天文ガイド 惑星の近況 2011年11月号 (No.140)
堀川邦昭、安達誠

8月後半は台風の影響で悪天続きでしたが、9月は一転して好天に恵まれました。 木星は8月31日におひつじ座で留となり、逆行に転じました。火星は視直径が5秒 近くになり、明け方には東天高く上るようになって、観測が増えてきました。土 星は10月に合を控え、観測はお休みです。

ここでは8月後半から9月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

当観測期間における木星面は概ね静かで、大きな変化は見られませんでした。 post-GRS disturbanceと呼ばれる大赤斑(GRS)後方の南赤道縞(SEB)の活動はすっ かり収まってしまったようです。大型の白斑はほとんど観測されなくなり、ベル トの南半分に乱れた白雲の帯がII=270°付近まで伸びているだけになっています。

[図1] 9月の木星面
左) 赤斑孔と前方のストリーク。NEB北縁の巨大なバージにも注目。
撮像:鈴木隆氏(東京都、18cm)。
中央) 大赤斑後方のSEBは乱れているが、明瞭な白斑は見られなくなった。
撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)。
右) BAと前方の白斑に接近するWSZ(矢印で示した白斑)。
撮像:池村俊彦氏(愛知県、38cm)
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活動域で見られた白雲の一部は大赤斑の北を抜けて、前方に長さ数十度の明るい SEBZを形成しています。白雲は前方に進むにつれて細かい明部に分解して、青み の強いSEB北組織(SEBn)と混ざり合っており、高解像度の画像でこの領域を見る と、何とも形容しがたい様相です。

SEBは一見、以前の濃く安定な状態に戻ったように見えますが、活動は弱く、SEB 南縁のジェットストリームも不活発です。6〜7月に顕著だったpost-GRS disturbanceの白斑群は一時的な活動に終わってしまったのでしょうか?

南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)も徐々に衰えつつあります。ストリー ク自体が淡くなり、SEBとの間がやや明るくなったため、両者の分離が容易にな ってきました。大赤斑前方では、SEB南組織(SEBs)が赤みを帯びて太く明瞭にな り、ストリークよりも優勢になっています。それでもストリークはまだ明瞭で、 大赤斑からII=270°付近までまっすぐに伸び、そこで途切れています。以前はBA 前方で断片的になって乱れていましたが、現在では連続な組織で、濃淡もほとん どありません。

大赤斑は周囲をアーチで囲まれた赤斑孔(RS Hollow)の状態が続いています。 Hollow内部はうす赤く、濃淡はほとんど見られません。経度はII=168°で、ほぼ 静止しているようです。南温帯縞(STB)の淡い断片が大赤斑の南側を通過した後、 大赤斑前方で濃化して、9月には長さ40°程度に成長しています。永続白斑BAは II=324°に位置します。周囲を暗い縁取りで囲まれた楕円白斑ですが、内部がや や薄暗くなって目立たなくなりました。

赤道帯(EZ)は2008年から明化して模様がほとんど見られない状況が4年も続いて います。現在もEZには淡く青みの強い断片的な模様が見られるのみで、明瞭なフ ェストゥーン(festoon)はほとんど見られません。振り返ってみると、2000年以 降のEZは明るい期間が多かったのですが、これほど不活発な状態が続くのは、異 常なことかもしれません。

今シーズンは北赤道縞(NEB)でもリフト活動がなく、ベルト内部はほぼ一様で単 調な様相ですが、NEB北縁から北熱帯(NTrZ)に顕著なバージ(barge)や白斑が並ん で、賑やかになっています。II=150°にあるバージは、7月に2個のバージが合体 した結果、長さが12°もある横長の暗斑に発達しました。鮮やかな茶色の色調と 合わせて、木星面で最も目立つ模様となっています。大型の目立つバージは、 II=230°と270°付近にもあります。当観測期間中、II=70°付近で2個の小さな バージ同士の合体があったようです。8月16日に南北に並んでいた2つのバージが、 18日になると互いの動きに引きずられているかのように変形する様子が捉えられ ています。21日以降は南側のバージだけが残っているので、北側のものは吸収さ れてしまったのかもしれません。

NTrZの白斑はバージに隣接しているケースが多く、明るいゾーンの中でもよく目 立ちます。最も明瞭なのはII=10°にあるWSZと呼ばれる長命な白斑で、高解像度 の画像では周囲の白雲を巻き込んでいるのが見られます。他にも目立つ白斑は II=335°、130°、225°に見られます。II=335°の白斑がほとんど動かないのに 対して、WSZは前進しているため、両者は徐々に接近しつつあります。現在の間 隔は約35°なので、数ヵ月後には白斑同士の合体が観測できる可能性があります。

[図2] NEBの小バージ同士の合体?
阿久津富夫氏撮像・作成(フィリピン、35cm)


北温帯縞(NTB)は全周で淡化していますが、II=0〜120°の範囲では北組織(NTBn) が見られます。北北温帯縞(NNTB)は乱れているものの全周で明瞭で、北温帯 (NTZ)の攪乱領域の名残は消失しつつあります。NNTBの北側の北北温帯(NNTZ)に は、メタンバンドで明るく写る白斑がいくつかあり、II=90°のものは大きく顕 著で、可視光でも白斑としてみることができます。

火星

今シーズンの観測は、5月14日の最上聡氏(東京都)が最初で、9月20日までに、32 日間の観測が行われました。その中で、6月28日に最上氏によって報告された最 初のダストストームが注目されます。MROでもその様子が確認されています(6月 24日発生)。また、地上からの観測はありませんでしたが、7月22日にもダストス トームの発生があり、小さい火星面ですが、目が離せない状態になっています。

[図3] 今シーズン最初のダストストーム
撮像:最上聡氏(東京都、30cm)


9月に入って北極地方の白雲の活動が活発になっています。北極冠が見える時期 になってきました。ただし、まだまだ視直径は小さく、確認するのは難しい状態 です。

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