天文ガイド 惑星の近況 2012年3月号 (No.144)
堀川邦昭、安達誠

この時期は一年で最もシーイングが悪く、惑星観測には辛い季節です。火星は最 接近まで2ヵ月を切り、視直径は10秒を超えました。土星も西矩が近くなり、だ いぶ高く昇るようになっています。一方、木星は年末の12月26日におひつじ座と うお座の境界付近で留となり、東矩がまもなくです。

ここでは12月後半から1月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事 中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

今シーズンは、北赤道縞(NEB)が著しく細くなって注目されています。細化はII= 120°付近にある巨大なバージ(barge)から、II=325°のWSZの間の区間で進んで いましたが、12月半ば以降、残っていた区間でもベルトの北縁が淡化し、細化は ついに全周に及んでしまいました。現在、NEBは幅が5°弱しかありません。この 結果、以前はベルトの北縁にあったバージは、完全にNEBから分離し、幅広くな った北熱帯(NTrZ)に取り残されてしまっています。このような異常な状態は、過 去40年以上、観測されたことがありません。

北温帯縞(NTB)から北側の状況は、前回のレポートからほとんど変わっていませ ん。II=300〜180°の区間では、NTB北組織(NTBn)が後方ほど北よりに傾いた条模 様として明瞭に見られ、北北温帯縞(NNTB)にも細長い暗部が2ヵ所あります。そ れ以外の経度では、NTB、NNTBとも淡化して縞模様がほとんどなくなっています。

当観測期間は、大赤斑(GRS)後方の南赤道縞(SEB)の白雲活動(post-GRS disturbance)が活発になり、注目されます。この領域では、元々白雲活動が続い ていましたが、12月以降活動的になり、長さ40〜50°の右上がりに傾いた明部に 発達しました。内部には、大型の白斑がソラマメのように並んで、1980年代のこ の領域を彷彿とさせる様相になっています。

[図1] 大赤斑後方の活動域と全周で細化したNEB
左) 左端の大赤斑から白雲の活動域が伸びている。
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
右) 中央の巨大なバージ前方でもNEBが細化している。
撮像:畑中明利氏(三重県、40cm)


一方、大赤斑の前方に伸びるストリーク(dark streak)には、ほとんど変化が見 られません。一時、淡化の兆しがありましたが、その後ほとんど進展していませ ん。薄暗いストリークがII=280°にある永続白斑BA付近まで伸びていますが、条 模様というよりは、南熱帯(STrZ)の北半分が灰色に暗化したように見えます。大 赤斑の南を囲むアーチは健在で、大赤斑後方にも青黒いすじが30°ほど伸びてい ます。これもストリークの一部かもしれません。

大赤斑後方とは対照的に、前方のSEBは静かです。南組織(SEBs)が厚く濃く、南 縁も平坦で凹凸は見られないので、SEBsのジェットストリームは全く活動してい ないようです。ベルト北部に伸びる薄暗いSEBZでは、II=90°付近に、比較的明 るい大型の白斑があり、暗いベルトの中で目立った模様になっています。

大赤斑前方で復活した南温帯縞(STB)は、暗部の前端がII=40°に達しています。 暗部はII=90°付近で前部と後部に分離しており、後部はやや南側に寄っていま す。後端部はついに大赤斑の南から離れ、II=130°付近に移動してしまいました。

昨年の今頃の木星面は、南赤道縞攪乱(SEB Disturbance)が活動中でしたが、SEB はまだかなりの経度で淡化状態にありましたし、NEBも幅が14〜15°もある太い ベルトでした。それがわずか一年の間に、SEBは濃化復活し、NEBは太さが3分の1 になるという劇的な変化を遂げています。木星は激しい活動を続けている生きた 星であることを実感させられます。

火星

新年となり、火星はしし座の後ろ足付近まで進んできました。季節を表すLsは50° と初夏を迎えており、北極冠がとてもよく見えています。明るさは0等級、視直 径は10秒になりましたので、火星面の詳細をとらえた画像が報告されてくるよう になっています。

気流の良い時の北極冠は、外縁部がリング状に明るくなっています。また、 W= 140°、180°などでは、北極冠の端に光点が見られます。極冠が小さくなってい く過程で見えてくるもので、多くはクレーターと関連しています。通常の撮像に 加えて、露光を北極冠に合わせたり、焦点を光点に合わせた画像が得られれば、 詳細をつかむことができると思われます。

[図2] 年明け早々の火星面
(左)北極冠のリング模様、撮像:ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)。
(中央)氷晶雲の出現、撮像:テジェラ・ファルコン氏(スペイン、28cm)。
(右)大シルチス付近、撮像:ジム・フィリップス氏(米国、25cm)


北極冠が小さくなってくると、低緯度地方に氷晶雲が出てきます。今回は夕方や 明け方の明暗境界付近に、氷晶雲の存在を示す画像がたくさん報告されています。 特に、シルチスの東方にあるイシディス(268W, +23)付近などは、毎回のように 氷晶雲の存在を確認することができます。この様子はフィルターを組み合わせた 眼視観測でも捉えられています。

それに伴い、午後半球の画像では、火星の成層火山にかかる山岳雲が、見事に捉 えられています。とりわけ、オリンピア山(135W, +25)は、山頂のクレーター部 が暗赤色に見え、山岳雲がたなびいている様子が記録されました。

暗色模様には目立った変化は見られませんが、シルチスとボレオシルチスが見え ている時は、南北に大きな模様がドンと見えて、見る側を楽しませてくれます。

3月6日の最接近まであとわずかになりました。国内は気流に恵まれない日が多い と思いますが、これからが絶好の観測期になります。たくさんの観測を期待して います。

土星

シーイングの悪いこの時期に、高度40°程度の土星を観測するのはかなり厳しく、 海外を含めて土星面の詳細を捉えることはできていません。12月28日の熊森氏の 画像が最もシャープですが、それでも土星面はのっぺりして、目を引く模様は全 く見られません。

土星面の中央を東西に横切っている幅広い縞は、先シーズン激しい白雲活動が見 られた北熱帯(NTrZ)が暗化し、北赤道縞(NEB)から北温帯縞(NTB)までが一体とな ったものです。11月頃まで濃淡が見られましたが、現在はNTrZがやや明るいのみ で、これといった特徴は見られません。縞自体の濃度も、以前より落ちているよ うで、NTrZの活動は終息に向かっていると思われます。

[図3] 12月末の土星
白雲活動の名残の暗帯は徐々に濃度が落ちて来ている。
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)


環の傾きは約15°で、もうすぐ今シーズンの極大を迎えます。カシニの空隙が明 瞭で、シーイングの良い画像ではC環を見ることもできます。

前号へ INDEXへ 次号へ