天文ガイド 惑星の近況 2012年9月号 (No.150)
堀川邦昭、安達誠

木星は合から2ヶ月が経過しました。観測条件はまだよくありませんが、北半球 で起こった大異変に注目が集まっています。東矩を過ぎた火星はおとめ座に入り、 土星に接近しつつあります。土星は6月26日に留、7月12日に東矩を迎えましたが、 どちらの惑星も梅雨入りとともに観測数が減っています。

ここでは6月後半から7月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

木星面では北半球に大変動をもたらした活動が今も続いています。

[図1] 大赤斑とBA
NEBからNTBにかけての混沌として様子にも注目。撮像:Christopher Go氏(フィリピン、35cm)

北温帯縞南縁のジェットストリームでアウトブレーク(NTBs jetstream outbreak) が発生してから、まもなく3ヶ月となります。激しい活動は一段落して目立つ白 斑や暗斑は姿を消し、直線的で鮮やかなオレンジ色のNTB南組織(NTBs)が目を引 きます。濃化が及んでいない区間がI=20〜80°の範囲に残っているようですが、 7月中には活動が全周に及ぶことでしょう。NTBはほとんどの経度で二条になって おり、灰色の北組織(NTBn)が見られます。NTBnはII=200°台で徐々に北へ傾き下 がり、II=300°付近のNTBはSEBに匹敵するほどの幅があります。

リフト活動で攪乱状態となった北赤道縞(NEB)は激しく乱れていています。南組 織(NEBs)は濃く明瞭ですが、NEB中央から北熱帯(NTrZ)は薄暗く混沌としており、 ベルトの北縁を判別することができません。青黒い暗塊やストリークのような模 様が数多く見られますが、NEBの活動に由来するのか、NTBsのアウトブレーク由 来なのか不明です。高解像度の画像で見ると、この領域には「逆くの字」型をし たフィラメント模様がびっしりと並んでいます。体系Iで流れる赤道領域から、 NEB北縁の遅い流れを経由し、NTB南縁の最速ジェットストリームへと続く木星面 の風速分布がそのまま見えてしまっています。

NEBの攪乱活動は、赤道帯(EZ)にも影響を及ぼしていて、NEB南縁に多数見られる 青黒い暗部から、EZに向かってフェストゥーン(festoon)が伸びています。また、 I=200〜40°の範囲では赤道紐(EB)が顕著で、NTBsと同様、鮮やかなオレンジ色 をしていますが、EZ北部(EZn)やEZ南部(EZs)では、それほど強い色調は見られな いので、ちょっと不思議な感じがします。

[図2] 大赤斑前方のストリーク
ストリークが大赤斑前方で途切れている。 撮像:前田和儀氏(沖縄県、50cm)

南半球では南赤道縞(SEB)が、木星面で最も濃いベルトとして目立っています。 南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)は、II=40°から後方で斜めに傾き下が る組織として見られますが、7月に入って後端が大赤斑から離れ初め、現在は30° ほど前方で途切れています。ストリークは大赤斑を離れると急速に衰えるので、 今回の活動もまもなく終わると思われます。今回は1年以上存続し、この種の模 様としては極めて長命でした。大赤斑(GRS)はII=180°にあり、南側のアーチが 弱まり、本体が淡く見えるようになっています。後方のSEBでは、白雲の活動領 域であるpost-GRS disturbanceが長く伸びています。また、II=240〜0°の区間 ではSEB南縁(SEBs)が凸凹していますので、SEBsの後退暗斑群がついに活動を始 めたようです。

大赤斑の30°後方にある永続白斑BAは、赤みの強いリング状の斑点となっていま すが、周囲に暗い模様がないため、まるで暗斑のようです。南温帯縞(STB)はII= 240〜340°の区間で濃く太く、その前方でも大赤斑までの間は北組織(STBn)が明 瞭ですが、ストリークのある大赤斑前方ではほとんど見えません。面白いことに SEBsの暗斑群もストリークの経度では見られないので、ストリークの存在は、こ の領域が通常とは異なる状態にあることを示しているかのようです。

[図3] SEB南縁の暗斑群
SEB南縁が暗斑群で凸凹している。EBがオレンジ色で顕著。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)

火星

火星の視直径は6秒台まで小さくなり、光度も1等級と、近くにある土星とほぼ同 じです。国内は梅雨のまっただ中のため観測数は激減してしまい、火星面の状況 を把握するには、海外の観測を頼るしかありません。

北極冠は画像では小さく白く観測できますが、シルチス(295W, +10)が見える経 度では、明るい部分が2つになった姿が記録されています。エリシウムの北側に は、北極冠を取り巻く暗いバンドの外側に霜と思われる明部が、淡く黄色っぽく 見えています。おそらくヘイズに覆われていると思われます。

[図4] 北極冠の様子
北極冠が二つに分離して見える。撮像:Freddy Willems氏(米国、35cm)

北極地方には小規模な砂嵐がときどき起こっているようで、これにともなう軽微 な模様の変化が見られます。ウートピア(260W, +53)北側の普段は暗くみえる領 域が、一部淡くなっている様子が記録されています。ただ、視直径が小さく、安 定した観測報告が少ないため、地域や時期の特定はきわめて難しい状態です。

表面の雲は先月と同じくヘラスが目立っています。南の端に位置しているため、 詳しい様子は分かりませんが、盆地の内側にそって明るく見られます。エリシウ ムやオリンピア山などの山にかかる雲はいぜんとして記録されており、前月と大 きな変化はみられませんでした。

[図5] ウートピアの明部
ウートピア内部に白い条が見られる。撮像:Wayne Jaeschke氏(米国、35cm)

土星

観測数が大きく減り、シーイングも不安定なため、土星面の詳しい状況はわから なくなっていますが、前回と比べて大きな変化はないようです。どの画像でも北 赤道縞(NEB)の南部は赤みはあり、赤道帯(EZ)も黄土色なのに対して、NEB北部か ら北側では青〜灰色の色調が広がって特徴に乏しく、唯一、北温帯(NTZ)だけが 明るいゾーンとして見られます。白雲活動の影響を受けたNEB北部から北温帯縞 (NTB)にかけては、ほぼ一様な灰色の領域で、北熱帯(NTrZ)は薄暗い状態が続い ています。

[図6] 最近の土星面

撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)

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