天文ガイド 惑星の近況 2011年8月号 (No.137)
堀川邦昭

夜半前の夜空は土星のひとり舞台となっていますが、明け方には木星が高く昇る ようになってきました。

ここでは5月後半から6月前半にかけての惑星面についてまとめます。全国的に例 年よりもかなり早く梅雨に入ったため、ぐずついた天気が続き、観測数は多くあ りません。なお、この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

※南熱帯のディスロケーション現象

今年3月以降、大赤斑(GRS)の前方では、暗いアーチの先端から流れ出したストリ ーク(dark streak)がSEBに沿って観測されていました。ストリークは5月前半ま で長さ30°程度と短かったのですが、その後、急速に伸長して南側へ発達し、20 日頃には大きな台形状の暗部が出現しました。

木星の縞模様は通常「暗いベルト」と「明るいゾーン」で構成されていますが、 時々ゾーンが暗く、ベルトが明るいという逆のパターンが発達することがあり、 このような明暗の逆転現象をディスロケーション(South Tropical Dislocation) と呼んでいます。ディスロケーションは、大赤斑前方の南熱帯(STrZ)を広範囲に 暗化させるストリーク(dark streak)と、南温帯縞(STB)の淡化した区間との組合 せで出現することが多く、1980年代前後に5回観測されています。一見、南熱帯 攪乱(South Tropical Disturbance)のようですが、前後端に循環気流 (Circulating Current)は存在しません。

5月29日になると、暗部はII=100°を中心に約45°の範囲に広がってしまいまし た。本体部分の青く太いストリークは、前端がSTBに届きそうなほど南へ発達し、 後方が傾き下がった暗部となっています。ストリークは細くなりつつ大赤斑のア ーチに続いていますが、途中に軽い段差があり、南から淡いSTB北組織(STBn)が カーブしてつながっていますので、ここが後端と考えられます。

このような様相から、1991年以来20年ぶりにディスロケーションが出現したと考 えられたのですが、6月に入ると意外なことに、この暗部は発達していません。 暗部は1日当たり約-2°の割合で前進し、10日の画像ではII=50〜105°の区間に 見られますが、ストリークの盛り上がりは小さくなり、南縁が乱れてギザギザし ているものの、通常のストリークに戻りつつあるようです。

この日の画像では、II=65°付近のSTBに赤みを帯びた暗斑が出現しているのが捉 えられています。このような斑点は、その色と形状から小赤斑(Little Red Spot)と呼ばれ、ディスロケーションの活動によって形成されたと考えられます。 小赤斑は、過去のディスロケーションでも活動の末期に形成されたことがありま すし、色は違うものの2008年に注目された南温帯(STZ)に目玉暗斑の出現時期も、 前年に観測された南熱帯攪乱の崩壊との関連が疑われるので、注目される模様で す。

[図1] STrZのディスロケーションの発達
左) 大赤斑前方のSEBsが盛り上がりディスロケーションが形成された。
撮像:最上聡氏(31cm、東京都)。
右) 発達したディスロケーションの詳細。撮像:阿久津富夫氏(35cm、フィリピン)


※その他の木星面

SEBは全周で幅広いベルトですが、北赤道縞(NEB)と比較すると、濃度はかなり劣 っています。大赤斑前方の経度では、大きく二条に分かれていますが、南赤道縞 攪乱(SEB Disturbance)中央分枝の活動域だった大赤斑後方では、ベルトの北部 に白斑がいくつか見られ、攪乱活動の名残ではないかと思われます。

大赤斑は赤斑孔(RS Hollow)の状態が続いていますが、6月に入って、南側のアー チが細くなっているので、復活が期待されます。経度はII=165°で、今年初めか らあまり変化していません。昨年まで観測されていた後退運動は、止まったよう です。

NEBは太さがSEBの3分の2程度しかなく、急速に北縁の後退が進んで、ベルトが細 くなっています。WSZを始めとするNEB北部に見られた白斑は、大半が明るい北熱 帯(NTrZ)に露出して判別が難しくなってきました。一方、昨年はベルトの中央寄 りに見られた赤茶色のバージ(barge)は、ベルト北縁の突起として観測され、以 前よりも数が増えて目立つようになっています。

[図2] NEBの太さの比較
昨年と今年の画像をNEBの太さの違いがわかるように並べた。
昨年の画像でNEB北部に埋もれている白斑が、今年はNTrZの白斑として見られる。
復活したSEBにも注目。


北温帯縞(NTB)は全周で淡化して、北組織だけが淡く残っており、II=60°付近に 短い暗部が見られます。木星面最速のジェットストリームによるアウトブレーク (NTBs jetstream outbreak)現象の発生が期待されますが、今のところ兆候あり ません。

土星

北熱帯(NTrZ)の白雲活動は、徐々に衰えながらも続いています。二条になった明 帯は明瞭ですが、白斑や乱れた領域は少なくなり、一様な明るさに見える部分が 多くなってきました。北分枝の明帯の方が細くシャープで、明るい白斑がいくつ か南側に向かって突起を作っている一方、南分枝はやや拡散して幅広く、顕著な 模様は少ないようです。両分枝の間は灰色でベルト状の暗帯になっていますが、 最近、濃度が増しており、かなり濃く見える経度があります。

[図3] 土星のNTrZの微細模様
NTrZのモクモクとした雲が広がる様は、とても土星面とは思えない。
撮像:ダミアン・ピーチ氏(イギリス、30cm)

発生源の白斑は6月3日にIII=27°に観測されていますが、以前よりも輝度が下が って、近くにある他の白斑と違いがなくなって来ています。このひと月の後退速 度は1日当たり+3.0°でした。発生以来、ずっと+2.8°/日でしたので、わずかに スピードアップしたようです。

土星面は全体として暖色系の色調ですが、NTrZだけは青白い感じで、特異な印象 を受けます。また、通常の画像ではぼんやりとして特徴がなくなりつつあります が、高解像度の画像では、南分枝を中心に微細な雲構造で満たされています。土 星でこのような模様はこれまで見たことがありません。土星面のほとんどの領域 は、特徴がなくのっぺりとしていますが、NTrZだけが別世界のようで、極めて印 象的です。

環の傾きは+7.3°と今年の極小を迎えています。年初は+10°くらいありました ので、当時の画像と比べると、環の幅が狭くなっているのがひと目でわかります。 それでも、解像度の高い画像では、カシニの空隙が土星面の手前でもつぶれずに 見えていますし、B環の内側にはC環がはっきりと認められます。3月から4月にか けて話題となったB環のスポーク模様は、5月以降観測されなくなってしまいまし た。


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