天文ガイド 惑星の近況 2012年6月号 (No.147)
安達誠、堀川邦昭
衝を過ぎた火星は、夕方の東天に昇るようになり、観測の好機が続いています。 火星に続いて東南の空に昇る土星は、4月16日に衝を迎えます。ようやく観測が 増えてきました。木星は5月に太陽と合となりますので、観測シーズンは実質的 に終了となりました。

ここでは3月後半から4月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

衝からひと月過ぎ、4月17日には早くも留となります。地球からも次第に遠ざか り、望遠鏡で見る火星像は完全な円盤ではなく、西側が欠けているのがわかるよ うになりました。北極冠は非常に小さくなりましたが、気流がよくなると周囲を 取り巻く暗いバンドの中で明るく輝いています。

【南半球の不可解な雲】

3月21日にアメリカのイェシュケ氏(Wayne Jaeschke)から、火星のターミネータ ー(欠け際)に、かなりの高さの不思議な雲が報告されました(図1)。すぐに世界 中の観測者が確認観測を行いましたが、残念なことに日本から見えない位置にあ り、国内では追跡できませんでした。この雲は奇妙な雲で、南半球高緯度の朝方 (西縁)にあり、通常の雲よりはるかに高い所に出ているように見えます。よく見 られるダストストームではないし、通常の氷晶雲でもないようです。

[図1] 火星の縁から突出した雲
最大の雲を捉えた画像、6回中5回がこの地域で発生。撮像: Donald Parker氏(米国、35cm)

3月21日以前の画像をチェックすると、イェシュケ氏が観測する前にも同じよう な雲が撮像されていることが判明しました。最初の観測は3月12日で、フランス のデルクロワ氏(Marc Delcroix)とジャクソン氏(Michel Jacquesson)の二人が、 明瞭な突起模様(projection)として記録していました。また、19日にもイェシュ ケ氏自身とプエルト・リコのリベラ氏(Efrain Morales Rivera)が別の活動を記 録しており、問題の21日の観測は3回目であることがわかりました。さらに過去 の記録を見ると、2003年11月8日に、沖縄の宮崎勲氏がよく似たものを観測して いますし、古くは1950年代にも日本で同様の観測があることが分かっています。

その後も同じ現象が4月6日、9日、12日と観測され、現時点で6回記録されていま す。発生経度を整理すると、ほとんどが西経240〜270°に集中していることがわ かります。また、火星の季節を表すLsは、南半球の冬至を過ぎて火星表面が冷え ている時期と重なり、このような条件が、発生の原因のひとつとなっている可能 性があります。もし、ダストに関係があるならば、高層まで運ばれた塵は簡単に 地表まで落ちずに上層大気に拡散するはずですが、この雲は発生した翌日に見え なくなることもあり、塵ではないように思われます。本当に不可解な雲です。

この現象は海外でも注目されていますが、未だに成因についての見解が出ていま せん。今後の進展が注目されます。

[図2] 4回目の突出雲
この時だけは他の5回と異なる場所で出現した。撮像:Donald Parker氏 (米国、35cm)

【その他の状況】

縮小の進んだ北極冠は、周囲を取り巻く暗いバンドが目立ちます。先月はバンド の中一杯に広がっていましたが、今月はこじんまりと白く輝いています。好条件 下の画像では、大きな割れ目がはっきりと記録されますし、眼視で捉えることも 可能です。

タルシスの3つの成層火山やオリンピア山などの高い山は、火星の午後半球では 山岳雲がかかり、白く輝いて見えますが、午前半球では、赤黒い斑点として眼視 でもはっきりと確認できます。今回の接近は、低緯度地方の氷晶雲の広がりがと りわけ大きい接近となりました。

[図3] 火星火山と極冠の割れ目
中央左の黒点が成層火山。北極冠中央に割れ目が見える。撮像 :熊森照明氏(大阪府、28cm)

木星

3月12日に出現した北赤道縞(NEB)のリフトは乱れた明帯へと発達しました。4月 は観測条件が悪くなり、詳細は確認できなくなってしまいましたが、体系IIに対 して急速に前進しながら、東西に伸長しています。図4の組画像を見ると、リフ ト領域前端付近のNEB南縁に2個の青黒い暗斑があり、4月上旬にはII=320°付近 に達しています。一方、後端はII=50°付近に位置しているので、リフト領域全 体の長さは90°にもなります。

[図4] NEBのリフト活動の発達
月惑星研究会の観測から伊賀祐一氏作成。撮像:永長英夫氏(兵庫県、 30cm)、池村俊彦氏(愛知県、38cm)、Wayne Jaeschke氏(米国、35cm)、 Freddy Willems氏(米国、35cm)、Javier B. Javini氏(スペイン、46cm)

今回のリフト活動が淡化したベルト北部に広がれば、NEBを濃化復活させる「NEB 攪乱」が100年ぶりに見られるかもしれないと先月書きましたが、現在のところ、 活動は細いNEB内部に留まっていて、単なるリフト活動の域を出ていないようで す。ただし、II=200°前後のNEBは極めて細く淡くなっているのに対して、リフ ト領域ではやや拡散して太く見えるので、活動の影響があるのかもしれません。

NEBの細化によって北熱帯(NTrZ)の孤立した暗斑となっていたバージが、リフト 活動が始まる少し前から衰え始めています。今回の活動と関係があるかよくわか らないのですが、まもなく消失してしまうのではないかと思われます。

今後の変化が気になるところですが、合で観測できない間にNEBが濃化復活する 可能性は残っていますので、明け方の東天で木星の観測が再開されたら、NEBの 太さに注目しましょう。

土星

土星面を見ると、北赤道縞(NEB)から北温帯縞(NTB)までが、薄茶色のベルトに見 えます。シーイングが良いと中央の北熱帯(NTrZ)がやや明るく見えますが、不規 則な淡い濃淡があり、強調処理された画像では微小な白斑や、うねった明部が至 る所にあります。

その北側には、色調豊かなベルトやゾーンが並び、特に北北温帯縞(NNTB)が、強 く赤みを帯びているのが目につきます。かつて南極が大きくこちらに傾いていた 2000年代前半に、同様のパターンが南半球で見られたことを考えると、これは土 星の季節変化なのでしょう。なお、今月はIII=50°付近のNTZ南部とIII=313°の NNTB内部で白斑が観測されました。

[図5] 北温帯の白斑
NTZ中央に淡い白斑が見られる。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)

今月は環の衝効果(ハイリゲンシャイン現象)により、B環の輝きが増しています。 衝効果は毎シーズン観測される恒例の現象ですが、今年は環が開いた分大変鮮や かです。

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