天文ガイド 惑星の近況 2009年7月号 (No.112)
堀川邦昭

早いもので、木星がまもなく西矩を迎えます。日出時の高度もだいぶ高くなり、 観測条件が良くなってきました。しし座を逆行中の土星は、まだ観望の好機にあ ります。これから梅雨入りまでの間、日没後の西南天に見ることができるでしょ う。火星はまだまだ遠いのですが、熱心な観測者はすでに観測をスタートさせて います。

ここでは4月後半から5月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

木星面は、前観測期間と比べて大きな変化は見られません。南赤道縞(SEB)は全 周で二条に分離しています。中央の明るい帯(SEBZ)は、大赤斑(RS)の前方では明 るく明瞭ですが、II=200°台では薄暗くなって目立ちません。大赤斑の後方では、 乱れた白雲が時々現れ、定常的な活動領域(post-GRS disturbance)が再び形成さ れる気配が感じられます。

大赤斑は楕円形の輪郭こそはっきりしていますが、赤みがほとんどありません。 普段は赤色光の画像では明るく、青色光の画像では暗く写るのですが、現在はあ まり濃度差が見られません。これほど赤みのない大赤斑は、赤斑孔(RS Hollow) となっていた時期を除けば、かなり珍しいのではないでしょうか。経度は5月4日 にII=135.2°で、ゆっくりとした後退運動を続けています。

永続白斑BAはII=344.7°(5月8日)に進んでいます。大きいわりに明るさがないた め、南温帯縞(STB)のギャップ(gap)のように見えます。BAとの衝突が期待されて いる南温帯(STZ)のリング暗斑は、BAの後方15°に迫っていますが、4月末に周囲 の暗い取り巻き部分が消失して、小白斑に変化してしまい、高解像度の画像でな いと、明瞭に捉えるのが難しくなってます。おそらく、これがリング暗斑の元の 姿なのではないかと思われます。

北赤道縞(NEB)ではリフト(rift)活動が活発になり、全周で3つのリフト領域が認 められます。このうち2つは4月後半に新たに形成されたもので、ひとつは4月23 日頃にII=170°付近で、もうひとつは4月末にII=70°付近で活動が始まりました。 どちらもNEB内部にあった小白斑から白雲が東西に広がることでリフト領域に変 化しています。両者とも体系IIに対して1日当り-3.5〜4°のスピードで前進して おり、5月12日にはそれぞれII=10°と100°前後で、長さ30〜40°のリフト領域 が見られます。3月に活動が始まったリフト領域も健在ですが、長く伸びた領域 の前半部分は衰退し、後半分がII=200°付近で長さ40°くらいの明部として残っ ています。

NEB北縁では、大赤斑の北側に当るII=140°付近に大きな暗斑が出現しています。 茶色の色調や周囲のNEB北縁が湾状に凹んでいる様子から、小赤斑(LRS)が形成さ れた可能性があります。もし、そうであれば、NEB北縁では10年ぶりの出現とな ります。

北温帯縞北組織(NTBn)の青黒い暗部は相変わらず顕著で、II=110°付近には長さ 30°のストリークがあります。また、II=0°前後では、数十度に渡ってNTBnの暗 部が北温帯(NTZ)を侵食し、攪乱状に乱れています。

[図1] 木星面の全面展開図
5月9日〜13日の画像から永長英夫氏(兵庫県)が作成したものを改編。


土星

5月半ばに環の傾きは-4.1°の極大に達しました。開いた環の内部には、カシニ の空隙やC環を見ることができます。今後、環の傾きは急速に減少し、8月、9月 には環の消失が起こります。

注目されている赤道帯(EZ)北部の小白斑が、4月10日以降、行方がわからなくなっ ていました。消失してしまったか、環が開いてきたため、A環に掩蔽されてしまっ たかと考えられていましたが、5月1日の画像でI=200°付近に再び確認すること ができました。一時的に不明瞭になっていただけのようで、A環による掩蔽は免 れたようです。

III=300°台の南熱帯(STrZ)では、間欠的に白斑が観測されていますが、当観測 期間も大きく拡散した白斑が観測されています。4月19日前後は明るく顕著になっ たようで、多くの観測者が撮像に成功していますし、筆者も30cm反射で眼視での 検出に成功しています。

[図2] 健在だった赤道帯北部の小白斑
2009年5月1日 11:17UT I=197.2° III=302.8° 撮像:小澤徳仁郎氏(東京都、24cm)


タイタンの影が土星面を経過する現象は、4月29日と5月15日に見られました。 4月29日は天候に恵まれたため、多くの観測者が捉えています。

火星

火星は、地球から見るとまだ太陽から離れていません。その上、地球から見た視 直径は5秒足らずと、観測には最悪の条件を脱していません。しかし、火星の世 界は活動期に入りました。南半球は夏至に向かって季節が進んでいます。

3月23日、クサンテ(Xanthe; 52W, +13)からマリネリス渓谷付近にダストストー ムが見つかりました。見つけたのはアメリカの打ち上げた探査機MRO(マーズ・リ コナッサンス・オービター)です。

このダストストームは、Ls=232°で発見されています。過去の大規模なダストス トームの発生時期と比較するとやや早いのですが、中規模のダストストームとし て広がり、数日間で活動は収まりました。

ついで4月2日には、アルギレ(Argyre; 35W, -50)北方の南極冠の縁から、南極冠 を周回するようなダストストームが、これもMROによって発見されました。今度 の発生はLs=239°となり、過去の記録とより近くなりました。

今回の発生の特徴的なできごとは、南極冠の一部にできた透明な二酸化炭素の氷 が、爆発的に昇華し、大気中に二酸化炭素の嵐を巻き起こしたことが原因と考え られています。火星のダストストーム発生の引き金は、はっきりしないものがほ とんどですが、今回の現象に関してはMROの画像で解明されたといえるでしょう。

[図3] 火星で発生したダストストーム
出典:http://marsrovers.jpl.nasa.gov/spotlight/20090415a/2009_0402marci_br.jpg
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