天文ガイド 惑星の近況 2009年3月号 (No.108)
堀川邦昭

土星は新年早々の元旦に留となり、いよいよ観測の好機となりました。環の傾き が極小となって、注目度は高くなっています。夕暮れの空では、金星が14日に東 方最大離隔となり、格好の観望対象となっています。一方、1月24日に合を控え ている木星は、金星の右下へどんどん低くなり、2008シーズンが終了しました。 ここでは12月後半から1月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、こ の記事中の日付はすべて世界時(UT)となっていますので、ご注意ください。

土星

環の傾きは12月末に-0.8°まで小さくなり、今シーズン前半における極小となり ました。土星をほぼ真横から見ることになるため、環は細い直線状で、まさに串 団子のような見え方です。環の内部の様子はまったくわかりませんが、好条件下 の画像ではカシニの空隙の位置がやや暗く、凹んだように見えています。数名の 観測者が指摘しているのですが、細い環は画像よりも眼視の方がシャープに見え るようです。これは、土星本体よりも環の明るさがかなり暗いためではないかと 思われます。

今後、環の傾きはこれまでとは逆に徐々に開いて、5月には-4°に達します。環 の短径は土星本体の6分の1を超えますので、カシニの空隙などの環の内部構造も わかるようになるでしょう。その後は、8月と9月に起こる環の消失に向かって、 急速に減少して行きます。

土星本体では、当観測期間も白斑の活動が観測されています。12月上旬に出現し た南熱帯(STrZ)に小白斑は、その後観測がなく、一時的なものだったようですが、 南赤道縞(SEB)内部では頻繁に白斑が発生していて、12月20日と1月8日には阿久 津氏が、1月6日には柚木氏が撮像に成功しています。これらの白斑はどれもコン トラストが低く、強調処理した画像でないと判別が困難です。さらに、1月6日に 熊森氏が北半球のEZ北部に白斑を捉えていて、翌7日のCasquinya氏と8日の阿久 津氏の画像でも明瞭です。北半球での白斑活動は、ここ数年で初めてのことです。 また、1月7日の熊森氏の画像では、I=300°付近の赤道帯(EZ)南部に暗斑が捉え られています。暗斑はSEB北縁に接しており、10日のWesley氏の動画ではSEB北縁 に湾入を伴った横長の斑点で、後方に薄暗い暗条が伸びているのがわかります。 近年の土星面の活動は白斑ばかりで、暗斑はほとんど観測されていなかったので、 注目されます。

[図2] 土星の白斑
2009年1月8日 19:32UT I=115.6° III=35.9° 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm) SEB内部とEZ北部に白斑が見られる(矢印)。


[図3] タイタンの経過とEZ南部の暗斑
2009年1月7日 18:08UT I=301.6° III=257.3° 撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm)


環の傾きがゼロに近くなったため、衛星本体やその影が土星面を経過する現象が 頻繁に起こっています。当観測期間でも、ディオーネ、テティス、タイタンやそ の影が土星面を通過する様子が捉えられています。ディオーネなどの小さな衛星 の経過は、大きな望遠鏡でないと難しいと思われますが、タイタンは、木星のガ リレオ衛星並みに大きな黒い斑点として見えますので、小望遠鏡でも十分に楽し むことができるでしょう。

木星

2008シーズン最後の観測は、1月4日の福井英人氏による画像でした。合のわずか 20日前、日没時の木星高度は12°しかありません。画像では北赤道縞(NEB)と南 赤道縞(SEB)が明瞭で、赤道帯(EZ)が明るく見えています。南熱帯(STrZ)が右側 で少し薄暗く見えるのは、大赤斑前方のストリークがまだ残っているためでしょ うか。この付近に永続白斑BAがあるはずですが、よくわかりません。SEB北縁が やや淡く波打っているのは、EZ南部(EZs)の攪乱領域(SED)の影響かも知れません。

明け方の東天に木星が現れるのは2月後半になると思われます。来る2009-10シー ズンはどのような木星面が見られるでしょうか。現在のSEBは、mid-SEB outbreakの活動が終息して比較的落ち着いた状態にありますが、近年のSEBの活 動頻度を考えると、合の間に新たな活動が始まることは十分に考えられます。最 も可能性が高いのは、新たなmid-SEB outbreakの発生ですが、2007年の時のよう なベルト全体の淡化が起こることもあり得ないとは言えません。合で観測ができ ない間に重要な現象が始まったことはこれまで数多くあり、最近では2007年の南 熱帯攪乱(STrD)が良い例です。大赤斑は前方のストリークの衰退により、周囲の アーチが消失して元の姿に戻っているかもしれません。EZでは青い模様が増えて きましたので、来シーズンは再びフェストゥーン(festoon)が多数見られるよう になると思われます。

[図1] シーズン最後の木星
2009年1月4日 8:14UT I=306.9° II=14.2° 撮像:福井英人氏(静岡県、35cm)


金星

1月14日に東方最大離隔となった金星は、ほぼ半月のような見え方になっていま す。視直径は約24秒と、大接近時の火星程度であまり大きくありませんが、今後、 どんどん大きく細くなって行きます。可視光で見る金星面は極めて明るく、これ と言った特徴は見られないのですが、紫外波長(UV)では表面にモヤモヤとした薄 暗い模様が現れます。

理論上、金星がちょうど半月になる時期は、最大離隔と一致するはずですが、実 際にはそれより少し前になることが観測で知られており、発見者にちなんでシュ レーター効果と呼ばれています。1月の画像で調べてみても、ちょうど半月に見 えるのは、東方最大離隔よりも4日早い1月10日頃となっています。これは、金星 の濃密な大気によって、夜側に回り込んだ太陽光の影響で、赤道付近よりも大気 層を斜めに眺める極域の方がより明るくなって、金星の南北端が出っ張って見え るためです。

今後、金星は2月19日に最大光輝、3月27日に内合となります。この時期の黄道は、 西の地平線に対して大きく傾いており、日没時の金星高度は最大で40°を超えま すので、3月上旬まで、細くなった金星を追いかけることができるでしょう。

[図4] 金星の波長による見え方の違い
左) 可視光 2009年1月10日 7:40UT 右) 紫外光 2009年1月10日 7:54UT
撮像:米山誠一氏(神奈川県、20cm)


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