天文ガイド 惑星の近況 2010年2月号 (No.119)
堀川邦昭、安達誠

木星が夕方の南西天に傾いたのに対して、夜半前に東天に姿を現すようになった かに座の火星は、来年1月の接近を控えて0等級まで明るくなり、ついに夜空の主 役が交替しました。

ここでは11月後半から12月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、こ の記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

本格的な観測シーズンを迎え、多くの観測報告が集まりました。欠測は1日だけ で、日本と海外が半々くらいの数です。火星の自転は約24時間半と地球に近いの で、海外の観測があると日本とは異なる経度の様子を知ることができ、大変重要 な記録となります。

北極冠がはっきりした姿を見せるようになりました。大きく広がった縁の部分は 白く輝いていますが、北極点付近は逆に少し薄暗く見えます。最近は、そのよう な極冠の様子をパソコンで処理し、北極を中心とした展開図にして、ドーナツ状 に明るい北極周辺の状況を報告してくれる観測者もいます(図1、3)。

[図1] 北極冠の様子
極冠の周縁部が明るく中央が暗い。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


[図3] 極方向から見た北極冠
北極冠がドーナツ状になっている様子が良くわかる。
撮像:ジョージ・ターソウディス氏(ギリシャ、25cm)


視直径はついに10秒を超えて、火星面の状況が捉えやすくなり、海外から条件の 良い画像も届いているので、主な暗色模様はすべて確認できています。前回の接 近時と比べて大きな変化は見られません。また、ダストストームも当観測期間は 捉えらませんでした。

低緯度地方では、東西に広がる氷晶雲が観測されています(図2)。非常にデリケ ートな模様なので、印刷ではうまく再現できていないかもしれませんが、火星像 の欠け際の北(画像の真下)から3分の2あたりが、幅広く明るくなっています。カ ラー画像では、他の領域に比べてやや白っぽく見えるので、区別できます。観測 者によっても画像の処理が異なるため、よく再現できている画像と、そうでない ものがあり、判断の難しいケースが多くありました。

[図2] 低緯度地方の氷晶雲
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


北極冠は11月の初めまで広い範囲で淡いフードに覆われていましたが、次第に晴 れて11月末には、はっきりした姿を見せるようになりました。北極冠の周縁は暗 いバンドに取り巻かれており、画像でも眼視でも暗いベルトが良く目立っていま す。

図2の左上の明るいところは、アルギレ(35W, -50)と呼ばれる大きな盆地で、一 面に白雲か霜が広がっています。ここでは1画像しか掲載できませんでしたが、 阿久津氏のオリジナルの画像では、明るい白雲が自転に伴って移動する様子が記 録されていました。

また、タルシス(90W, +5)にある火山群の頂き付近には山岳雲が発生しており、 欠け際近くになる(火星の夕方になる)と、白雲が白斑のように明るく記録される ようになりました。

木星

大赤斑(RS)の北側に出現して注目された、メタンブライトな輝度の高い領域は、 11月中頃にはなくなってしまいました。その後、一時的に大赤斑湾(RS bay)の前 側がリフトのように大きく口を開けて、白雲がSEBZに流れ込んでいるように見え ましたが、12月には通常の見え方に戻ってしまいました。ただし、南赤道縞 (SEB)の淡化は着実に進んでいて、RS bayの輪郭はかなり淡くなっています。 元々淡かったRS前方のSEB南組織(SEBs)は、あまり変化していませんが、後方で は淡化が進んで、RS前後での濃度差は以前よりもかなり小さくなっています。一 方、メタンブライトな領域に伴って形成された、SEB北組織(SEBn)の青みの強い 暗部は発達して、RS前方のSEBnは、厚く濃い組織として目立っています。

RSの直ぐ後方にあるバージは、11月半ばに前端部が北へ流れた様相に変化したた め、RS bayに沿ってRS北側を回るのではないかと期待されましたが、その後の観 測では、期待に反してバージはほぼ同じ位置に留まっていて、形状も元に戻って しまいました。

南温帯縞(STB)では、II=320°付近に長さ30°ほどの青みのある薄暗いベルトの 断片があります。これは、かつて存在した暗部の名残(STB remnant)で、最近 徐々に濃度を増しています。この前方では、先行する淡く青い暗部がBA後方に迫 っていて、その影響でBAの直ぐ後ろにあるSTBの暗斑は、しだいに小さくなりつ つあります。11月15日には、三角形に変形した暗斑の先端から、BAの南縁に沿っ て細い暗条が伸びて、暗斑が両側から圧縮されているという印象を受けます。そ の後、暗斑は元の丸い形状に戻ってしまいましたが、今後も縮小すると思われま す。暗斑のすぐ前にあるBAは、赤みはあるものの、周囲よりも薄暗く、以前より も一層目立たなくなってしまいました。一方、暗斑の後側は、青い領域との間が 白斑状に明るくなり、目立っています。BAとの合体が期待されている小白斑は、 明るい部分が短くなり輝度が増すと、両者は区別できなくなり、同化してしまっ たようです。

[図4] 顕著になった大赤斑とBA後方の暗斑とSTB remnant
左) 撮像:永長英夫氏 (兵庫県、30cm反射)
右) 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm反射)


土星

火星がひと足先に夜半前に昇るようになったので、明け方の空に取り残された土 星は、観測数が激減しています。ただし、これは一時的なもので、年末には土星 も西矩となり、夜半前に観測できるようになります。

茨城県の横倉氏から、美しいスケッチが報告されています。環の傾きは+4°を超 えて、かなり幅広くなってきました。土星本体に白斑などは観測されていません が、来る2010年も楽しませてくれることでしょう。

[図5] 土星のスケッチ
観測:横倉敏雄氏(茨城県、40cm反射)


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