天文ガイド 惑星の近況 2010年12月号 (No.129)
堀川邦昭

木星は9月21日に衝を迎えました。視直径は49秒を超えて、この12年間で最も大 きく見えています。猛暑から一転して涼しくなったため、シーイングは悪くなっ てしまいましたが、まだ十分に木星面の細部を見ることが可能です。金星は最大 光輝となっていますが、日没時の高度は10°ほどしかなく、観測に適しません。 土星と火星は太陽に近く、夜空は木星のひとり舞台です。

ここでは9月後半から10月前半にかけての惑星面についてまとめます。なお、こ の記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

※大赤斑を通過する暗斑の運動

今年の木星面では、南温帯縞(STB)の北組織(STBn)に沿って無数の暗斑が観測さ れています。特に大赤斑の後方では、小さいながら極めてシャープな暗斑が整然 と並んでいるのが印象的です。これらの暗斑は、STBnを流れるジェットストリー ムに乗って、1日当たり約-3°という高速で前進しており、大赤斑とSTBの間の狭 いチャネルに次々に侵入しているのですが、前方で観測されることはありません。 これらの暗斑の運動に関して、2件の興味深いレポートが寄せられています。

ひとつ目は伊賀祐一氏(京都府)によるものです。伊賀氏は一連の暗斑の動きを詳 細に追跡し、小暗斑の一部が大赤斑の南側を通過する際に白斑へ変化しているこ とを明らかにしました。通過後の白斑は、大赤斑の反時計回りの循環に巻き込ま れそうになりながらも、STBnのジェットストリームの流れに戻るという、大変複 雑な動きをしています(図1)。9月28日の太田氏の画像では、大赤斑前方の南熱帯 (STrZ)にカーブした白い条模様が見られ、まるで暗斑から変化した白斑の軌跡を 見るようです。

もうひとつは東京都の榎本孝之氏のレポートで、後方から大赤斑に接近する小暗 斑のいくつかは大赤斑を通過せず、手前を北へと移動し、SEB南組織(SEBs)の淡 い突起模様とマージしたと報告しています(図2)。この位置には、赤斑孔(RS Hollow)を縁取る淡い暗柱があり、暗斑はこれに沿って北へ移動しており、SEBs の突起とマージした後は、STBnとは反対向きのジェットストリームに乗って、高 速で後退した可能性があります。

どちらのレポートも、STBnのジェットストリーム暗斑と大赤斑との相互作用の記 録として、大変貴重なものです。

※木星面の状況

9月下旬から、大赤斑(GRS)の北側の赤斑湾(RS bay)内部で白雲が再び湧出し、注 目されています。今回の活動はかなり大規模なようで、10月にはメタンバンドで 大赤斑の北側が白斑状に明るくなっており、RS bayの輪郭も変形してしまいまし た。南赤道縞(SEB)は、他の経度でも北組織の淡化がさらに進んで、赤道帯(EZ) との境界が不明瞭になっています。ベルト内部に見られるバージ(barge)の痕跡 模様は、最も顕著だった大赤斑後方のものが消失してしまい、II=270°付近のも のだけが青い小暗斑として見られます。

大赤斑は前述の白雲活動により、周囲が明るくなったため、以前にも増して顕著 になっています。相変わらず赤みが強く、外縁部が濃くなっています。永続白斑 BAは、大赤斑との会合を終え、前方に離れつつあります。周囲を暗い縁取りが取 り巻いて、少し小さくなったように見えます。BAが南側を通過している間、大赤 斑はII=154°で停止していたのですが、10月6日の経度はII=158.8°で、再び後 退運動を始めています。

現在、大赤斑の南側では、6月に濃化復活した南温帯縞(STB)の暗部が通過中です。 暗部の長さはあまり変わっていませんが、ベルトが痩せて細くなっています。そ の後方の南温帯(STZ)にあった三角形の暗部は、東西に伸びた細長い暗部に変化 しています。STBにはもうひとつ別の暗部が、II=300°台に見られます。以前は 東西に細長い暗部でしたが、現在では前後2つの暗部に分かれてしまいました。 前半分は長さ25°の濃い暗部で、後半分は緯度が高く、南南温帯縞(SSTB)北組織 と融合しています。

大きく二条に分離したSSTBの内部には9〜10個の高気圧的白斑(AWO)が見られます。 これらは大赤斑やBAよりも速いスピードで前進しており、現在、4個のグループ が大赤斑とBAの南側を次々に通過しています。過去には、大赤斑とBAの会合の余 波で、AWO同士が合体したこともありますので、注意が必要です。

北赤道縞(NEB)は、ベルトの南部でリフト活動が見られます。以前よりも数が増 していますが、活動は小規模です。北部には白斑とバージが散在しています。 II=90°付近にあるWSZと呼ばれる長命な白斑が大きさ明るさとも群を抜いており、 8月末にマージした白斑がそれに続きます。

北温帯縞(NTB)は徐々に淡化しつつありますが、北縁に沿って極めてシャープな 暗斑やストリーク(streak)が残っています。その北側の北北温帯(NNTZ)では、メ タンバンドの画像で白斑が3個見られます。2つは可視光でも明るい白斑ですが、 残るひとつは薄暗い赤色斑点として観測されています。

[図1] STBnの暗斑の運動(その1)
伊賀祐一氏作成の図を筆者改編。
先頭の暗斑が大赤斑の南で白斑に変化している。


[図2] STBnの暗斑の運動(その2)
榎本孝之氏作成の図を筆者改編。
STBnを伝わる矢印の暗斑が、大赤斑の手前でSEBsへと移動している。


[図3] 10月の木星面
(左)大赤斑付近、撮像:風本明氏(沖縄県、50cm)、
(中央)メタンバンドによる木星、大赤斑の北側に明るい部分が出現している、
撮像:山崎明宏氏(東京都、32cm)、
(右)II=300°台の状況、STBの暗部とNTBn〜NTZに注目、
撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)
(拡大)


前号へ INDEXへ 次号へ