天文ガイド 惑星の近況 2010年6月号 (No.123)
安達誠、堀川邦昭

火星は視直径が10秒を切って、8秒台になってしまいました。ただし、地平高度 は高いので、たくさんの観測者から報告が送られてきています。土星は3月23日 に衝を迎えて、観測の好機にあります。春になって気流が安定してきたので、良 い画像が多くなっています。木星はようやく明け方の東天に姿を現すようになり、 2010-11観測シーズンがスタートしました。

ここでは3月後半から4月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、この 記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星の季節を表すLsは、4月10日の時点で75°となりました。当観測期間は大き な現象は起こらなかったものの、雲があちらこちらに見られました。

雲は北極冠の周囲、成層火山周辺、大きな盆地であるヘラスやアルギレベイズン で観測されました。北極冠では、夜明け直後のリムに常に白雲が見られ、極冠の 端がどこにあるのかよく分かりません。眼視でもよく見ることができました。夜 明け直後は暗い斑点状に見えているタルシス・オリンピア・アルバ・エリシウム の6火山は、火星の正午を過ぎる頃から白雲を作り、日没直前には眼視でも顕著 です。ヘラスとアルギレベイズンは、どちらも火星の位相の関係で、夜明け直後 の状態が短時間見えるだけでした。ヘラスは常に南半分、アルギレは全体が明る い白雲(おそらく霧)で覆われていました。

[図1] リム付近の成層火山による雲
撮像:エフライン・モラレス・リベラ氏(プエルトリコ、20cm)


当観測期間で目についたのは、赤道を付近にできる氷晶雲で、青画像で火星を撮 像すると顕著に見られます。氷晶雲は、文字通り水の氷の雲です。雲の高さはそ れほど高くなく、図2左のように、タルシス3山(90W, +5)やオリンピア山は覆わ れることはありません。氷晶雲は眼視では見るのが難しいため、画像の独断場で す。それでも大きい口径では、濃い青フィルターをかけると眼視でも見ることが できます。氷晶雲は図2左のような明瞭なベルト状のものばかりではなく、図2右 のように断片的になっていることもあります。

[図2] 赤道付近に広がる氷晶雲
氷晶雲は450nm以下の波長でないと写らない。低位緯度地方にもやもやと広がっている。
左) 撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、35cm)
右) 撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


北極冠エッジダストストームが頻繁に発生する時期になると、北極冠周辺では乱 流が発生するらしく、極冠がしばしば黄色く観測されます。昔から小さくなった 北極冠は黄色っぽいとよく言われていましたが、今シーズンも黄色っぽくなり、 3月20日ごろが最も顕著でした。

北極冠が縮小するにつれ、その周囲の地域が際立って暗くなっています。特に大 シルチス前後の経度では、極冠をかなりの幅で取り巻いています(図3)。元々、 北極冠の周縁にはかなり暗い領域が存在しますが、それよりもはるかに幅の広い バンドができています。

[図3] 北極冠を取り巻く暗帯
撮像:米山誠一氏(神奈川県、25cm)


土星

3月6日に出現した南熱帯(STrZ)の白斑は、当観測機関も健在でした。3月末には 一時的に不明瞭になったようですが、4月7日と11日のゴー氏(Christopher Go)の 画像に鮮明に捉えられています(図4)。経度はIII=17°(11日)で、出現時よりも 10°以上後退しました。過去に観測された同種の白斑と同じ傾向を示しています。

[図4] 土星の白斑
撮像:クリストファー・ゴー氏 (フィリピン、28cm)


環の傾きは徐々に小さくなりつつあり、画像でもこのひと月に少し細身になった のがわかります。衝を境に地球と環の平面の傾き(De)が太陽とのそれ(Ds)よりも 小さくなりました。そのため、環の影がB環の内側からA環の外側へと移動してい ます。解像度の高い画像の中には、環の影に沿って極めて細い線状の組織が見ら れるものがありますが、これは画像処理の過程で生じた疑似模様で、実在する模 様ではありませんので、注意してください。なお、今年も衝の前後に環が明るさ を増すハイリゲンシャイン現象(衝効果)が観測されています。

木星

シーズン最初の観測は3月27日の阿久津氏による画像でした。観測地のセブ島は 緯度が低いため、その分、木星高度が高いという地の利があります。国内の観測 はまだありません。

観測数が少なく、カバーできているのは木星面の3分の2程度ですが、この範囲で は警戒されている南赤道縞攪乱(SEB Disurbance)を疑わせるような暗色模様は見 られません。SEBはすっかり淡化して、ベルトの北半分が灰色の淡い帯として見 えるだけです。昨シーズン末は、まだ北組織(SEBn)がはっきりしていましたので、 さらに淡化が進んだようです。

木星面で唯一目立つベルトは北赤道縞(NEB)で、大変幅広く内部にはリフト活動 も見られます。他に北温帯縞(NTB)と南南温帯縞(SSTB)が顕著です。

大赤斑(RS)は12日のウェズレー氏の画像でII=146.7°に見られます(図5)。赤み と濃度が増し、周囲に暗い模様が全くないため、極めて目立っています。大赤斑 直前のSEBnには、昨シーズンSEBの淡化に関連して注目された青みのある三角模 様が残っています。永続白斑BAはII=211.0°(8日、Wesley氏)にあり、再び強く 赤みを帯びています。

木星面は全体として昨シーズン末から大きく変わっていないようです。まだ観測 のない経度についても、早く確認したいものです。

[図5] 淡化したSEBと顕著な大赤斑
撮像:アンソニー・ウェズレー氏 (オーストラリア、33cm)


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