天文ガイド 惑星の近況 2010年5月号 (No.122)
安達誠、堀川邦昭

火星は衝を過ぎて、しだいに地球から遠ざかりつつありますが、まだ観測の好機 にあります。一方、まもなく3月23日に衝を迎える土星は、火星が西に傾いた後 の観測対象として、ようやく観測者の眼が向けられるようになりました。木星は 2月28日に合となり、しばらく観測はお休みです。

ここでは2月後半から3月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星の季節を表すLsは、3月10日に62°となり、北半球は夏至に向かっています。 北極冠は縮小しつつあり、あちこちで白雲が目立ちます。視直径も11秒と小さく なったので、気流が悪いと北極冠が見辛くなりました。

北極冠からの冷気の噴出し

当観測期間も「北極冠エッジダストストーム」が見られました。今回は2月16日 に、エリシウム(215W, +23)の北側で発生しましたが、残念なことに日本からは 見えない経度でした(図1左)。発見時は非常に小さく、条件が整わないと眼視で は見えませんでしたが、翌17日には、北極地方の気流に乗って東へ約10°移動し、 広がっています(図1右)。19日にはシャープ(Ian Sharp)氏が、やはり東にずれな がら発達しているダストストームの姿を記録しています。

画像を精査すると、W70°にも北極冠から白く明るい突起状の模様が見られます。 一見すると北極冠エッジダストストームのようですが、これは地形によるもので す。北極冠はこの経度の方向に深い谷があり、この谷の西側の先端が明るく見え るために起こります。しばしば見られるので、気をつけないと見誤まる可能性が あります。

[図1] 北極冠エッジダストストーム
左) 北極冠から中央に向かって伸びる白い突起がダストストーム。
撮像:エミル・クラーイカンプ氏(オランダ、25cm)
右) 翌日の画像、幅は広くなり、位置も東にずれている。
撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm)


ダストのベールか?

2月28日、イスメニウス(333W, +41)北方で、北極冠の輪郭が不明瞭になっていま した(図2)。ダストストームと同じ緯度に当たります。北極冠の周縁がかすんで 見えるのは、エッジダストストームが起き、ダストのベールができたのではない かと考えられます。

また、北極冠はしばしば黄色みを帯びます。これも同じような原因でダストが舞 い上がり、かすんだ状態になるものと思われます。

[図2] 北極冠を覆うベール
北極冠の周囲がダストストームのベールをかぶったように見える。
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


山岳雲

当観測期間も山岳雲が良く見られました。正午を回ると自転につれて白く明るく なるのが特徴です。以前はスポット状のものが多かったのですが、北極冠の縮小 と共に雲の面積が広くなり、広範囲に見えるようになっています。アルバのよう な面積の広い火山にも雲が広がり、青画像では火星面がにぎやかです(図3)。

[図3] 火星の山岳雲
3つ並んだ中央の雲がアルバの雲。
撮像:阿久津弘明氏(北海道、28cm)


氷晶雲

氷の結晶でできた雲が赤道付近で幅広く伸び、まるで火星の腹巻のように見えて いて、特に青画像で明瞭です(図4)。以前はクリセやリビヤなど、火星の低地に できやすかったのですが、最近は活発になって全周を取り巻いています。

山岳雲も氷晶雲も青画像で明瞭ですが、450nm以下の波長でないと地表の模様が 写り、好ましくありません。フィルターを使う場合は、こういった条件を整えた いものです。

[図4] 腹巻状に広がる氷晶雲
385〜450nmの波長で撮った火星面、東西に白雲の帯が見える。
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


土星

3月6日、土星の南半球に明るい白斑が出現しているのを阿久津富夫氏が捉えまし た。阿久津氏の測定によれば、白斑は南温帯縞(STB)付近の南緯40.6°にあり、 経度はIII=3.7°でした。この領域では、2007年12月から明るい白斑が繰り返し 出現しています。今回の白斑も、この一連の活動によるものと思われますが、土 星面で活動が2年以上も続く現象は極めて異例です。3月半ばでも白斑は顕著で、 多くの観測者によって追跡されています。

縞模様は、南赤道縞(SEB)だけが濃く明瞭に見えます。\昨シーズンよりだいぶ細 く、南縁の緯度は南緯23°と、以前の北組織(SEBn)南縁の位置に相当します。ベ ルトの南半分が淡化してしまったようです。赤道をはさんで反対側の北赤道縞 (NEB)は、幅広い緑がかった縞で、北縁は拡散してよくわかりません。高解像度 の画像で見ると、北半球は色とりどりの細い縞模様が広がり、大変美しい様相で す。SEBとNEBにはさまれた赤道帯(EZ)は明るい帯で、北半分(EZn)が白く見える 一方、南半分(EZs)はやや赤みがあります。内部には軽い明暗があり、両側のベ ルトの縁には木星のフェストゥーン(festoon)のような淡いすじ状の模様も見ら れます。

衝が近くなり、衛星現象が頻繁に見られるようになっています。小さな衛星ばか りなので、大きな口径とシーイングに恵まれる必要がありますが、2月19日はレ アとその影の経過現象が多くの観測者によって捉えられています。

[図4] 土星に出現した白斑
撮像:阿久津富夫氏 (フィリピン、35cm)


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