天文ガイド 惑星の近況 2008年8月号 (No.101)
堀川邦昭
梅雨時で天候に恵まれませんが、木星は7月9日の衝に向けていて座を逆行中で、 観測の好機を迎えています。土星は22日に東矩を過ぎて、夕方の西空に移りまし た。わずかな晴れ間を逃さず、観測したいものです。

木星

@大赤斑と赤色斑点の会合

先月お伝えしたように、高気圧的循環を持つ赤色斑点である大赤斑に向かって、 そのミニチュアのような2つの斑点、永続白斑BAと小赤斑(LRS)が迫りつつありま す。BAはすでに大赤斑後端に到達していて、これからひと月余りをかけて、大赤 斑の南を通過して行きます。以前よりも赤みは薄らいでしまいましたが、その分 明るくなり、小口径でも楽に見ることができるでしょう。一方、LRSはII:=145.8° (13日、永長氏)と、大赤斑後端の10°ほど後方にあります。BAがほぼ一定のスピ ードで前進しているのに対してLRSの動きは不規則で、4月に大きく減速してBAに 追い抜かれたのですが、5月後半には一時的にに加速し、現在はBAとほぼ同じス ピードになっています。大赤斑後端への到達は、当初の予定よりも少し遅れて、 7月初め〜中旬になりそうで、その頃、BAは大赤斑の真南か、少し前方に出てい ることでしょう。LRSはその後、大赤斑周囲の流れに沿って南へ移動し、南温帯 縞(STB)との間の狭いチャネルに入ると予想されます。ただし、何らかの要因で LRSがSEB側にわずかでも押し下げられると、停滞したり後退に転じる可能性もあ ります。

[図1] 大赤斑とBA、LRSの接近
2008年6月6日 05:56UT
I:245.3° II:130.9° 撮像:F.Carvalho (ブラジル、25cm)


A南赤道縞(SEB)の活動

大赤斑前方で発生したmid-SEB outbreakは、II=70°より前方で乱れた明帯が見 られ、前端はII=330°付近に達しているようです。もうひとつのoutbreakは、 II=220°より前方で白雲の活動が見られますが、顕著なものではなく、衰えつつ あるような印象を受けます。大赤斑からII=220°までの間は、SEB北部に沿って 白斑の連鎖のようなSEBZが続いていて、濃く安定したSEBが見られるのは、II= 240〜330°の範囲だけとなっています。また、この経度では、南組織(SEBs)が膨 らんで、ベルトが大変幅広く見えます。

さて、今後SEBはどのような変化を見せるでしょうか。これについては、2つの見 方があります。ひとつは、SEBは再び淡化して、数年後に次のSEB攪乱が発生する というもの、もうひとつは、SEBは濃く安定したベルトへと戻り、その状態を今 後十数年もの間、保つというものです。

近年、撮像技術が著しく向上したことで、過去の観測との比較が難しくなってい るのですが、90年代の沖縄の宮崎勲氏による写真で、今シーズンの木星とおおよ その状況を比べてみましょう。図2の(a)は1991年の木星面で、1990年のSEB攪乱 から約1年半経過しています。SEBは二条で、内部に細かい模様は見られません。 この後、SEBは淡化して翌年にはほとんど見えなくなり、1993年のSEB攪乱の発生 へと続きます。一方、(b)は1993年のSEB攪乱から1年ほど経った1994年の木星面 です。SEBはやや淡いものの、不規則な濃淡があり、攪乱の余波と思われる小規 模な白斑群の活動も見られます。翌1995年にはSEB南縁でジェットストリーム暗 斑の活動が始まり、ベルトは2006年まで濃化状態が継続しました。今シーズン のSEB(c)は1994年とよく似た状況にあり、昨年のSEB攪乱の余波が続いていると 見るのが、妥当のように思われます。そのため、SEBはこれから長期間安定なベ ルトへと変化して行くのではないかと予想されます。


[図2] SEBの活動状態の比較 (拡大)
(a) 1991年12月6日 21:29UT I:33.5° II:180.2° 撮影:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)
(b) 1994年3月28日 17:07UT I:87.0° II:282.9° 撮影:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)
(c) 2008年6月9日 18:35UT I:102.0° II:320.7° 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

なお、現在活動している2つのmid-SEB outbreakは、ひょっとすると攪乱の余波 の一部であり、通常起こるものとは一線を画すべきなのかもしれません。

Bその他の状況

5月上旬、大赤斑前方のSEB北縁が乱れて注目されました。これは、赤道帯南部 (EZs)の長命な攪乱領域(SED: South Equatorial Disturbance)で、2000年頃から 間欠的に観測されています。SEDはI=348.9°(6月6日、Go氏)にあるSEB北組織 (SEBn)の切れ目(rift)と、その前方に広がるSEBnの突起や乱れで構成されていま す。大赤斑の北を通過すると顕著になる傾向があり、5月にはその影響でmid-SEB outbreakが活動的になりました。

SSTBは太く二条に分離したベルトで、内部には昨シーズンよりもひとつ増えて9 個の小白斑が存在しています。また、II=40〜90°と310〜340°では淡化して、 南北両縁だけが残っています。

STBはほとんどの経度で細い北組織(STBn)だけとなっており、太いベルトが残っ ているのは、BA後方の20°程度しかありません。II=190°付近のSTZには、この 緯度としては珍しい大型の暗斑が見られます。中心部に白い核を持ったドーナツ 状で、周囲にあまり模様がないため、大変目だっています。

やや細身の北赤道縞(NEB)の北部には赤茶色の暗斑であるバージが並んで、ベル ト北縁に突起模様を形成しています。長命な白斑WSZは北熱帯(NTrZ)に露出し、 II=316.6°(6月9日、熊森氏)に位置します。

北温帯縞(NTB)はNEBに匹敵するほどの太いベルトとなっていて、オレンジ色が鮮 やかです。濃く直線的な南組織(NTBs)と、淡く波打った北組織(NTBn)が特徴的で す。

土星

観測条件の悪化と観測数の減少によって、STB北縁の2つの白斑を追跡することが 難しくなってきました。今期は5月21日に小澤氏(東京都)とDelcroix氏(フラン ス)が、2つ目の白斑を捉えているのみで、最初の白斑は確認できていません。 5月初めに明るく顕著になったのは、一時的なものだったのでしょうか。

太陽との合は9月4日ですから、梅雨明けの頃にはすでに西空低くなっていて、白 斑を追跡するのは難しくなっていることでしょう。白斑はもうしばらく存続する と思われるだけに、残念です。

[図3] 土星の白斑
2008年5月21日 11:09UT I=158.9° III=304.3°
撮像:小澤徳仁郎 (東京、25cm)


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