天文ガイド 惑星の近況 2010年3月号 (No.120)
安達誠、堀川邦昭

まもなく、1月31日に火星が衝を迎えます。視直径は小さいものの、赤緯が高い ので、地平高度の高い位置で観測ができます。冬場の悪気流に悩まされながらの 観測ですが、大きな寒気団にすっぽり包まれると、意外に良く見えることがあり ます。木星は南西天に傾き、観測シーズン終盤を迎えました。土星は相変わらず 観測数が伸び悩んでいます。

ここでは昨年12月後半から今年1月前半にかけての惑星面についてまとめます。 なお、この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

当観測期間におけるLsは30°前後で、北半球では晩春を迎えています。北極冠は 少しずつ小さくなり、火星表面の高地では山岳雲が発生します。また、低緯度地 方には氷晶雲が広がる季節となり、観測のたびにあちらこちらに雲が観測されま した。

図1では4方向に白い部分がありますが、これらの雲は画像だけでなく、肉眼でも わかります。火星像の朝側(右)に見えているのは朝霧です。自転とともに次第に 消えていきますので、長時間観測すると霧であることが分かります。一方、山岳 雲は、火星面の正午までははっきりしませんが、正午を回ると見え始め、図1の ように、日没直前にはかなり顕著になります。これらの東西の雲を時間をかけて 観測し、アニメーションを作成すると、変化が手に取るようにわかります。

[図1] 火星面に広がる明るい雲
明るい部分のうち、下は北極冠、左はアルバの山岳雲、上は南極雲、右は朝霧。
撮像:山崎明宏氏(東京、20cm)


山岳雲の顕著な場所は全面で6山あり、経度順にアスクラエウス(105W, +20)・パ ボニス(110W, +10)・アルバ(115W, +45)・アルシアシルバ(125W, -4)・オリンピ ア(135W, +25)・エリシウム(215W, +23)となっています。雲の発生は、山の高さ と大気中の水蒸気量によって異なりますから、雲の観測は火星の大気の状態を判 断する良い指標となります。同じ太陽高度での雲の様子を比較し、雲の濃さや雲 の流されている方向などが読み取れることになります。大気の運動はダストスト ームの移動ではっきり見えてきますが、山岳雲の流れる方向も参考になります。

[図2] 火星の山岳雲
左に3つ並んだ雲はタルシス3山、中央に近いものはオリンピア山、一番 下の雲はアルバ火山。いずれも顕著に見られる。
撮像:エミル・クラーイカンプ氏(オランダ、25cm)


少しずつ小さくなってきた北極冠には、縁に白く明るい部分が見えてきています。 南極冠でも同じことが起こりますが、縮小を始めると極冠の周辺部に非常に明る い部分が発生します。太陽光を反射して明るくなることから、表面が一様に平ら な部分だと考えられます。どの位置に見えているか、経緯度を測定して位置を確 定する作業を行っています。

また、この時期の北極冠にはドーナツ状の溝が見られます。日本の気流ではなか なか鮮明な姿を得られませんが、これは北極冠のさけめではなく、極付近を取り 巻く暗いドーナツ状の模様が、薄くなった北極冠を通して見えているものと考え られます。この時期、極冠の中間部分は、ドーナツ状に淡くなっていますが、ど の程度表面の模様が見えるかにも注意を払いたいものです。

極冠の中央部分は永久北極冠ができる場所になりますが、極付近にしばしば発生 するダストストームによって、この部分が黄色くなってしまうこともよく見られ る現象です。これらの極冠の様子は、撮像時に適正露出にしないと写りませんか ら、撮像観測をされている方は、表面の模様だけでなく極冠に露出をあわせた撮 像を心掛けていただきたいと思います。

[図3] 北極冠の様子
北極冠の中に細く黒いリングが記録されている。
撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm)


木星

木星面では南赤道縞(SEB)の淡化が一段と進んでいます。特に大赤斑(RS)付近の 南組織(SEBs)は微かで、ほとんど見えなくなっています。大赤斑の後方には、相 変わらずバージのような横長の暗斑が残っています。以前は木星面で最も目立つ 模様でしたが、SEBsが淡化するにつれて暗斑もやせて淡くなってきました。他の 経度でもSEBは淡くなっていて、カラー画像で見ると、SEBsが温調色でかなり淡 くなっているのに対して、北組織(SEBn)は灰色で比較的明瞭です。過去にSEBが 淡化した時の記録を見ても、SEBnが淡化せずに残った例は多く、1989年の淡化で はベルト全体が淡化しましたが、1993年の時はSEBnが明瞭でした。

一方、淡化したSEBとは対照的に、RSがとても目立つようになっています。RSと SEBの濃度は概ね逆の関係にあり、SEBが濃い時はRSが淡く、SEBが淡化するとRS は濃く赤くなることが知られています。当観測期間のRSは鮮やかなオレンジ色で、 周囲に暗い模様がなくなってしまったため、際立っています。2007年にSEBが淡 化し、RSが顕著になった時と比べても、まったく引けを取らないと思われます。

このような状況から、現在のSEBは、SEB攪乱(SEB Disturbance)がいつ起きても おかしくない状態にあると考えられます。NASAのオートン博士(Glen Orton)は フィリピンのゴー氏(Christopher Go)への私信の中で、「木星が合で観測できな い間にSEB攪乱が起こるだろう」と述べています。オートン博士はハワイの赤外 望遠鏡IRTFでの観測から、SEB攪乱の発生時期を何度も的中させていますので、 これは注目に値するコメントです。SEB攪乱は、青みの強い暗色模様がSEB中央部 に出現することで始まりますし、それに先立って明るい小白斑が現れることもし ばしばありますので、今後、観測の際には、そのような模様が出現していないか、 十分に注意を払ってください。2月末の合が近づくにつれて、観測条件は厳しさ を増す一方ですが、木星面の監視を怠らないようにしたいものです。

[図4] 大赤斑とSEBの変化
今シーズン初めと現在の木星面。わずか7ヵ月でRSとSEBはこんなに変化した。
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、28cm)


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