天文ガイド 惑星の近況 2012年1月号 (No.142)
堀川邦昭、安達誠

木星は、10月29日に衝を迎えました。観測の好機ですが、秋が深まりシーイング の良い日が少なくなっているのが、頭の痛いところです。火星は、夜半過ぎに昇 るようになり、少しずつ観測が増えてきました。

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事 中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

当観測期間も木星面は落ち着いていましたが、大赤斑(GRS)前方に伸びる南熱帯 (STrZ)のストリーク(dark streak)がついに淡化当観測期間の木星面は、概ね落ち着いて静かでしたが、各所でゆっくりと、しか し着実な変化が進んでいます。

まず、大赤斑(GRS)前方のストリーク(dark streak)ですが、予想に反して進行は 遅いものの、中央部分からゆっくりと淡化しており、11月にはBA北側に見られる 大きく盛り上がった部分も不明瞭になりました。このストリークは、画像で見る とまだかなり明瞭ですが、眼視では南赤道縞(SEB)に比べて明らかに淡くなって います。

大赤斑は南側のアーチが健在で、赤斑孔(Red Spot Hollow)の状態が続いていま すが、11月に入って縁取りの北半分が明るくなってきました。色調が異なるので、 赤みを帯びた内部の赤斑本体とははっきりと区別できますが、これもストリーク 淡化の影響かもしれません。

[図1] 赤斑孔とその周辺
大赤斑後方のSEBがやや活発になっている。この軽度のNEB北部も淡化しつつある。
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


大赤斑後方のSEBに見られる活動領域(post-GRS disturbance)が11月初めに活発 化し、長さ約30°ほどの白雲領域が形成されて一時注目されましたが、その後縮 小してしまいました。この領域の活動は、SEBが長期に渡って安定なベルトにな るかどうかの指標となり得るので、今後も注意が必要です。

SEBは全周で濃く太いベルトとして見られます。大赤斑後方では青黒い北組織 (SEBn)が、前方では赤茶色の南組織(SEBs)が顕著で、大赤斑前方では、ベルトの 北部に明帯(SEBZ)がII=30°付近まで伸びて、広範囲に渡ってベルトの北半分を 明るくしています。SEBの中央部では、赤茶色の小型暗斑(バージ)が数個見られ るようになっていて、昨年のSEB攪乱(SEB Disturbance)以前に見られたものと同 種の模様と思われます。なお、メタンバンドによるSEBを見ると、ベルトの北部 が明るく、太さが半分くらいに細くなっています。昨年、SEBが淡化していた時 は、可視光とは反対に暗く太いベルトとして見られましたので、この変化はSEB 攪乱によるものと考えられます。

南温帯縞(STB)は、大赤斑の前方で復活しつつあります。大赤斑の南側に再生ポ イントがあり、濃化したベルトがこの緯度特有の帯流に乗って前方へ移動するこ とでSTBが長くなりつつあります。現在、前端はII=70°付近に達し、約100°の 区間で濃く太いSTBが見られます。しかし、11月に入って再生ポイントが衰えた のか、濃化部の後半分が痩せて細くなってきましたので、今後の変化に注意です。 永続白斑BAは周囲の縁取りが消え、本体も赤みがあり薄暗いので、あまり目立ち ません。

[図2] 淡化し始めたSTrZのストリーク
II=300°付近NEBの太さを比べた。昨年と比べると、約1/3に細くなっている。
撮像:風本明氏(京都府、31cm)、吉田知之氏(栃木県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)


北半球では、昨年に比べて著しく細くなった北赤道縞(NEB)が、さらに細くなる 兆候を示しています。木星面で最も目立つII=130°にある巨大なバージ(barge) から約半周の区間で、ベルトの北側が淡くなって、太さがわずか5°と、現在の 6割程度になりつつあります。昨年のNEBは14〜15°もありましたので、1年の間 に3分の1近くに細くなってしまったことになります。これほど細くなった状態の NEBは、少なくともこの30年間では観測されていません。淡化部分はまだ完全に は消失しておらず、薄茶色の領域として見えており、バージの前後では本来の NEBが残っていますが、じわじわと淡化が進行しているようです。このため、元 のベルト北縁にあったバージは、著しく北熱帯(NTrZ)に突出して見えます。

NEBの北側でも縞模様の淡化が進んでいます。北温帯縞(NTB)は元々南組織(NTBs) がほぼ消失し、痕跡が青いすじとして残るだけでしたが、北組織(NTBn)も徐々に 淡くなり、II=0〜130°の区間を残してほとんど見えなくなっています。また、 少し前まで明瞭だった北北温帯縞(NNTB)も全体的に淡化して、不明瞭になってい ます。なお、当観測期間はNNTBの南縁(NNTBs)に沿って小さな暗斑群が観測され ています。これらはNNTBsの流れるジェットストリームに乗っており、高速で前 進しています。

火星

火星のLsは10月16日に16°になり、北半球は春分(Ls=0°)を少し過ぎたところで す。視直径は5.5秒で、11月15日には6秒台に入りました。観測開始時と比べれば 1.5倍近くになり、眼視観測でも模様が見えるようになっています。当観測期間 の火星面は北極冠が目立ちますが、ダストストームなどの特別な現象はなく、穏 やかな表面を見せています。報告されてくる画像は視直径の増大と共に、次第に 模様が鮮明に記録されるようになってきています。

眼視では、明るく大きな北極冠が目立ちます。暗い模様では、シルチス(295W, +10)やアキダリウム(30W, +50)などの大きな模様が正面を向いているときは、そ の姿をはっきり見ることができるようになってきました。

北極冠を取り巻く地域は暗いバンドになって見えていますが、西経60°から130° あたりまでは、その他の地域よりもバンドの幅は狭くなっており、見えにくくな っているようです。

11月2日のウォーカー氏(Sean Walker、アメリカ)の観測では北極冠がドーナツ状 に見える様子が記録されています。地球から観測すると、極付近が暗く写り、極 冠は周辺のほうが明るい姿が観測できます。

10月21日にはフランスのプポー氏(Jean Jacques Poupeau、フランス)が夕方のオ リンピア山(135W, +25)やタルシス(90W, +5)の3つの火山にかかった白雲を見事 に記録しました。眼視では厳しいですが、画像では記録されています。これから 北極冠が縮小するにつれて、次第にはっきりしてくるものと思われます。

[図3] 火星の火山にかかる雲と北極冠
左) 中央から左に点在する白雲が火星の山にかかる雲。
撮像:ジーン・ジャック・プポー氏(フランス、35cm)
右) 北極冠の中央が薄暗く、ドーナツ状に見える。
撮像:シーン・ウォーカー氏(アメリカ、32cm)


南半球で目立つのは、白く明るく見えるヘラス盆地(295W, -50)やアルギレ盆地 (35W, -50)です。ヘラスやアルギレは、いつもこのLsでは白雲に覆われることが 知られています。特別な状態ではありません。

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