府)の画像で、II=101.7°でした。赤みはまったく無くなり、通常のSEB南縁に ある白斑と変わりなくなっており、大赤斑通過後の再形成で、LRSの構造が変化 してしまった可能性があります。緯度についても南緯23°台まで下がってしまい ましたので、SEB南縁を後退に転じて、大赤斑に再度向かって行く可能性もあり ます。

ひとまず今回の会合は一段落しましたが、今後、第二幕、第三幕の展開があるか もしれませんね。

Aその他の状況

前述のように、LRSが到達したことにより、大赤斑南縁に青黒いアーチが形成さ れました。アーチの内側には赤みのある大赤斑本体が見えていて、中心に核状の 暗部も存在しますが、全体として明るく、まるで赤斑孔(Red Spot Holow)を見て いるようです。南側を通過中の永続白斑BAは、大赤斑の3分の2ほどもある大きな 白斑として見られ、昨年のような強い赤みは無くなってしまいましたが、真っ白 なコアとそれを取り囲む淡いピンク色の領域が印象的です。LRSとの会合による 大赤斑やBAへの影響は特にありません。80年代には、永続白斑の大赤斑通過に伴 って、大赤斑前方のSTrZにdark streakや暗部が出現したことが何度もありまし たが、近年は何も起こっていません。今回もこのまま通過してしまいそうな雰囲 気です。大赤斑とBAの経度は、12日の永長英夫氏(兵庫県)の画像で、それぞれII =126.5°とII=121.4°でした。

3月に発生した2つのmid-SEB outbreakは、まだ活動が続いています。RS前方の outbreakは、発生源がII=60°付近まで前進してしまいましたが、SEBの北半分に 約70°の長さの乱れた明帯を形成して活動的です。この明帯は徐々に細くなりな がらさらに前方へ伸びて、II=240°付近に発生源のあるもうひとつのmid-SEB outbreakの北へくさび状に潜り込んでいます。そのためこの経度では、2つの outbreakの間に前方北側−後方南側に傾いた濃い暗条が発達しています。このよ うな構造はSEBではよく見られ、outbreakの白雲は相互に混じり合わないという 性質を示すものです。大赤斑の後方からII=240°までの領域は、同じような明帯 となっていますが、前述のoutbreak領域に比べて乱れ方は弱いようです。

6月中旬、赤道帯南部(EZs)の長命な攪乱領域(SED)が大赤斑北側を通過して、再 び活動的になりました。SEB北組織(SEBn)にリフトが再形成され、I=330〜10°の 範囲でSEBnがEZsへせり出して乱れています。この領域が次に大赤斑北側を通過 する8月にも、同様に活動的になることが期待されます。

[図1] 大赤斑とBAとLRSの会合
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、風本明氏(沖縄県、50cm)、Anthony Wesley氏(オーストラリア、33cm)、Guilherme Grassmann氏(ブラジル、25cm)



[図2] メタンバンドによる大赤斑とBAとLRS(▲)の会合(拡大)

土星

STB北縁の白斑を追跡するのはもう難しいだろうと先月書いてしまいましたが、6 月も白斑が観測されています。特に30日の風本氏の画像はすばらしく、観測地で ある宮古島のシーイングと、口径50cmの威力が伝わってきます。

風本氏の捉えた白斑は、5月に再度明るくなった最初の白斑で、III=340.8°、南 緯41.5°にあり、まだかなりの輝度があります。昨年12月の発生以来、すでに半 年以上も存続したことになり、土星の模様としては、近年では例のない寿命です。

もうひとつの白斑は、Delcroix氏(フランス)が18日に捉えていて、経度はIII= 311.7°でした。

[図3] 土星の白斑
2008年6月30日 11:24UT I=94.3° III=339.3°
撮像:風本明氏(沖縄県、50cm)


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