天文ガイド 惑星の近況 2009年9月号 (No.114)
堀川邦昭、安達誠

木星は6月15日にやぎ座で留となり、逆行に転じました。まだ、梅雨が続いてい ますが、観測の好機に入っています。土星は、これから環の消失へと向かいます が、太陽に近づいて観測条件はどんどん悪くなっています。火星はようやく視直 径が5秒を超えました。

ここでは6月後半から7月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

5月末に顕著な暗斑が出現した北赤道縞(NEB)北縁では、ベルトが北側へ幅広くな る、拡幅領域が形成されています。2004年以来、5年ぶりの発生です。最初、II= 137.0°にあった暗斑は、北熱帯(NTrZ)の孤立した暗斑となって前進し、6月20日 頃にはII=105°付近に達しました。そして、後方ではNTrZに向かって腕のように 伸びたNEBの先端から新たな暗斑が放出され、NEB拡幅初期に特徴的な様相となり ました。このまま暗斑の前進と共に、拡幅域が拡大して行くと期待されたのです が、先頭の暗斑は意外にも後退運動に転じ、6月末には後続の暗斑と衝突・合体 してしまいました。そのため、拡幅領域は7月に入っても、II=105〜140°の範囲 に止まっています。この領域の後方II=170°にはNTrZの長命な白斑WSZが迫って いますので、今後、何らかの相互作用が見られるものと思われます。

[図1] 大赤斑と拡幅中のNEB
撮像:Fabio Carvalho氏(ブラジル、25cm反射)


NEBで見られる3つのリフト領域では、最初に活動が始まったR1が最も活動的で、 長さ100°を超える長大なリフト領域に成長しました。内部には明るい白斑がい くつか見られ、乱れた白雲はベルト北縁まで広がっています。他の2つのリフト 領域(R2、R3)はどちらもやや衰えて、白雲活動はベルトの南半分でしか見られま せん。

南赤道縞(SEB)は相変わらず全周で二条になっています。中央の明るい帯(SEBZ) はやや薄暗く、青みのある微細模様が増えましたが、ベルト全体が静かで、全周 で一様な見え方になっています。そのため、英国天文協会(BAA)のロジャース氏 らは、近いうちにSEBが再び淡化すると予想しています。

大赤斑は輪郭が明瞭で赤みも取り戻しましたが、やや小さくなったようで、丸み が増して見えます。当観測期間における平均長径は15.9°で、この数年間の平均 よりも1°以上小さくなっています。経度は7月9日でII=136.2°と、少し後退し ました。永続白斑BAはII=320.9°(7月5日)に大きな白斑として見られます。中心 に白い核がありますが、白斑自体は赤みもなく濁っていて、周囲とのコントラス トが低く、あまり目立ちません。後方には南温帯(STZ)の小白斑が見られますが、 間にある南温帯縞(STB)の名残の暗斑に行く手を阻まれて、BAとの距離は変わっ ていません。II=200〜260°には、STBの新しい暗部があります。後方ほど緯度が 高く、右上がりの見え方ですが、南南温帯縞(SSTB)とは融合していません。

北温帯縞(NTB)は顕著なベルトとして見えていますが、その北はコントラストが 低く、目立つ模様はありません。NTB北組織(NTBn)には青く乱れた暗部がいくつ も見られ、II=340〜80°では北北温帯縞(NNTB)と融合しています。

[図2] 木星面展開図 (2009年6月25〜26日)
永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)が撮像・作成したものを筆者改編


土星

環の消失が間近に迫っています。環の平面が太陽を通過するのは8月11日ですが、 すでに環の平面には太陽光がほとんど当っていません。地球と環の平面は6月末 で、まだ3°ほどありますので、リングの形状を保っていますが、極めて暗く微 かです。14年ぶりの環の消失となりますが、観測条件の悪化によって7月10日以 降、観測の報告がないのは残念です。

[図3] 消失間近となった土星の環
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


当観測期間は、土星本体の白斑の観測はありません。南熱帯(STrZ)の長命な白斑 は、6月5日のWesley氏の観測が最後でしたが、コントラストの高い大きな白斑に 成長していました。

火星

今月は10日分の観測が報告されました。国内からは2名、海外からは5名でした。 火星は月末にLsが290°を超え、南半球の夏至(Ls=270°)を少し回りました。南 半球はダストストームの発生しやすいときを迎えていますが、6月には確認され ませんでした。

南極冠は小さいながらも、月末まで画像に記録されています。6月11日に報告さ れてきた永長氏の画像では、前シーズンに淡くなったマルガリティファー(Sinus Margaritifer;20W, -10)が再び、はっきりしている様子が記録されました。広 範囲に渡って元に戻ったように見えますが、視直径が大きくなるにつれ、はっき りしてくると思われます。その他の主な模様は、通常の見え方をしているようで す。

[図4] 元に戻ったマルガリティファー
撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm反射)


木星会議と月惑50周年

9月に、恒例の木星会議と月惑星研究会の創立50周年記念パーティーが東京・新 宿で開催されます。木星会議は木星の観測シーズン毎に開催されており、1974年 に始まって以来、今回で33回目となります。

今回は、英国天文協会(BAA)から木星課長ジョン・ロジャース博士を招いての講 演や、プロの天文学者を交えてのシンポジウムが予定されています。また、記念 パーティーではベテランの観測者が一堂に会し、旧交を温める場になると思われ ます。木星に関する情報を集める格好の機会となりますので、奮ってご参加くだ さい。

詳細はイベント情報のページをご覧ください。

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