天文ガイド 惑星の近況 2012年2月号 (No.143)
堀川邦昭、安達誠

冬の季節風が吹き出し、シーイングの悪い日が多くなりました。木星はまだ観測 の好機ですが、解像度の高い画像は少なくなっています。一方、火星は8日に西 矩を過ぎ、いよいよ観測シーズン到来です。明け方の東天には土星も姿を見せて います。

ここでは11月後半から12月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事 中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

木星の北半球では、約半周の区間で模様がほとんど見られなくなっています。北 赤道縞(NEB)は、II=130°にある巨大バージ(barge)からII=330°の北熱帯(NTrZ) の長命な白斑WSZの間で細化が進み、太さが去年の3分の1程度になっています。 このため、この区間にある3個のバージはベルトから分離して、明るいNTrZの中 の孤立した暗斑に変化しかけています。淡化したベルトの北部には、まだ薄茶色 が残っていますが、このひと月でかなり淡くなってきました。残る区間でも北縁 が少し淡くなっているので、この区間にも細化が波及する可能性があります。

[図1] 11月末〜12月初の木星面展開図
クリストファー・ゴー氏(Cristopher Go、フィリピン)の画像から筆者作成。SEBが全周で顕著なのに対して、北半球は、区間Aではまだ縞模様が見られるものの、区間Bでは模様に乏しくなっているのがわかる。


NEBの北側でも、10月頃まで比較的明瞭だった北組織(NTBn)と北北温帯縞(NNTB) が淡化しつつあります。II=150°から0°の区間では、痕跡状のすじ模様が残る のみで、条件が悪いとほとんど模様を見ることができません。ただし、それ以外 の区間では、NTBnが右下がりの傾いた暗条として見えていますし、NNTBも2ヵ所 で濃い断片が残っています。

NEBの細化とNTB、NNTBの淡化は、ほぼ同じ経度範囲で起こっていて、木星の片面 では、細くなったNEBの北には模様がほとんど見られません。一方、残る片面で は以前の縞模様が残っているため、まるで北半球が二つの区間に分割されてしま っているように見えます。

南半球に目を向けると、対照的に縞模様が顕著です。大赤斑(GRS)の前方に伸び る南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)は、期待したほど淡化が進んでいま せん。このひと月で前端部分がやや衰えましたが、その他はほとんど変化なしで す。大赤斑の南にかかるアーチはまだ顕著で、赤斑孔(RS Hollow)の状態が続い ていますが、内部は濁って薄暗く、かなり赤みがあります。大赤斑後方の南赤道 縞(SEB)には、約30°の範囲で乱れた白雲が見られます。時々、明るい白斑が出 現するなどの消長はありますが、それほど激しい活動はありません。その後方で、 青黒い北組織(SEBn)が厚く続く一方、大赤斑前方では、赤茶色の南組織(SEBs)が 顕著です。この色調の違いは全周に及んでいて、カラー画像ではSEBが南北に分 断されているように見えます。

現在、木星の縞模様は南半球に片寄っているように見えます。昨年はSEBが淡化 して南半球の方が明るかったのですが、わずか1年で逆になってしまいました。 木星面の変化の激しさには驚かされるばかりです。

火星

しし座の火星は、夜半前に東の空から昇ってくるようになりました。次第に明る くなり、1等星として見えるようになっています。火星の季節を表すLsは12月1日 に37°になり、視直径は7秒台に入りました。年末にはほぼ9秒になりますので、 眼視でも表面の様子がはっきり捉えられるようになるでしょう。Deは+23°と、 北極地方が地球を向いているため、北極冠がはっきり見えるようになりました。

[図2] 11月から12月にかけての火星面
(左)明瞭な北極冠 撮像:山崎明宏氏(東京都、28cm)、
(中央)アキダリウム北方の暗部 撮像:ピエトロ・デ・グレゴリオ氏(イタリア、23cm)、
(右)火山上の山岳雲撮像:デニス・パット氏(オランダ、23cm)


北極冠の形成時には、ドーナツ状の白く明るい帯として極を取り巻いていました が、現在は全体が白く輝く見応えのある北極冠になりました。ただし、高解像度 の画像では、まだドーナツ状の帯が確認できます。また、北極冠の形成時には極 冠を取り巻く暗いバンドが出現しますが、今回も非常に顕著です。11月20日には フランスのプポー氏(Jean Jacques Poupeau)が、アキダリウム北方に周囲よりも 暗い部分を記録しています。青画像では北極冠の南側の顕著な暗部として写り、 同じものがプロポンティス(180W, +45)の北側にも見られます。大きな暗い模様 の上にできることが多いので、乾燥して晴れている領域と考えられます。

まだ、視直径は小さいですが、今月は成層火山の上にできた山岳雲が多くの観測 者から報告されました。11月28日には、オランダのスーセンバッハ(John Sussenbach)氏がオリンピア山の白雲の下に、山頂の赤黒い斑点状の模様を記録 しています。その他、タルシスの3つの成層火山や、エリシウム山でも同じよう に白雲が記録されています。これらの火山の雲は火星の午後半球で明瞭です。

暗い模様に目立った変化は認められず、ノーマルな火星面に見えますが、細部に ついてはまだ一部しかつかめていません。来月には報告できるものと思います。

土星

土星は環の傾きは約15°となり、大変バランスの良い土星らしい美しい様相です。 カシニの空隙が土星の前面でも途切れずに、取り巻いて見えるようになりました。 昨シーズン、史上最大規模の白雲活動が見られた北半球では、中央に大変幅広い ベルトが広がっています。北熱帯(NTrZ)が暗化して、北赤道縞(NEB)から北温帯 縞(NTB)までが一体となって見えているようです。NTrZにはかなり濃淡があるの で、活動がまだ続いている可能性もあります。北半球の縞模様は全体として灰色 をしていて、色調に乏しい印象を受けます。

[図3] 環が開いた土星
本体中央の暗い帯が昨シーズンの白雲活動の名残。
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


今シーズンの土星は、小接近する火星の東側に位置しますので、多くの観測者が 望遠鏡を向けることでしょう。

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