天文ガイド 惑星の近況 2009年10月号 (No.115)
堀川邦昭、安達誠

木星は8月14日に衝となりました。今年は梅雨明け後もぐずついた天候が続いて いますが、小天体の衝突痕が出現して、大きな話題となっています。土星はつい に環の消失を迎えましたが、条件が極めて厳しく、観望に適さないのが残念です。 火星はまだまだ遠く小さいですが、少しずつ地球に近づいています。

ここでは7月後半から8月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

先月号で速報したように、7月19日、木星面に小天体の衝突痕が出現しました。 1994年のシューメーカーレビー第9彗星(SL9)以来、15年ぶりのことです。発見者 はオーストラリアのアンソニー・ウェズリー(Anthony Wesley)氏で、衝突痕の出 現場所は、南緯56.8°、II=214.9°の南極地方(SPR)内部でした。英国天文協会 (BAA)のロジャース(Rogers)氏によるレポートなどを見ると、ウェズリー氏の19 日14時12分の画像で、すでに右リム上に衝突痕の暗部を認めることができます。 一方、その1自転前の7時41分の画像では何も存在しないので、衝突天体はこの6 時間半の間に木星に突入したことになります。衝突天体が彗星なのか、小惑星か は今のところわかっていません。

衝突痕は21日以降、周囲の風によって、前方へ伸長を始め、東西に細長くなって 行きました。前端部分のドリフトは1日当り約-0.6°で、永続白斑よりも大きく なっています。先端が南側にやや傾いたように見えますが、これは南緯60°付近 に東向きのジェットストリームが流れているため、衝突痕の南側ほど風が強くな っているためです。7月末の高解像度の画像では、衝突痕の北側にも前方へ向か う分枝が見られますが、こちらは、SPR北縁を流れる南緯52°のジェットストリ ームの影響と思われます。一方、後端のドリフトは1日当り+0.4°で、ゆっくり と後退しています。

8月の衝突痕はさらに伸長して、長さ30°くらいの暗帯になっていますが、前端 部は小さな断片に分解し、コントラストが低下したため、わかりづらくなってい ます。一方、後端はII=226.2°(14日)にあり、明瞭なコア状の暗部が見られるの で、こちらはまだ追跡できそうです。また、衝突痕から大赤斑付近までのSPR北 縁が濃くなっているのは、上記の衝突痕北側に伸びた分枝によるものと思われま す。

[図1] 衝突痕の変化
撮像:Anthony Wesley氏(オーストラリア、30cm)、Christophe Pellier氏(フランス、25cm)、Antonello Medugno氏(イタリア、35cm)、Paulo Casquinha氏(ポルトガル、35cm)、Fabio Carvalho氏(ブラジル、25cm)、 米山誠一氏(神奈川県、20cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、安藤和典氏(京都府、35cm)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、Donald Parker(米国、40cm)


大赤斑北側の北赤道縞(NEB)北縁では、ベルトの拡幅現象が進行中ですが、今月 はII=20°付近でも二次的な活動が始まったようです。この経度には元々顕著な プロジェクション(projection)があったのですが、最初の拡幅域と同じように、 リフト領域R1が8月初めに通過すると同時に、北熱帯(NTrZ)に飛び出した大きな 暗斑に変化しました。おそらく、この経度でも今後NEBの拡幅が進行していくと 予想されます。

最初の拡幅領域では、当観測期間もベルトが北へ膨らんだ暗部と、前方の1〜2個 の暗斑で構成されていますが、活動の初期よりも暗斑の前進速度はかなり小さく なりました。そのため、8月半ばでも活動範囲は40°程度に止まっています。

NEB内部では活発なリフト活動が続いていますが、R2とR3のリフト領域は崩れて まとまりがなくなってしまい、最初に形成されたR1だけが、II=280〜0°の範囲 ではっきりとしたリフト領域として見られます。

[図2] 大赤斑とNEBの拡幅域
撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm反射)


土星

8月11日、環の平面が太陽を通過しました。地球に対しては、まだ1°以上傾いて いますが、両面に太陽光が当らなくなるので、事実上、環は見えなくなります。 太陽との離角は30°ほどで、観測条件は劣悪ですが、数名が観測を試みています。 前日の10日に撮像された阿久津氏の強処理した画像では、環をかすかに認めるこ とができます。これは驚くべきことです。

環の平面が地球を通過するのは9月4日になります。太陽との離隔は10°まで小さ くなっていますので、観測するのは困難でしょう。

[図3] 消失前日に捉えられた土星の環
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


火星

南半球は夏至を過ぎ、夏本番になりました。南極冠は非常に小さくなっています。 南極冠は極点からずれているため、小さくなるとメリディアニ(0W, -5)の見える 経度でかろうじてとらえることができます。

7月20日、アメリカのヘルナンデス(Hernandez)氏が、アウソニア(258W, -35)が 明るいと報告してきました。火星は、いつダストストームが起こってもおかしく ない時期になっています。7月22日、フランスのプポー(Poupeau)氏の観測では、 アウソニアは明るくなく、ダストストームではありませんでした。

7月31日、ベラルーシのゴーリャチコ(Goryachko)とモロゾフ(Morozov)両氏の観 測で、はっきりしたダストストームの観測報告が寄せられました。クリセ(33W, +10)が非常に明るくなっており、それは典型的なダストストームの姿でした。こ のダストストームは、まだ観測数が少ないため、十分な追跡ができていません。

[図4] クリセのダストストーム
撮像:ゴーリャチコ氏&モロゾフ氏(ベラルーシ、23cm反射)


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