天文ガイド 惑星の近況 2009年1月号 (No.106)
堀川邦昭

木星はシーズン終盤となり、夕暮れの南天低く輝いています。日の入がどんどん 早くなっているため、日没時における高度の低下は小さく、いつも同じ所に輝い ているような錯覚を受けてしまいます。土星は夜半過ぎの東天で高度を増してい ます。環がいよいよ細くなってきました。

木星

今年3月から続いていた大赤斑前方のmid-SEB outbreakの活動が、ついに停止し ました。II=270〜20°の範囲で南赤道縞(SEB)内部に明帯が残っていますが、発 生源となる後端部分からの白雲の湧出は止まり、明帯内部の乱れは小さく、幅も 以前に比べて狭くなっています。9月に活動が停止したもうひとつのoutbreak領 域では、10月中旬にII=210°付近で2つの小白斑が出現しましたが、小規模なも のなので、これまでの活動の名残ではないかと思われます。これで、今回の2つ のmid-SEB outbreakの活動は終息したことになります。SEB内部には、まだかな り濃淡があるものの、静かになったという印象を受けます。

これに対して北赤道縞(NEB)では、まだリフト活動が続いています。前観測期間 に見られた3つのリフト領域は、どれも長く伸びてしまい、個々の領域を区別す るのは難しくなってしまいましたが、NEBはかなりの経度で二条になっていて、 ベルト内部には明るい白斑が見られ、南組織も変化に富んでいます。NEB北縁は バージや突起模様で特徴づけられているものの、以前に比べると数が少なくなり、 現在では全周で5個を認めることができます。一方、北熱帯(NTrZ)の白斑は全部 で3個あり、このうち長命な白斑WSZはII=270°まで前進しています。

大赤斑は小赤斑(LRS)との会合によって赤斑孔へと変化し、現在もその状態が続 いています。内部には赤みのある大赤斑本体が見えているのですが、周囲の青黒 い取り巻きは大変強力で、衰える気配は見られません。前方のストリークは、 SEB南縁に沿って元々存在するストリークと一体化して区別できなくなっていま す。II=350°までは連続したストリークになっていて、その前方は暗斑や断片と なってII=260°付近まで続いているようです。

[図1] BAと赤斑孔前方のストリーク
2008年10月17日 9:16UT I=129.6° II=79.3° 撮像:風本明氏(京都府、31cm)


今シーズン明化した赤道帯(EZ)は、相変わらず明るく、フェストゥーンなどの模 様はほとんど見られませんが、以前に比べると、青いフィラメント状の模様が増 えてきたように思われます。先月述べた北温帯縞北組織(NTBn)の青黒い乱れは、 II=160〜230°の範囲で、明瞭なベルト組織へと変化しています。さらに北側で は、北北温帯縞(NNTB)が復活しつつあり、はっきりとしたベルトの断片が見られ るようになっています。

STBsのジェットストリームの観測

近年の南温帯縞(STB)は、ほぼ全周で淡化して、細く淡い北組織だけになり、濃 いベルトとして見られるのは、永続白斑BAの後方に残るのみとなっています。こ のSTB本体は、2004年頃には約100°の長さがありましたが、年々短縮する傾向に あり、今年は25°くらいになってしまいました。さて、その後方にはSTB南縁 (STBs)の緯度に沿って、2003年頃から暗斑群が見られるようになっていて、まる で崩壊しつつあるSTBの断片のような印象を受けます。今年も多数観測されてい て、その最後尾に南温帯(STZ)の目玉状の大型暗斑が位置しています。

BAを含むSTB周辺の大部分の模様は、南温帯流というカレントに乗って、体系II に対し約-0.5°/日の割合で前進しますが、STBsの暗斑群は、逆に経度増加方向 に後退運動をしていることがわかりました。これは、STBsを-20m/sで流れる西向 きのジェットストリームに運ばれているためです。このジェットストリームはボ イジャーによって発見されたもので、それ以前には地上から観測されたことはあ りませんでした。近年の暗斑群の活動によって、初めて捉えられるようになった のです。今年の暗斑群のスピードは-10m/sと、やや遅いのですが、これは、ジェ ットストリームの奔流から少し外れているためと思われます。

個々の暗斑を観察すると、STBの後端部分で生成された後、ジェットストリーム の緯度を後退し、最後はSTZの目玉暗斑に衝突合体しています。目玉暗斑が顕著 な状態を保っているのは、暗斑群が「栄養源」となっているためかもしれません。

[図2] 短縮するSTBと後方に続く暗斑群
上) 2006年5月21日 13:18UT I=351.8° II=174.6° 撮像:永長英夫氏(兵庫県、31cm) 下) 2008年7月10日 14:48UT I=182.9° II=166.0°撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm)


[図3] STB南縁を後退する暗斑群
撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、福井英人氏(静岡県、35cm)


土星

土星は、環の傾きが当観測期間中、-2.8°から-1.5°まで小さくなりました。画 像を日付順に調べると、みるみる環が細くなっていくのがわかります。どの画像 を見ても、環は細くつぶれていて、内部の様子を知ることが難しくなっています。

環の傾きの減少と共に、土星の周りを回る衛星の軌道面の傾きも小さくなってい ます。そのため、衛星やその影による土星面の経過現象が見られるようになりま した。木星では日常的な光景ですが、土星は赤道面の傾きが大きいので、環の消 失前後だけしか見られない珍しい現象です。

土星本体では、南赤道縞(SEB)と北赤道縞(NEB)の2本のベルトが目立っています。 どちらも二条になっていますが、SEBは赤く、南半分が淡いのに対して、NEBは南 側が灰色ですが、北側は緑がかっていて、後者の方が濃く見えます。

[図4] 一段と細くなった土星の環
2008年11月1日 21:15UT I=0.7° III=37.2° 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


前号へ INDEXへ 次号へ